第五十八話
木漏れ日が温かい。
あの日から二日、学校に和佑は来ていなかった。
連絡を取っても、忙しいの一点張りで応答もしてくれない。
事件に協力したいのに、何もできずに歯がゆいままだ。 そして、それは牧瀬ちゃんも同じのよう。
「クリスの方も駄目みたいね」
「神貫さんは何か言ってた?」
「師匠も、『今は仕上げ時だから邪魔するな』の一言のみよ」
「私たちじゃ何も出来ないのも分かるけど……」
「――――そんなお二人さんに朗報だぜ」
「――っ! どこから出てきてるのよ貴方」
ベンチに座っていた二人の上に、木にぶら下がっている一人の男がいた。
そのぼさぼさ頭とチビさは忘れない、あの新聞部の記者だ。
木から飛び降り、二人の前に立つと、なにやら手を出してくる。
「なによ」
「情報料だ、とんでもなくいいネタだぜ」
「胡散臭い……何が欲しいのですか?」
「賢者会の議事録、直近10回までのな」
「議事録の外部流出は禁止されてます、出来るわけがありません!」
「流石は風紀委員長だな、でも……『ホムンクルスについて』の紹介だぜ」
「ホムンクルスに……?」
「あんたら含め、賢者会が必死にホムンクルスについて調べてるのは知ってるぜ。 それから、色んなツテを使って調べた結果、ちょうどいい情報が出てきたんだ」
確かに、ホムンクルスについて分かれば、捜査も進む。
それは過去の会議で出されていた話だ。
だが、ホムンクルスは禁忌でもあり、話すこと自体がタブーとされているレベルの魔術だ。 そう易々と情報が手に入るわけではない。
だからこそ、この情報は欲しい。
「……分かったわ、なんとかして議事録は渡す」
「ちょっと、クリス!」
「これは私が一人で決めたこと、貴方は何も聞いてない」
「よし、これで交渉は済んだな。 明日、アポを取っておくから、ちゃんと行けよ」
そういって、陽気に歩いていく加苅。
ジャーナリストというのは、やはりせこい生き方をしている。
「それで、牧瀬ちゃんも来るわよね」
「えぇ、もちろん……ありがとね」
「良いわよ、これで事件解決につながるなら」
***
加苅からもらった情報は二つ。
国立魔術博物館の館長が、何かしら密会するということ。そして、そこでホムンクルスについての議題が上がるということ。
いったい、どこからそんな情報を手に入れたのかはわからないが、今はそれを信じて見に行くしかない。
当日、牧瀬ちゃんと合流し、二人で国立魔術博物館へやってきた。
「作戦はあるの?」
「密会っていうなら、直接殴り込みに行くのが一番じゃない」
「クリス、あんたって子は……」
「そのために牧瀬ちゃんがいるんでしょ?」
おそらく警備員などがいるはずだが、牧瀬ちゃんの『洗脳魔術』を使えば、大事にならずに済むだろう。
牧瀬ちゃんは頭を抱えているが、事件解決のために渋々納得してくれた。
館内に入ると、これまでの魔術の歴史などが展示されている展示室。そして、その奥の関係者入口と書いてある先に、おそらく館長はいるだろう。
「いい、いくわよ」
できるだけ人目を忍び、こっそりと博物館の裏側へ入る。
中はこれといって変わった場所はなく、従業員の事務室や保管室ばかりだった。
「クリス、これ見て」
牧瀬ちゃんに呼び止められると、そこには館内地図があった。
館長室はどうやら一つ上の階のようだ。
「ここにいるはずね」
「君達、ここは関係者以外立ち入り禁止だよ!」
「『私たちのことは忘れなさい』」
「ん、ああ……」
危うく警備員に止められかけたが、流石は牧瀬ちゃん。一発で見逃してくれた。
「こんなことしたくないのに……さっさといくわよ」
どうやら罪悪感に駆られているようだ。頭が上がらない。
急いで階段を上がると、長い廊下が続いており、先には大きなドアがある。プレートには『館長室』と。
しかし、ドアの前には黒服の男たちが道を埋めるように並んでいた。
「誰だ!」
一人がそういうと、黒服の男たちが一気に警戒態勢に入る。
どうやら、重要な人物が来ているということは間違いないようだ。
「『私たちは関係者と認識しなさい』」
「あ、ああそうか、失礼しました」
いくら人数がいようと、牧瀬ちゃんの目を見たら最後。全員の黒服が、洗脳状態に入った。
「まさかこんなに人がいるなんてね」
「ええ、あの男の情報は間違ってはなさそうね」
「どうした、なにがあった! おい、見てこい!」
部屋の奥から、男の声が聞こえる。
さきほどの声が聞こえてしまっていたようだ。
しかし、扉から誰が出てこようと洗脳してしまえば問題はない。
そして、奥の扉が少しだけ開かれ、一人の人物が出てくる。
「誰か……いるの……?」
「え……うそでしょ?」
その扉から出てきたのは、見知った人物だったのだ。




