第110話・プレゼント
必要な買い物を終え、全員がウーマ車の居る停車場へ集まった昼、移動するウーマ車の中で荷崩れを起こさないよう時間をかけて荷物を固定したあと、アースラたちは円形城塞都市リーヤをあとにし、カルミナ村へ帰り始めた。
「シャロ、帰りの警護も基本的に行きと変わらんが、大量の荷物を積んで速度が落ちる分、行きよりもモンスターと戦う回数は増えるだろう。だから帰り道で遭遇したモンスターの迎撃は全てお前に任せて、俺はウーマ車の防衛に徹する。モンスターが現れた時の指示は俺が出すから、お前は素早くモンスターを倒すことだけを考えろ」
「分かりました」
返事を聞いたアースラはすぐに周囲の警戒を始め、シャロも狭くなった荷車の後方から顔を出して周囲を警戒し始めた。するとそれを見たニアも荷車から顔を出し、遠くを見始めた。
「どうしたのニアちゃん?」
「私もシャロお姉ちゃんと一緒に見張りをする」
「そっか、それじゃあニアちゃんには左側を見ててもらおっかな」
「分かった、ニアに任せて」
「うん、でも場所によっては大きく揺れるから、落ちないように気をつけてね」
「うん」
ニアは近くにある荷車の幌部分を左手でギュッと掴み、とても真剣な表情で頼まれた左側を見始めた。そしてそのままウーマ車が進むことしばらく、シャロと一緒に周囲を警戒していたニアが口を開いた。
「シャロお姉ちゃん、ニアが作った香水お父さんが買ってたのと違うけど、お母さん喜んでくれるかな?」
「絶対に喜んでくれるよ、だってニアちゃんが一生懸命に作ったんだから」
「そうかな?」
「うん、絶対に喜んでくれる、だから心配ないよ」
「そっか、シャロお姉ちゃんがそう言うなら大丈夫だよね。そうだシャロお姉ちゃん、ちょっとだけごめんね」
ニアは素早く顔を引っ込め、近くに置いていた自分の荷物袋に手を入れ、そこから綺麗な小瓶を取り出した。
「えっとね、これシャロお姉ちゃんにプレゼントだよ」
「えっ、私に?」
「うん、お母さんの香水を作ったあとに、シャロお姉ちゃんの分も作ったの」
「もしかして、それで時間がかかったの?」
「うん、シャロお姉ちゃんにピッタリの香水を作りたかったから」
ニアの話を聞いたシャロは、これまでの人生で一番の嬉しそうな笑顔を見せながら差し出された小瓶を受け取った。
「そうだったんだ……ありがとねニアちゃん、凄く嬉しいよ。でもそんな話を聞くと、なんだか使うのがもったいないなあ」
「大丈夫だよ、使ったらまたニアが作ってあげるから」
「ホント? それなら使っても安心だね」
「うん! だからちゃんと使ってね」
「分かった、ちゃんと使わせてもらうね」
「良かった……あっ! シャロお姉ちゃん、あっちから何か来てるよ!」
ニアが指差した方をシャロが見ると、広がる荒野の遠くから迫るモンスターの群れが見えた。
「ホントだ、師匠! 左後方からモンスターの群れが迫ってます!」
「分かった! ウーマ車の速度を落としてもらうから、ある程度速度が落ちたら迎撃に出ろ!」
「はいっ!」
こうしてウーマ車の速度が落ちたあと、迎撃に出たシャロによってモンスターの群れは倒された。そしてその後もニアとシャロが迫るモンスターをいち早く発見することで素早い対処がなされ、アースラたちは予定よりも早くカルミナ村へ到着することができた。




