第三十四話
風が吹いている。
ここは屋内で、俺はベッドか何かに寝かされているのだろう。
だが、目が開けられない。体も動かず、声も発せない。
身体がまだ覚醒していないのだろうか。
近くから、俺の好きなジャズが流れている。
音質からして、ラジオか何かの機械で流しているのだろう。魔術で流す音楽は、こうも綺麗じゃない。
まぶたを透して明るさを感じる。
無理に起きようとする必要もない。もう少しゆっくりしよう。
「……和佑、起きたのか」
また眠りに付こうとするが、聞き覚えのある声で起こされる。
「まだ動けないだろう、当然だ。 あの出血量に村正を覚醒させたんだ。もう少し寝てろ」
村正の覚醒……記憶にないが、考える気にもならない。
また、俺は浅い眠りにつき始めた。
***
鳥の声がする。
まだ、俺の好きなジャズが流れている。
「――――あぁ、他に手掛かりがないか調べるよう遠見に伝えておいてくれ」
また、未悠さんの声がする。
OFのメンバーに指示を出しているのか。懐かしい名前も聞こえた。
そろそろ起きなくては、いつまでも寝ていられない。
「ぁ……んぁ」
「なんだ、起きたのか」
「みゆ……ぅさん」
「待ってろ」
すると、部屋を出ていく未悠さんの足音がする。
まもなく、数人を引き連れて戻ってきた。
「いいですか伏見和佑さん、いまから強心剤を投与します」
知らぬ男の声。そして、左腕に注射針が刺さる感触がする。
かなり強いものなのか、すぐに心拍数が上がり始め、目も開けられるようになった。
久しぶりに視界に光が入る。
部屋は真っ白な病室。周囲には、未悠さんと医者、そして二人の看護師が俺を囲んでいた。
「おはようございます、気分はどうですか」
「いいものでは無いだろう」
「神貫教授の言う通りですね、まだゆっくりしていて下さい」
上半身だけ起こし、また医者と看護師は病室を出ていく。
まだ体は自由に動かせない。目が動かせ、少しだけ声が出る程度だ。
「ほら和佑、食べるか」
そう言って、目の前に切り分けたリンゴを見せてくる。俺が任務で怪我をした時は、こうやって良くリンゴを食べさせてもらった。
小さく頷くと、口元に運ばれてくる。それを出来るだけ大きな口で噛みしめる。
「物を噛める程度には元気のようで何よりだ」
甘くて瑞々しいリンゴだ。まるで、口の中に川が流れるような。
静かに数回噛み、飲み込んだところで再び医者がやってきた。
「さて、伏見和佑さん。今の貴方の状況を整理してみましょう」
「は、はい」
「貴方は実に一週間もの間、昏睡状態に陥っていました」
「一週間も……」
「昏睡状態に陥った理由は、神貫教授から説明してもらうのが一番でしょう」
「あぁ、任せてくれ」
そういって、未悠さんがホワイトボードの前に立つ。
看護師が、何枚かの資料を張り付けている。それは村正についてだったり、俺のメディカルデータだったりだ。
「デスアスクとの戦闘で、お前は相当な重傷を受けた」
「…………」
「自分の目で見てみるといい、素直に受け入れろ」
ふと、意識が冴えてくる。
そして、デスアスクとの戦闘、最後に現れた謎の人物――確か未悠さんはゾルヴァンと言っていた――の存在。




