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第五十三話

遅くなりました申し訳ございません。

 いつもの速攻が、突如止まる。

 逃げ出す直前に、たった一言、魔術を行使したのが見えた。

 だが、俺には変化はない。


「クリス、何があった!?」

「目の前が、まったく……見えない!」

「これでいいよね……それじゃ後は頼んだよ」


 ゾルヴァンは、魔術を行使し終わると、そのまま裏道から逃げて行ってしまった。

 逃がしたが、早く倒せばまだ追えるはずだ。


 だが、クリスは猛々しい獅子から、生まれたての小鹿に様変わりしている。

 おそらくだが、クリスは先ほどの魔術で視界を奪われた。その効果の持続時間は分からないが、このまま放置するのは危険すぎる。


「いやっ!」

「落ち着け、効果が切れるまではむやみに動かない方がいい」


 すぐさま、クリスを抱え上げ、俺たちがやってきた道に座らせる。

 クリスは、見えないながらも自身の周囲に魔術防壁を張り、しゃがみ込む。


「これで一対一だな」

「それが目的か」

「流石に、虚無の申し子に合わせて、21世紀の魔紅とまで呼ばれる新世代期待の魔術師と同時に戦いたくはないな」

「お前も、IMROの手先か」

「さぁな。だが、お前と戦わなければならないのは確かだ」

「容赦はしないぞ」


 村正を抜刀する。

 IMROの手先が相手の場合、村正は抜刀許可が出る。


 対面した感じだが、こいつはそこらへんの魔術師とは桁違いに強い。デスアスクほどではないが、充分に脅威だ。


「それが噂の村正か……俺も、剣戟は得意だ」


 その隠れた顔から見える小さな笑みに悪寒が背中を走る。


 ローブ男は、手を振りあげる。その手の先から、魔術の綻びが見える。

 本来、魔術の綻びは螺旋状になっている。それは、威力をあげるために、魔術を中心へ収縮させているからだ。

 だが、この綻びは空から遠くまで伸びており、終わりが見えない。


「来い、愛刀ファレス」


 そう呼びかけると、その綻びは手元に収縮しはじめ、綻びの先端には一本の刀が見える。

 そして、魔術を終了させると同時に、手元には長身の刀が握られていた。


 片手で握るには大きすぎる、110センチほどはある剣は、分類としてはバスタードソードというところだろう。


 だが、実際にそれを『愛刀』などと呼ぶまでに愛好している人物は少ないだろう。


「さぁ、やろう」

「くっ――――行くぞ!」


 加速器を使用しつつ、相手との交戦距離まで近づく。


 村正の刀身と、ファレスの刀身が激突するまでコンマ2秒。



 直後、雷のような剣戟戦。


 時間にして一秒足らず。


 それまでに48回の剣撃音。


 あまりにも不釣り合いな剣で、雷轟電撃の攻めを見せたローブ男。


 そして、一撃一撃が気の抜けない重さだ。


「こんなものか!」

「――――――ッ!」


 一歩下がり、村正を両手で握り、右後方へと構える。


 そのまま相手の隙がある場所へ、切りかかる。


 だが、それはあと数ミリという距離で避けられた。


 直後、隙を見逃さないカウンターで左わき腹を狙われる。


「うご―――――けッ!」


 村正をあと少しというところで自身の体とファレスの間に差し込む。


 人間では不可能な、義手だからできる無茶なスピード。


 間一髪だ。


「ほう、やるな伏見。流石、ルミハ部隊の切り込み隊長だ」


 相手は、再び距離を取る。

 こいつは、やはり強敵だ。

 気を抜けば……確実に死ぬ!


「おりゃぁあああ!」


 速度と技術の最高傑作を目指した俺の剣戟。

 相手がいかに技術があろうと、力があろうと、そのことごとくをここで上回ればいい!


「こいっ!」


 上下左右、様々な方向から村正で襲わせる。


 攻撃の手を休めることなく、相手を囲うように攻撃を与え続ける。


 魔術ではない、ただ唯一の剣での勝負。


 負けるわけにはいかない。


 傍から見れば、それは雷だろう。


 無数に放たれる火花は、既に一過性ではなく、俺と相手を包み込む炎と化している。


「まだ、まだだ!」


 更に、速度を上げる。


 剣戟を一切止めない、相手は確実に押されている。


 まだ、まだいける。


 本来なら腕の筋力の限界だが、義手はそれ以上の耐久性を持ち合わせている。


「う――――おぉぉぉおお!」

「なっ――マズった!」 


 俺の切り上げが、確実に相手の刀身の重心をとらえた。


 剣が、耐えきれなくなり上方へ跳ね飛ぶ。


 両手もつられて起き上がり、腹に大きな隙間が生まれる。


「もらったぁああああああ!」



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