第三十九話
事件からおよそ一か月。
すでに学院内の補修は完了しており、生徒の大半は普段通りの学院生活を送っている。
だが、死者が出た教室棟では未だに立ち入り禁止になっており、規制線の外側には大量の花が飾られていた。
今回の事件のことは、死者が出たことや外部の犯行であったこと等の理由から新聞部も報道を規制している。しかし、生徒たちの間ではこの件についての話題が尽きることはない。
「――――そして、お前が関わっているっていう話も一部で流れているぞ」
「噂ならまだいいさ、元より色眼鏡で見られてたしな」
昼休み、人気の少ないベンチに腰を掛けながら焼きそばパンを頬張る。
ほどよいジューシーさが、今までの昼食とは違い、体が喜んでいる。もちろん、俺が買ってきたわけではない。
こっそりと禁止中の食事と学院内の情報を持ってきてくれたのは、数少ない友人でもある加苅だ。
相変わらずのだらしない格好と裏腹に、きっちりと資料にまとめて情報を提供してくれた。
「それにしても驚いたな。気が付いたとの連絡があってから、すぐ面会謝絶。登校してきたと思えば、その義手だ」
「俺が腕を失った理由とかは、聞いてるのか?」
「俺は部長を通じて聞いちゃいるが、大半の生徒は存じ上げないだろうな」
事件の詳細も伝わっていない、というよりも事件自体がガス管の破裂ということで流布されているので知る由もないだろう。
実際には、事件当日に学院にいた生徒達から噂話程度に事件が広まっているというところだろう。
「で、実際にゃどうだったんだ」
「実際も何も、現状話せることは賢者会にすべて話してある」
「部長は賢者会の出来事を詳細に語ってくれないんだ、賢者会の議事録もそう簡単にゃ――――」
「どうした?」
何を思いついたのか、加苅は愚痴をやめるや否や、学内デバイスを取り出し、何やらにアクセスしている。
そして、思い付きは現実レベルにまで至ったのか俺のほうを向いて、悪そうににやつく。
「階段で聞いた噂話程度だったが、マジだったとはな」
「いったい何だってんだよ、悪いことには手を貸さないぞ」
「――――お前、賢者会に臨時参加するんだってぇ?」
マズイ。そう思いつつ、俺は今朝の出来事を思い出していた。
「退院おめでとう和佑、よくあの訓練に耐えた!」
「もう二度とやりたくないですよ……」
朝七時。未悠さんの地獄の訓練のおかげか、予定よりも一か月早く退院することが出来た。
全身の筋肉は戻り、血の巡りも良い。義手との相性も万全だ。
「義手も使いようですね、逆に改造出来てより強くなれる」
「……あぁ、そうだな」
「……未悠さん?」
未悠さんが少し悲しそうな目をする。その真意は分からない。
「いや、なんでもない。さて、今日から学院へ通ってもらうが、何かあればすぐコイツで連絡しろ」
そう言って手渡されたのは、直方体の黒い何か。表面には画面があり、右下に「ポケッ○ベ○」と書いてある。
これは通信機だろうか。
「昔あった初期型の通信機を改造したものだ、これを使えば私に直接連絡が届く」
「魔術がなくてもそんなことが出来るんですね……」
今の時代、何かしらの魔術デバイスでデータのやり取りをするのが基本だ。
このような古めかしい機械でも、連絡が取れるのだというから驚き。
通信機をしまうと、迎えの車が来た。今日は車で病院から直接登校する。
「それじゃ、行ってきます」
「ああ、それともうひとつ……」
「なんですか?」
車に乗り込み、窓だけ開く。時間も時間なので、早めに登校したい。
だが、未悠さんは早口で簡単に言った。
「お前今日から樫原十二賢者会に参加だぞ、分かったな」
「は、え?」
窓が閉められる。
何事もなかったかのように出発する車、いつぞやと同じニコニコ笑顔で手を振る未悠さん、そして、困惑したままの俺。
「ええええええええええええええ!?」




