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第五十話



「和佑、酒」

「はいどうぞ」

「和佑、ディンブラあったわよね?」

「はいはい、ストレートでいいな」

「カズスケ、アイス」

「これ以上はおなか壊すから駄目だ」


 キッチンで缶ビールを取り出し、紅茶を淹れて、ドライフルーツを一緒に持っていく。

 ソファに団子のように並んで座っている三人の前の机に、それらを順に並べた。


「ちょっと、私はアイスなら何個でも食べれるわよ」

「そう言って何人の人間が腹を壊したと思ってるんだ」

「むぅうう」


 頬を膨らませても渡せないものは渡せない。

 俺がそっぽを向くと、拗ねたように膝を抱えて丸くなる。

 というか、始めてきたはずなのにリラックスしすぎではないだろうか。


「それにしても、クリスは何のために来たんだ?」

「あぁ、それは私が呼んだんだ」

「未悠さんが? なぜ?」

「それは私から説明するわ」


 紅茶を飲み、ドライフルーツをつまんでいた比巻が授業中のように挙手してから立ち上がる。


「和佑が出て行ったあと、師匠にクリスの話をしたら、なんか連れてこいと言われたの」

「全然説明になってないじゃないか」

「後は師匠に任せるわ」


 一体、今のやり取りの必要性はあったのだろうか。

 余分な思考をする暇もなく、次は未悠さんもどこかへ行ってしまった。

 何が起きるというのか、相変わらず破天荒な女性組の行動は分からない。


「ほら、そこの赤毛ロリと和佑、行くぞ」

「はい!」

「行く? どこへ?」


 一人、訳も分からず未悠さんについていくと玄関で村正と小銃を渡される。

 なんだ、戦闘でもしようっていうのだろうか?

 その行動理由は、すぐにわかることになった。




***




「時間は無制限だ、お前らの諦めがつく前に私に一撃当てろ」

「ほ、本気で言ってるんですか?」

「やるわよカズスケ! これはいい機会なんだから!」


 連れてこられたのは、どこか分からない広い倉庫。

 中は空っぽだが完全密室で出入り口は、あの白衣の悪魔の背にただ一つ。

 俺とクリスは横に並び、十数メートル離れた場所に未悠さんがポケットに手を突っ込んで佇んでいる。

 中間に審判役として立っている比巻が、片手をあげてスタートの合図をする。

 その後ろには、拘束する気満々なのか飲み物とおやつが大量に。


「スタートッ!」


 手が振り下ろされる。


 やるとなったらさっさと終わらせるしかない。


 未悠さんも本気は出さないだろう、それにこちらにはクリスもいるのだ。


「―――――――」


 未悠さんは、たった一言だけ呟いた。だが、その音声は聞き取れない。

 特にこれといった変化も見当たらないが……?


「行くわよ!」


 既にポニーテールは燃え始めている。

 手と足に炎を纏い、完全に戦闘態勢だ。


「――一閃!」


 速度にモノを言わせた力技。

 クリスのお得意な戦法だ。


 だが、更にいつもなら正拳突きだが、体を捻っているのがたった一瞬だが見えた。

 クリスは、コンマ秒もない速さで近づき、体を捻ることで空中にはねる。

 未悠さんが動く気配はない。


「――潰れろっ!」


 魔術というよりも、体術との組み合わせに近い攻撃。


 高速によって得られた運動エネルギーと、空中からによる重力も噛み合わさり、それらが全てクリスの燃える右足に集約する。


 そこらへんの武術なんかと比べ物にならない、焔の大槌だ。


「うおっ」


 まだ動いていない俺までも立ち眩むほどの衝撃。

 圧倒的なパワーで、未悠さんを中心とした地面が裂け始める。


 地面が悲鳴をあげながら土煙が立ちこむが、その大槌は未悠さんの右肩を直撃したはずだ。


 ――――だが、土煙から飛んできたのは小柄な体だった。


「クリスッ!」

「い――ったぁい!」


 壁まで打ち付けられたクリス。 だが、手加減してくれたのかケガになるほどではないようだ。 

 そして、その手加減してくれるほどの余裕があった白衣の悪魔は、相変わらず突っ立ったままだ。

 冗談じゃない。


「そうだな……和佑! 村正を抜いていいぞ!」

「え……いいんですか!?」

「構わん、手を抜いてかかってきたら殺すぞ」


 その声は、冗談じゃないことが分かる。

 だが、村正を使えば流石にどうにかなるんじゃないのか……?


「村正、抜刀します!」


 鞘から村正を抜き取る。


 その白い刀身は、魔術を瓦解させる特殊な素材で組み立てられている。

 そして、俺が持っている『綻び』を見つける目。


 これが揃ったとき、刀身が触れる魔術は全て瓦解する。


 そのはずだ。


 加速器を使い、クリスにも負けないスピードで未悠さんのもとへ向かっていく。


 一気に左へ振りかぶり、左肩を狙う。


 その前に、圧倒的に強化されている魔術防壁。


 体に沿って張られている、村正で突破するには崩さなければ。


 だが、綻びをなぞればいいだけだ。


 パリン、っという瓦解音。 このままなら左肩を狙える。

 だが、それをフェイントとしてあえて右を狙う――――ッ!


「ふむ、やはりお前はまだ村正を使いこなせてないな」

「なっ――――!」


 先ほど破壊したはずの魔術防壁。

 だが、刀身が振り下ろされるはずの場所には新たに防壁が張ってあった。


 ここから軌道修正して綻びをなぞるのは難しい。

 あえなく魔術防壁に刀身が激突し、圧倒的に魔素が濃い壁に阻まれる。


「これは……魔術防壁は崩したはずじゃ……?」

「和佑、お前も出直して来い」

「グ――――うわああああああ!」


 胸倉を片手で捕まれ、こちらへ来たスピードと同じくらいの速さで直線投射される。

 また腹が立つことに、壁に激突するころにはいい感じにスピードが減衰しているのだ。

 クリスの真横に、似たようなクレーターを作り、そこに俺の体が埋まっている。


「凄い……師匠ってやっぱり」

「これで終わりか?」

「いいえ! まだやります!」


 クリスはすでに立ち上がっていた。まだ手足の炎は燃え盛っている。

 まだ、時間はたっぷりある。


「行くぞクリス!」

「行くわよカズスケ!」


 再び、俺とクリスは佇む未悠さんに攻勢を仕掛けた。


「根気だけは合格点だな……さあ、続けよう」

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