第四十二話
「はい、これつけて」
放課後、比巻に召集され、紺青色の上に黄色で風紀委員と書かれた腕章を渡される。
風紀委員会室は、教室棟の賢者会室の一つ下にある委員会室にあった。
部屋のサイズは賢者会室の一回り小さいほどで、大人数を収容することも可能なはずだが、比巻以外のメンバーが見当たらない。
「他に風紀委員はいないのか?」
「……今は私一人だけ」
「一人って、そりゃ大変だな」
だから二年生で風紀委員を担っているのか。
この部屋も様々なものが置いてあるが、寂しさはぬぐえない。
制服の右上腕に腕章をつけると、なんだかそれっぽく見える。
「これをつけておけば、偉そうに注意しても無駄な争いに巻き込まれないわ」
「学院ならではだな、特に魔術師ばかりだし」
「まぁ、実際に抗戦することは少ないけれどね」
「どういうことだ?」
「実際に仕事していけば分かるわよ。さ、ついてきなさい」
そう言われ、比巻の後ろを黙ってついていく。
教室階に到着しても、比巻も黙ったままだ。
まだ相当距離を取られているようだ、まだ俺が信用に足る人物でないことは理解しているが、どうもやりづらい。
とりあえず、この機会にできるだけ会話をしておこう。
「実際に風紀委員って何をするんだ?」
「この学院は基本的に校則はないし、問題があれば魔術戦闘で解決する生徒が多いから、不良は少な――――そこの男子生徒!いかがわしい本は没収です!」
「確かに、血気盛んな奴らが大半だな」
「でも、いないことはない。 報告のあった不良を片っ端から『更生』させるのが風紀委員の主な役目――――そこ!召喚魔法は召喚術教室でやりなさい!」
「今日も不良達に会いに行くのか?」
「そうよ、体育倉庫を根城にしている不良グループがいるらし――――そこの貴方! 派手な色のシャツは禁止です!」
と、会話の端々に生徒達を注意する比巻。
比巻が通った後には、誰一人として存在しない。
みんなさっさと撤収してしまう。確かに、この頻度で注意されたらたまらないだろう。
結局、不良グループの根城まで本来なら三十分で行けるはずが、二倍の一時間もかけてしまっていた。
そして体育倉庫前までやってきた俺たち。
比巻が、不良グループの最終確認をする。
「彼らは一年生のグループね、魔術はそこまでだけど、意地汚いやり方や大人数で一人を狙うことが多いみたいね」
「中々にゲスな奴らだな」
「向こうが攻撃して来たら、こちらも交戦許可が下りるから、保身はしっかりしなさいよ」
そういって、一昔前の引き戸を開ける。
そこにはよくある不良が五人並んでいて、リーダー格は跳び箱に座っている。
なんというテンプレ、テンプレすぎてもう現代には存在しないぞ。
「風紀委員です! 貴方たちの行為は聞き及んでいます、おとなしく『更生』するというなら……」
口上を行い、おとなしくお縄に着くか、交戦するかを選ばせる。
比巻は賢者会の一員ということは、学院内TOP12の実力者であることは知っているだろう。
「――――すっっっっいませんでしたぁあああ!」
そりゃ勝てないだろう。
だが、ここまで綺麗で悲しい土下座があるだろうか。
跳び箱から地べたに頭をつけるまで、たった一秒。判断能力が高いと評価すべきか。
比巻も驚いたようだが、無駄な争いにならなくて済んだと安心している。
「分かりました、それでは懲戒は免除します」
「ほんっとすいません! もうしないんで! マジで許して……………………もらう必要なねぇなぁ!」
「な――――ッ!」
「やっちまえ!」
土下座していたと思っていたリーダーの腹の下には何かしらの魔法陣。
直後に体育倉庫中に煙が発生し、視界が奪われた。
すぐさま赤外線可視化を発動させると、真後ろに一人いる。
「ぬぐわぁっ!」
蹴りと肘打ちで倒すが、ふと周囲を見回すとすでに三人に囲まれている。 三人とも、魔術発動準備は完了している。
煙が晴れ、視界がクリアになった。
「比巻委員長……お前の弱点は知ってんだぜぇ?」
リーダー格が再び跳び箱に座る。
比巻を見ると、ひとりの男に目を覆われている。
いったい何だっていうんだ……?
だが、俺も現状どうにかできる状況じゃない。様子をうかがおう。
「……あなた方は『更生』する気がないんですね?」
「ったりめぇだろ! てめぇらみたいなエリートに従ってたまるかっ!」
念を押すような、最終確認のような質問。
それを蹴り飛ばすリーダー。その言葉には、少しの悲哀が含まれている。
「……それでは、『懲戒』を始めます」
そうして、ただ一回、指を鳴らす。
リーダーも俺も、ただ生唾を飲んだ。
そして、気づく。
「「「「勉強・スポーツを頑張る!」」」」
不良グループのリーダーを除き、他の四人が『真面目な青少年』になっていることに。
誰一人として、リーダーを見向きもせずさっさと体育倉庫から撤退していく。
中には体育倉庫から道具を持っていき、スポーツやる気満々の姿を見せていった。
「……なんだ、俺は確かに目を封じたはずだ! お前の『洗脳魔術』を防ぐために!」
「非常に簡単なことです」
「簡単なこと……?」
「この倉庫に入ったとき、その時点で洗脳は完了しています
――――『私が指を鳴らせば真面目になる』と」
そして、再び指を鳴らす比巻。
リーダーは一度うずくまり、そして、再び立ち上がる。
「俺はなんてことをしていたんだ、これから謝りにいかなければ」
そうして、体育倉庫を出ていった。
「ふぅ……今回は騒がしかったけど、簡単な案件だったわね」
「あれが……洗脳?」
「何よ、特に詮索する必要もないでしょ。次行くわよ」
さっさと立ち去っていく比巻。
真面目な雰囲気を醸し出しているが、その能力は化け物のようなもの。
人が手にしてはいけない禁忌に近い。
俺はまたも、樫原十二賢者会の実力を前に圧倒されたが、気を取り直し比巻を追った。




