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第三十八話

「――――誰が戻ってくる前だって?」


 そこにいたのは、大きめのハードケースを持った未悠さんだった。

 俺の腕に手をかけている志麻さんを掴み、引き離す。いつの間に戻っていたのだろうか。


「貴方は……神貫未悠さん」

「出雲の姉弟、事件以来だな」

「おはやい到着ですね~」

「私は見舞いだけと聞いていたが?」

「あの……神貫さんと志麻先輩は何を争っているんですか!」

「クリス……」

「ガキは引っ込んでろ、こっちは複雑な事情があるんだ」

「なっ……!」


 クリスの怒りの導線にも火が付いた。

 だが、相手が神貫未悠だからか、まだ爆発まで長い。

 それよりも、志麻さんと未悠さんが揉め始めたら困る。


「私を避けつつ和佑に自白魔術をかけようとしているのは学院の副会長としてか、それとも……出雲家としてか?」

「樫原十二賢者会副会長としての責務ですぅ、真相は明らかにする必要がありますから~」

「さて、どうだか」


 そういうと、未悠さんは懐から石のようなものを取り出す。

 そして、そのまま掴んでいる志麻さんの手の中に渡す。


「これはぁ……魔術記録結晶ですかぁ?」

「この中に、我々が現状提供できる事件についての詳細を残してある。これで満足しろ」


 そういって志麻さんの腕を離し、椅子にどかっと座る未悠さん。

 志麻さんは、中の情報を確認すると納得したように頷く。


「今回はこれで手打ちにしましょう~」 

「調査協力ありがとうございます」


 出雲悠麻が帽子を脱ぎ、礼をする。

 その後、ちゃんと手錠も外してくれた。


「おっと、忘れていたが……」


 そう言って立ち上がると、志麻さんへと近づいていく。

 そして、間髪入れずに志麻さんの胸倉を掴み、額が触れるほどまでに顔を近づける。



「────次に和佑に強制的なことをさせてみろ……一族丸々潰すぞ」

「っ────き、気を付けますぅ」


 悪魔のような瞳。

 いや、あれは悪魔に違いない。


 世界的な魔術一族の出雲家を潰せるとは思えないが、未悠さんならそれに近しいことをやりかねない。なぜなら、志麻さんが恐れる程の実力者であるから。

 怯えていても、いつもと変わらぬ足取りで病室を出ていく出雲姉弟。

 未悠さんは、再び椅子に座り、腕と足を組む。


「志麻先輩があそこまで怯えてるの……初めて見たかも」

「珍しい……」


 クリスは未悠さんの怒りにすっかり怯えてしまったようだ。ガキと呼ばれた怒りはどこへやら、借りてきた猫のようになっている。


「さて……妙な邪魔がいたが、ここに来た理由はもうひとつある」


 そういって、おもむろに話し始める未悠さん。

 クリスやイリスは一切無視だ。

 流石に空気が悪いと思ったのか、実は空気の読めるクリスが割り込んでくる。


「あの、私たちも帰った方がいいですか?」

「ん? ……いや、クリスといったか。お前は和佑の戦闘パートナーだったな」

「は、はい。仮ですけど……」

「丁度いい、これから大事になる話だ」


 そういって、入室した時から持ってきていた大きなハードケースを机の上に置いた。

 サイズからして、相当大きい。新たな銃火器だろうか……?

 だが、中に入っていたのはそんなチャチなものじゃなかった。


「これは……?」

「腕……かしら?」


 人間の右腕を模した、鉄製のもの。義手だ。

 かなり精巧に作られている。現代科学技術とは思えないようなものだ。


「これを装着してみろ」

「は、はい」


 肩をハードケースに開いている穴に直接触れると、見えない何かで義手と肩の神経が繋がっていくのが感じ取れる。

 機械音がやむと、義手の拘束が外れ、自由に動かせるようになる。

 まだ無機物の外皮だが、関節も実際とあまり遜色なく動かせる。指も、力加減が難しいがかなり細かく動かせる。


「この腕はOF技術班と外部研究組織が共同開発した和佑専用の義手だ。材質は相当ハードな衝撃も耐えられる素材を用意、魔嫌石を含ませるよう改鋳してあり、魔素を取り除いた。拡張機能も付けられるぞ」

「凄い……これが科学の技術だっていうの?」

「なにこれ……科学……なんていうもの……じゃない」


 いつの間にかクリスとイリスも興味津々にのぞき込んでいる。

 かくいう俺も衝撃的だ。


「一週間で使いこなせるようにしてやる、そうしたら退院だ」

「もう退院出来るんですね」

「シェンメイはお前が目覚める前に、元気になってたぞ。本国から帰国命令が出ていたがな」


 そうか、どうも姿を見ないと思ったが無事でよかった。

 中国政府も、流石に日本に置いておくわけに行かなくなったのだろう。やっと出会えたというのに、寂しいものだな。

 だが、いつまでも病院にいるわけにもいかない。すぐにでも退院し、再びゾルヴァンの行方を追わなければ。


「これから一週間はとてつもなくハードだが、ついてこれるな?」

「……もちろん、神貫隊長の訓練なら」


 そして、俺は一週間、常人なら過労死しかねない量のトレーニングを行うことになったのだ。


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