第六十話
時は遡り、数時間前。
OF事務所では、作戦直前の最終確認が行われていた。
「国立魔術博物館の館長は、魔術界において重要な役割を果たしてきた人物だ。 もちろん、様々な人物との繋がりもある」
もしも、その館長がゾルヴァン、ひいてはその裏にいる人物、組織と繋がりがあるなら、博物館にゾルヴァンが逃げてもおかしくない。
「ということで、伏見和佑には任務を与える。 『国立魔術博物館の内部と組織構造の把握』だ」
「了解しました」
「和佑さん、装備は揃いました」
遠見が持ってきたハードケースを開けると、中にはこれでもかというほどの銃火器が揃えられていた。
「お好みのものを、全て調整済みです」
「ありがとう」
戦場となり得そうな場所、状況などに対応できる装備を選び、スニーキングスーツの各所へ装備する。
あの時は、突発的戦闘で装備も乏しかったが、今度は万全の状態で挑む。
確実に、仕留めるためにも。
装備をし終わると、ルミハ部隊の時に使っていた通信機を渡される。 ホログラムマップにコンディションなども確認できる優れものだ。
これで装備は完璧。 あとは現場に向かうだけだ。
「それで、どうやって博物館に? チケットを買って入場するわけにもいかないでしょう」
「もちろんだ、このマップを見るとわかるが、下水道がある。 そこを通り抜ければ、配管室のすぐ近くへ出れる」
「うえ、また下水道からか」
「到着後は私から指示を出します、ルート等も状況に応じて変化しますので」
「了解」
「いいか、くれぐれも――――」
未悠さんがじっと目を見据えてくる。
これは、冗談を言うような話じゃない。
「相手に感情を持つな。 なんであれ、敵は敵だ」
「それは……一体……?」
「よし、ヒトゴマルマルから作戦開始だ」
未悠さんの言葉の真意はつかめないまま、作戦準備に入ってしまった。
だが、ゾルヴァンはこれ以上ない危険人物だ。俺が倒すには、それだけで十分だ。
***
「魔術の歴史面白かったねー」
「学校の宿題のわりに良かったー」
こもった声で頭上から学生の声が聞こえる。
どうやら、俺がマンホールにいることは誰も気づいていないようだ。
平日の昼間、これから客足が増えてくる頃だ。 忙しい間に、さっさと潜入しよう。
『和佑さん、通信、大丈夫ですか』
「オールグリーン、完璧だ」
『この先を北東方面に進んでください。 そこにあるマンホールを外せば、配管室です』
下水道をゆっくりと進んでいく。
ここの博物館、建物として大きく二つあり、展示用の建物、それに併設するように職員用の施設がある。
そして、職員用の施設の見取り図は公開されておらず、機密情報に近いようになっている。
何かを隠したいのか、ともかく潜入しながらのマップ探索が必至になる。
進み続けると、梯子があり、マンホールが見える。
『気を付けてください、配管室に担当警備員がいるようです』
「了解」
耳を研ぎ澄ませると、鼻歌と足音がする。
一人だけ、周囲に人はいないようだ。
ゆっくりと梯子を上っていき、マンホールぎりぎりまで上る。
そして、ナイフでマンホールを数回、強くたたく。
「ん? 何の音だ?」
もう一度、音を鳴らす。
ゆっくりと近づいてくる足音。
ナイフを仕舞い、腰に手をかける。
「マンホールからか?」
と、警備員がマンホールを覗き込んだ瞬間。
マンホールの換気用の穴に拳銃を付け、覗き込んでいる頭に向かって零距離射撃。
「あうっ」
サプレッサーの静かな音と、麻酔が頭に入ったことを知らせる間抜けな声。
どうやら、しっかりと眠ったようだ。
マンホールを外し、下水管から脱出する。
眠っている警備員をロッカーに押し込み、配管室を探索する。
『配管室なら、配管の地図がありませんか?』
「地図地図……あった」
小さな机の横に大きめの巻物のような地図が積んであった。
どうやら、1~3階の配管地図のようだ。
『端末で読み込んで、こちらへ送信してください。 解析して、大まかな地図データにアップデートします』
「読み込んだぞ」
地図を広げ、端末をかざすと写真のようなものを自動的に撮ってくれる。
これで探索も容易になるだろう。
『マップデータ更新しました、でもこれ……?』
「どうした?」
『とんでもないくらいの迷路だな、どうなっているんだ』
「迷路?」
『とりあえず見てみろ、すぐにわかる』
いわれた通り、端末を使い、ホログラムマップを開く。
「なんだ、これ」
確かに、普通じゃありえないような設計だ。
一階は長方形の形に、適当なサイズで部屋が割り振られているが、二階は円形になり、三階は五芒星だ。
外から見た感じ、ただの直方体の建物だったが、中身は一体どんな形になっているんだ?
『さらに、階段の位置も不親切だ。 周囲を囲むように上りと下りがあるから、階段がごっちゃになってしまう』
「なんだっていうんだ?」
『何かしらの意図があるのか、一種の芸術なのか』
「とりあえず、実際に見てみます」
『和佑さん、配管室から配管路を通って一番手前にある排気ダクトを通れば、三階トイレに抜けられます』
「排気ダクトも下水道よりかはマシか」
配管がたくさんある中、熱さに耐えながら進んでいくと、一つの排気ダクトが。
ギリギリ、装備も引っかからないサイズなので、匍匐前進で進んでいく。
20メートルも進んだあたりか。 四本の排気ダクトが交差しており、その交差している中心に下へ向かう排気ダクトも。
『ここです。 一旦仰向けになって、足から降りてください』
まず、仰向けになり、穴に落ちないように向こう側のダクトへ体を送る。
そして、再び足を穴に垂らす。
「よし、行くぞ」
そのまま体を落とし、排気ダクトの網をけ破る。
コンマ数秒、俺は人がいるのを視認した。
マズイッ――――!
着地と同時に拳銃を抜き、相手に向ける。
「騒ぐな! おとなしく両手を――――――え?」




