第三十六話
「……ホムンクルスだ」
「ホムンクルス……?」
聞きなれない単語。
確か、漢字で表すと『人造人間』だったりする。だが、日常生活ではおよそ聞き及ばさないだろう。
「ホムンクルスというのは、IMROが禁忌魔術に指定している魔術の一つだ」
「禁忌魔術……研究が禁止されているんですか?」
「IMROが設立される以前から、魔術界では禁忌とされているものだな」
「だというのに、そのホムンクルスがなぜ……?」
「そこで、こいつに話が戻る」
そう言って、あの黒髪の麗人を指す。
「こいつの名前はゾルヴァン・トルメシアン。トルメシアン家は11世紀から続く長い魔術師の血統だ」
「11世紀から……」
魔術師は長い血統になればなるほど、魔術適正が上がっていく。
世界的に有名なアッヘンバッハ家が8世紀から続く一族だ。1000年前から存在する魔術師一族は、分家を除いたら30も存在しないだろう。
だが、アッヘンバッハ家が代表するように、それほどまでに長い血統の魔術師ならば名が知れているはずだ。
「このトルメシアン家は1989年、IMROの設立と同時に魔術界を追放されている」
「追放……? まさか――!」
「お前の予想通りだ、トルメシアン家は表では氷魔術専門としていたが、その裏ではホムンクルス研究を行っていた」
トルメシアン家は、禁忌魔術であるホムンクルス研究を行っていた。
そして、世間に魔術の存在が公表されるのと同時に、IMROがトルメシアン家の悪行を察知し、追放したというわけか。
だが、それなら何故ゾルヴァンが……?
「追放されたときに、当時のトルメシアン家の当主と息子には魔術封刻が刻まれたという記録が残っている」
「魔術封刻というと……末代まで魔術が使用不可能になる呪いの一種ですよね」
「あぁ、そうだ。魔術封刻は、現状IMROが持つ最強の抑止力の一つだ」
「でも、ゾルヴァンは魔術を使っていた」
ゾルヴァンがデスアスクの死体を飲み込んだ時に現れた、黒い影。
あれは明らかに魔術で間違いない。
「ここからは予想の範囲になっていくが、ゾルヴァンは恐らくトルメシアン家の跡取りだろう」
「年齢的には納得です」
「そして、何かしらの理由で魔術封刻が無効化されている」
「でも、魔術封刻はIMROが持つ絶対的抑止力、そう易々とは――――――あっ」
「そうだ、IMROが持つ絶対的抑止力、だからこそIMROが介入している可能性は高い」
IMROは、封じるも解くのも自在だとしたら。
ゾルヴァンが、IMROの手先になる代わりに魔術封刻を解いてもらっていてもおかしくはない。
「まだ、IMROとゾルヴァンの繋がりには疑問点が多すぎる。生徒失踪にIMROが関わっていると断言はできないが、警戒しておくに越したことはないだろう」
そういって締めくくると、ショルダーバッグを掛け立ち上がる未悠さん。
まだ、事後処理が残っているのだろう。
気づくと、その他書類やホワイトボードも一木医師が片付け終わっていた。
「この病院は国やIMROに情報は流さない、来客も全てチェックされているから安心して休んでいてくれ」
「和佑さん、リハビリの日程が決まりましたら連絡しますので何かありましたら、こちらから連絡を下さい」
そう言って、病室から去っていく。
一人だけ取り残されると、やはり物思いに耽ってしまう。
ジャズが流れ終わり、再びループ再生される。
天気は相変わらず良いし、鳥はまださえずっている。
左手で、身軽になった右肩を撫で、再び布団にもぐる。
今は、ただゆっくりしよう。
そうして、俺は何度目か分からない眠りについた。




