第五十五話
「――――焼き尽くしなさい、『循環せし焔の番人』」
その声は、確かに21世紀の魔紅、日葉クリスのものだ。
この場所は、直径10メートルほどの楕円状。周囲は建物に囲まれてる。
そして、俺はその外周の壁に埋まったままだ。
もし、楕円をなぞるように、炎の円柱を立てられたら?
それは、逃げ場のない地獄。
俺が、学院に入って初めて体験した魔術。
炎柱は、徐々に縮まっていく。
高さもあり、周囲の景色は、地面の茶、空の橙、そして終わらない紅。
「死になさいっ!」
そして、一気に炎柱は縮まり、一本の赤い糸になる。
果たして、あのローブ男は……?
「グハッ……ハァ、ハァ……化け物だな相変わらず」
まだ、生きている。
だが、ローブは焦げていて今にも剥がれそうだし、体もボロボロだろう。
顔面を両手で覆い隠している。
手の隙間から見える碧眼は、俺をまだ見据えている。
「――――ルミハ部隊の女の指示か」
「耐えきるなんて……お前は何者だ」
「教えるべきことじゃない」
「なんだと……?」
「それにしても、まさか、視界のない状態のクリスを使うとはな……」
「待て! 逃がすかっ!」
逃げ出すように、裏の道まで退いたローブ男。
片手には、転移結晶が握られている。
「くそ、転移結晶か!」
「悪いが、これで失礼させてもらうよ」
焼け爛れた広場に、響き渡るローブ男の声。
すぐに駆け出し、ローブ男に斬りかかるが、既に遅かった。
「――――そう簡単に逃がしてたまるかよ、この間抜け!」
そこに、もう一人の声が響く。
直後、拳銃の発砲音が聞こえる。その弾丸は頭上から飛んできて、転移結晶を手から弾き飛ばした。
「なっ、誰だ!」
「誰だって言われたらぁ……『天才殺し屋』って答えるしかねぇな!」
見上げると、周囲を囲む建物の屋上には、赤黒い髪を靡かせながら、拳銃の構える女がいた。
「リック!」
「よう坊ちゃん、そこの赤毛女のせいで死にそうになったぞ」
飛び降りてきたリックが、俺の横に立つ。
まさか、こんな時に助太刀に来てくれるなんて思ってもみなかった。
「貴様……」
ローブ男が腕を伸ばして魔術を発動する。恐らく、拳銃を奪い取るつもりだろう。
だが、リックはそれよりも早く銃を抜き、ローブ男の右足を撃ち抜いた。
「ぐああああ!」
そして、倒れる。すでに抵抗することは不可能に近いだろう。
リックは、更に両腕と左足を撃ち抜く。淡々と行うその動作は、まさに天才殺し屋だ。
「さて、こいつはどうするんだ」
「虜囚にしよう、拘束してくれ」
リックは拳銃を向けたまま、俺が近づく。
ローブの外れた後ろ姿は、恐らく外人だ。
そして、体をひっくり返して顔を確認したとき、信じられない光景がそこにあった。
「何故貴方が…………パクチーさん」




