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第三十三話

「侵入者だ! 侵入者がいるぞ!」

「なっ――――」


 バレた。

 何故だ、なぜバレた。増援の様子もない、まだ無力化した兵士も見つかっていない。

 いや、考えるより先に仕留めなければ。逃がすわけにはいかない。


「わ、私は逃げるぞ!」

「な、貴様、金を払え!」

「転移!」


 スーツ姿の取引相手が、空間転移の結晶で逃がしてしまった。

 これ以上逃がすわけにはいかない。


「あの男だ!殺せ!」

「くそっ」


 階段から飛び降り、倉庫の中へ。

 物資コンテナがいい遮蔽物になっているが、敵の数が多い。

 急いで駆除していかなければ。


 右から足音。


 手りゅう弾を投げ込み、反対方向へ逃げる。


「ぐぁあああ!」


 魔嫌石を含ませてある破片手りゅう弾だ、治癒魔術もすぐには使えない。

 開けた場所へ出ると、そこには兵士が4人、武器を構えている。


 急いで小銃を抜き、弾幕を張りながら遮蔽物に隠れる。一人はやったか。魔術防壁も、この弾丸の前では紙切れに等しい。三発も当たれば致命傷だ。


 だが、残りの敵は魔弾を放ち続けている。多少は耐えれても、このままだと蜂の巣だろう。


「お前がルミハ部隊の犬か!」


 まさか、身元までバレている……!?


『クソ、どこからかリークされていたようだ。和佑、そのまま倒し切れるか?』

「報酬は弾んで下さいよっ!」


 周囲を見回す。あるのは、コンテナくらいか。

 

 だが、上を見上げれば案外選択肢も増えるもんだ。


 拳銃で、天井にある電球を片っ端から破壊していく。光を失えば周辺は真っ暗な港、あっという間に周囲は闇にとらわれる。

 急いで視界を『赤外線可視化(サーモグラフィ)』へ変更。


 慌てている兵士3人を、順に拳銃で射殺していく。


発光せよ(Lumière)!」


 ディザネスが魔術で明かりを用意したころには、既に地面は兵士の血と死体で染まっていた。

 ディザネス自身は、そこまでの使い手じゃない。一対一で負けることはないだろう。


「へへ、舐めやがって……この兵器の実験台になりやがれ!」


 ディザネスが意気揚々と取り出したのは、小さなスピーカーのようなもの。

 そこから、何かしらの魔素が感じられる。


「どうだ!これが大衆洗脳兵器『CODE:1093』だ!」

「…………」


 なるほど、これが取引した兵器か。

 逃がした男が持っていったからもう無いかと思っていたが、2台あったとは思わなかった。

 だが、無意味だ。


「さぁ、俺の言うことを――――いってぇ!」


 脇腹に一発、致命傷じゃないはずだ。

 ディザネスは俺が効いていないことに気付き、完全に戦意喪失。

 拳銃を向けると、小鹿のように震えながら両手を挙げる。


「俺の警備は完璧だったはずだ……どうやって突破した!」

「お前の知ったことじゃない」

「待て……ルミハ部隊の犬っていうことは……まさか、あの――――」

「喚くな、殺すぞ」

「――――魔素を体内に含まない、魔術師ではない唯一の人類、『虚無の申し子』かっ!」


 そこまで知っているのか。一体、どこから漏れていたんだ。ルミハ部隊の内部か、はたまた別の要因か。


「分かった、降参! 降参だ!」

「おとなしく捕縛されろ」

「待て、降参だが……一つ取引とどうだ?」


 この期に及んで、まだ逃げようとするのか。見下げた馬鹿だな。

 聞く必要は――――


『いいだろう、聞いてやれ』

「……本気で言ってるんすか未悠さん」

『逃がしてくれると思うほどの情報だろう、気になるじゃないか』

「はぁ……いいだろう、情報を言え」


 銃口は外さない。なんだったら、情報を聞いた後に捕縛してしまえばいい話だ。

 俺が顎で話すよう伝えると、怯えた表情のまま、ディザネスが答える。


「お前が潜入していることをリークしたのは……IMROなんだぜ」

「適当なことを言うな、撃ち殺すぞ」

「い、いや本当なんだ!」

『なんだと……いやまさか……』


 唐突に、未悠さんがオペレーター室から離れる。

 そもそも、この仕事はIMROを通してルミハ部隊に任せられている。それなのに、わざわざリークする必要性も感じられない。はったりに決まっているだろう。

 数十秒後、未悠さんが息を切らしながら戻ってきた。


「どうしたんですか未悠さん、競馬でも見てたんですか?」

『和佑……落ち着いて聞け』

「は、はい」


『先ほどの背広姿の取引相手、名前をリューク・ビスク……IMROの高官だ』


 少しの静寂、ディザネスがにやついていることにも気づかなかった。


「なん…………だって?」











「お疲れ様です、和佑さん」

「遠見か……」

「これ、コーヒーです」


 そう言って渡してくれたのは、淹れたてのホットコーヒー。俺が年がら年中ホットでブラック好きだということを理解してくれている。

 ルミハ部隊の本部。俺の自室はその中にある。俺は私服に着替え、ベッドに座っていた。

 一口、それ以上は飲む気がしなかった。


「何が起きているんでしょうか……」

「俺にも分からない……ディザネスも逃がしてしまったし」


 IMROが密輸組織と取引をしていたという事実。

 俺が潜入していることは、国防省を通じて伝わっていてもおかしくない。だが、それをリークしていたのが事実なら、ルミハ部隊に知られたくない何かがあったということだ。

 または、ルミハ部隊に対する何かの力が働いているか。


「そのあたりは神貫隊長に任せて、和佑さんは休んでください」

「あぁ……悪いが、そうさせてもらうよ」

「何かがあれば起こしますね、おやすみなさい」


 そういってベッドに倒れ込むように横になる。

 遠見はコーヒーを片付け、部屋を出ていく。顔には出さなかったが、彼女も不安なのだろう。

 俺は、泥のように眠りについた。



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