第四十六話
急いで痕跡を辿ってきて正解だった。あと少し遅かったら、手遅れだったかもしれない。間に合ってよかった。
「下がれッ!」
銃声が響く。
弾丸は確実にホムンクルスの足を打ち抜き、体勢を崩させた。
もう一発、すぐさま頭を狙って放つ。
ホムンクルスは流石に二発目には反応。ぎりぎりで避けられる。
走りながら、更に追い打ちで数発。ホムンクルスは比巻から離れていく。
そして、血だらけで倒れている比巻のもとへたどり着く。
「大丈夫――――じゃなさそうだな」
「アンタ……なんで……」
「これも俺のせいだ、すぐに片付ける」
そうだ、ホムンクルスの発生はあの事件以来だ。
これは俺に関連することだろう。
比巻に制服のブレザーを羽織らせ、ホムンクルスに向き合う。
特に意識があるわけでもない、ただの戦闘用ホムンクルスだろう。前の事件で生き残ったまま放浪していたのか。
村正を抜く必要もない。
「グガギギギギ」
「うるさいぞ」
相手の攻撃をかわし、足を払う。
体勢を崩し、立て直すこともできないホムンクルスに拳銃で頭、足、胸を順に二発ずつ、打ち抜いていく。
やがて、活動限界に到達したのか、ゆっくりと駆動音が止まっていく。
そして、完全に物言わなくなってしまった。
「比巻、すぐに助けを呼ぶからな」
「アンタ……なんでここに……?」
「その話はあとだ、先に治療しないと」
学内デバイスで緊急救命を連絡した。すぐに学院で助けが来るだろう。
雨が降っていて、傷口にも悪い。
「比巻、これを羽織っておけ」
「あっ……ありが――――」
制服を羽織らせると、腕の中でパタンと倒れてしまう。
「おい、比巻!? ……気を失っただけか?」
「緊急救命はこちらですか!?」
ちょうど助けが来た。
これで助かるだろう。
大雨の中で、比巻の手は俺の服を握っていた。
***
「伏見さん、比巻さんの容態、安定しましたよ」
「もう大丈夫なんですか?」
「えぇ、物理的な外傷だけなので、治療魔術ですぐに」
「それは良かった……」
そうだ、世の中では魔術で傷が治せるんだ。
俺はあんまり効かないが、魔術師ならすぐに治せるんだろう。
とにかく、無事に治ったのなら良かった。
「面会できますが、いかがいたしますか?」
「あー……」
比巻は、俺を妙に嫌っていたからな。
俺に助けられたのも、屈辱的だと考えているのかもしれない。
会うのは控えた方がいいか。
「いや、俺はもう帰り――――」
「――――待ちなさい」
「えっ?」
病室の扉が少し開き、呼び止められる。まさか、当人が引き止めるとは思っていなかった。
病室の椅子に腰かける。
比巻も、ピンピンのようでベッドに腰かけている。
「……なんで、あそこにいたの」
「あぁいや、流石に一人でやらせるのは罪悪感を感じてな。適当なところでシェンメイを撒いてから、痕跡から犯人の居場所へ向かってたんだ」
「まさか、誰の力も借りずに?」
「あの周辺状況さえあれば、大まかな位置はつかめた。あとは、比巻の足跡があったしな」
ガラス片は、主に教室内に散らばっていた。つまり、教室外部から窓ガラスを割ったということだ。
外は森につながっている。当時、教室内に人はいなかった。
割れた窓から、外を見てみると、比巻の足跡が途切れ途切れに残っている。
そして、異様な穴が大量に残っている。
もしかすると、ホムンクルスか何か、別の何かが関わっているかもしれないということまでは予想できていた。
ホムンクルスの足の裏には、スパイクのようなものがついているのは、未悠さんから習っていた。
「比巻が戦闘出来ない可能性を考えたら危険だと判断して、急いで向かったら案の定……ってとこだ」
「ふん、対人なら……」
やはり気にしているのかもしれない。
ずっと下を向いているし、帰るべきだっただろうか。
だけども、向こうが引き止めたなら、何か用事があるはずだ。
「え、っと、俺に何か用があるのか?」
「え、いや、その……」
「別に言い出したくないなら、言わなくてもいいよ」
「駄目、ちゃんと言うのよ比巻牧瀬……」
何かしら自己暗示を掛けているようだ。
何のことだろうか、制服なら別に洗って返せとか言わないが。
覚悟を決したのか、大きく息を吸い込んでこちらを見つめる。
「え、っと、その………………ありが」
プルルルルル、魔術師の素養がない俺でも使える携帯電話が鳴り響く。
「悪い、ちょっと失礼」
「…………は?」
未悠さんから突然の電話。
未悠さんからの電話は基本的に重要な連絡だ。出ざるを得ない。
「はい伏見です」
『ホムンクルスの解析結果が出た、事件の奴と同種だ。ほかにもいるかもしれないから気を付けてくれ』
「了解です、賢者会にも伝えておきます」
『私もそろそろ学院に到着する、後で落ち合おう』
「医療棟にいますんで、迎えに来てください」
やはり同種だったか。
まだ残党が残っていたとしたら、危険だ。比巻のような被害者がまた発生してしまうかもしれない。
「ちょっと」
「あ、悪い。で、何を言おうとしてたんだ?」
「――――あったま来た!使う気はなかったけど!」
急に身を乗り出してきた比巻。
そして、目をすごい近さまで近づける。もう息がかかるくらい。
「あのー、比巻さん?」
「――――『貴方の隠し事を全て言いなさい』」
目が青く光っている。
なるほど、洗脳魔術は目から発動しているのか。だから、あの不良どもは目を覆った。
「悪いが、洗脳魔術は聞かないぞ」
「――――なっ、なんで!?」
「体質なんだ、後天的だけどな」
自身の体に干渉する魔術は、一切無効化される。それは、強化であれ、治療系であれ、すべてだ。
その事実に、目を見開いたまま固まる比巻。
「おい和佑、これは邪魔していいのか?」
「み、未悠さん!」
未悠さんがドアの隙間から覗いている。
あの位置からこちらをみると、俺と比巻が顔をぴったりとくっつけているように見えなくもない。
変な勘違いは止してもらいたい、すぐに椅子から立ち上がった。
「これから現地調査を始めるから、色恋沙汰は後にして準備をしてくれ」
「違いますからね! じゃ、比巻、そういうことだから……?」
比巻のほうを向くと、その目線は俺ではなく、ずっと未悠さんのほうへ向けられていた。
「貴方は……」
神でも見つけたかのような。
「え、知り合いですか?」
「私はこんなガキ知らないぞ」
「――――神貫未悠さんですよね! ぜひ、弟子入りさせて下さい!」
「は、はぁああ?」




