第五十四話
人の肉を斬る感触。
すっぱりと、腹を裂き、二分したはずだ。
だが、俺はそれが狙っていた人物でないことに気が付いた。
「危ない……そこに人が歩いてなけりゃ、死ぬとこだった」
俺が斬った人体は、確かに生きていた。
だが、その上体は、人の手によって掴まれており、直前に盾にされたことも容易に想像できた。
「お前……一般人を――――ッ!」
ローブ男の手には、先ほど愛刀を引き寄せたのと同じ魔術が発動した痕跡があった。
つまり、近くを歩いていた男を引き寄せ、盾にしたのだ。
「ふ――――ざけるなッ!」
「まだやる気なのか……全く」
怒れ、と言われた。
奴が、剣に持ち替え、既に攻撃体勢に入っていることに気付かず、突っ込もうとしていた。
『――――――抑えて下さい和佑さん!』
どこからか聞き覚えのある声がする。
だが、そのおかげで俺の無謀さに気づかされる。
攻撃体勢は変えられない、加速器を最大出力で後方まで吹き飛ぶ。
直後、俺がいたであろう場所に、俺を殺すギロチンが振り下ろされる。
「危なかった……」
『大丈夫ですか!? 全く、無謀すぎます!』
「この声――――お前、遠見か!」
忘れることもない、この声。
俺がまだ、ルミハ部隊として国防省の元で働いていた時の専属オペレーター、遠見ケイ。
独立してからも、OFのために世界中を飛び回っていると聞いていたが……?
『この通信は無理やり、通信機から行ってます。すぐに途切れる可能性もあるので、必要なことだけ伝えます!』
「任せた」
『相手の魔術は、おそらくサイコキネシスの類です。下手に突っ込むより、ゆっくり相手の行動を確かめながら攻めてください』
「了解っ」
なんとなく、ルミハ部隊の時の感覚を思い出してきた。
そうだ、落ち着いて相手の行動を読むんだ。
そして、相手の意識外から攻撃をおこなうんだ。
「どうした、だれと喋っているんだ?」
「ありがとう、おかげでどうにかなりそうだ」
服についている小型カメラで、こちらの状況は把握できているだろう。
ローブ男から更に離れ、クリスがいるあたりまで下がる。
通信機は壊すわけにいかない、懐からさりげなくクリスの近くへ落とす。
クリスは何が起きているかわかっていない様子だが、まだ動いてはいけないんだと理解している。
「目つきが変わったな……獣の目から狡猾な鷹の目になったぞ」
「お前は一般人を巻き込んだ……その上で、お前を倒す」
再び、村正を抜きローブ男の周囲を駆ける。
だが、相手も時間がないのか、すぐさま動き出す。
「そこだっ!」
巨大な剣が、俺の目の前を通過し壁に突き刺さる。
直後、壁に巨大なクレーターが。
それを見逃さず、背中に向けて村正をふるう。
だが、その斬撃が届く前に、腹部へとてつもない衝撃が加わった。
「ガッ――ハッ!」
壁に刺さったままの剣を支えにして、腹部へミドルキック。
俺は、正反対の壁に激突し、同じようなクレーターを壁に作る。
「ふん、鷹かと思ったが、トンビだったか」
「クソッ!」
服の中からマシンガンを取り出し、ローブ男に向けて撃ち続ける。
地面が土だということもあり、砂煙が舞った。
カチッ、カチッという音が鳴り、撃ち切ったことを告げた。
「なんだ、そんなもの当たりはしないぞ」
「――――――いや、大当たりだ」
「なにを………………これは、まさか」
そう、俺もローブ男も、互いの姿を認識できなかった。
なぜなら、とてつもない炎の円柱が、ローブ男を囲うように出来上がっていたのだから。
「――――焼き尽くしなさい、『循環せし焔の番人』」




