第五十二話
「――――――クリスッ」
「なに、急にどうしたの!」
「静かにしろ、まだ気づいていない」
俺が路地裏が見える電柱のそばに体をそわせて潜む。
路地裏を指さすと、声にならない言葉出し、目で合図する。
クリスは、あの黒髪の麗人が何者かを分かっているわけではないようだが、奴の行動を目視し、その異常さに気付く。
「なんなのアイツ……」
「生徒連続失踪事件の真犯人と思われる人物だ、もう人と呼ぶのが正しいのかも分からないが」
「真犯人……!?」
「とりあえず、未悠さんに連絡を入れて……」
「絶対、許さない……!」
「ちょ、まてクリス!」
俺がいつぞや渡された黒い通信機で連絡を入れようとしていた時、既に炎は燃え盛っていた。
思えば、クリスはこの事件をいち早く解決しようとしていた。
そこで真犯人という人物が現れれば、すぐにでも倒したいと思う心情を理解できないわけではない。
この通信機、数字で文字を伝えるので時間がかかる。クリスを一人にするわけにはいかない。
俺は通信機をしまい、すぐにクリスを追いかけた。
「アンタが真犯人ね! 焼き殺してあげる!」
まだそのナニカを食べ続けている黒髪の麗人に向かって、魔術発動の準備を終わらせた状態で宣告をするクリス。
黒髪の麗人は、それでやっと二人の人物に囲まれていることに気付いたようだ。
食べていた肉片をゴミのように手から放すと、首だけをこちらへ向けてきた。
「お前らが……オマエラ……誰……知ってる……知ってる」
「おとなしく焼け殺されなさい、貴方が手にしていたそれも……」
言葉を続けるたびに、クリスの炎は燃え上がっていく。
それは先ほどの練習後とは思えないほどの、爛々とした紅。
夕陽は丁度沈み、街に暗闇が訪れるのとは真逆に、徐々に明るさと熱さが増していく。
だが、それをおもちゃを見る目のようにしている黒髪の麗人。
「すごい……でも怖い、やめる、逃げる、任せる」
「あっ――待ちなさい!」
身を翻し、とてつもない速度で逃げていくゾルヴァン。
路地裏を我が家の如くかけていき、追いかけることがやっとで攻撃する暇など与えてくれない。
走った距離でおよそ300メートル。
裏路地がここまで続いているとは思わなかったが、それも終点だ。
たどり着いた場所は、直径十メートルほどの楕円形の広場。
まるでスラム街のボスが座している場所とも思えるが、そこにいるのはゾルヴァンただ一人。
「よぉお客さん、いらっしゃい」
――――そして、黒ローブの男がもう一人立っていた。
その声は、魔術で加工されているのか本来の声ではなく、しゃがれ声だ。
黒ローブは、ゾルヴァンを隠すように立ちはだかり、戦闘態勢を取っている。
「どきなさい、どかないなら押しのけるわ」
「かかって来い嬢ちゃん、この王子は逃がさせてもらうがな」
「そうはさせないっ!」
裏にある小さな細道を抜けようとしているゾルヴァンに向けて、2発発砲。だが、ローブ男が腕を上にあげると、その弾丸は軌道をそらし空へ飛んでいく。
「かかってこい、相手になってやる」
完全に受けて応える戦闘態勢。
ここを突破しないと逃がすことになる。何者かは分からないが、遠慮はいらない。倒すしかないだけだ。
「一閃!」
「ゾルヴァン! 抑えろ!」
「りょう、かい――――『Verschwinden』」
「な――――にこれ!」
いつもの速攻が、突如止まる。




