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第三十二話


『――――今回のターゲットはかなりの大物だ』


 気づくと、暗い高速道路でハンドルを握っていた。

 車の中には一人、旧型の無線では未悠さんの声が聞こえる。


『大丈夫ですか和佑さん、バイタルサインに少しですが異常が……』

「ん、あぁ……」


 オペレーターの遠見(とおみ)の声もする。

 なぜか意識がはっきりしない。

 俺は、一体何をしていたんだったか……?


『いいか和佑、お前の任務は巨大魔術兵器密輸組織のボスを捕えることだ。場合によっては殺害も厭わない』


 そうだ、思い出した。

 俺は任務の最中。2016年9月12日、現在時刻は午前2時で間違いない。

 通り過ぎていく街灯に照らされる補助席には、村正と様々な武器。全て、一切の魔素が含まれていない特注だ。


『次の信号を左に曲がったところにある駐車場に車を止めてください、そこから歩いて二分で横須賀港です』

「了解」


 言われた通りの場所に車を止める。


 警備員には話を通してあるのか、明らかに無免許の俺が車を運転していても止める様子はない。

 車から降り、村正を腰に携え、爆薬や小銃を全身に装備する。真っ黒な服装は、魔素を極限まで弱体化させるスニーキングスーツだ。全て、ルミハ部隊の開発班が用意してくれた。

 無線機も異常なし、準備は万端。


『密輸組織のボス、シャルル・ディザネスは裏の業界では相当名の知れた大悪党だ』


 用意されていた裏道を抜けながら、横須賀港のコンテナ倉庫群にたどり着く。

 周辺を見渡せる小さな灯台に上り、あとはターゲットが来るまで待つだけだ。その間に、未悠さんから目標の復習をさせられる。


『殺人、麻薬、人身売買、違法兵器でも何の容赦もなく取引している。今回依頼してきたのは、某国の高官だそうだ』

『国が動いてまでの人物……大丈夫でしょうか……』

「とりあえず、その人物を確保すればいいんでしょう?」

『あぁ、ディザネスは何者かと大衆洗脳魔術兵器の取引をするようだ。そこを抑えてくれ』

『取引相手の情報を入手出来たら報酬を上乗せしてくれるみたいですよ』

「わかった、やってみる」


 スニーキングスーツの胸のあたりに付いている小さなレンズ。

 このレンズを通じて未悠さん達がいるルミハ部隊の本部へ映像が送られる。

 これも魔術を一切使用しないため、かなり古い情報通信技術を流用したらしい。


 取引相手の顔を捉えられたら上出来だろう。


『あと2分17秒後に到着する、準備をしておけ』


 双眼鏡を使うと、遠くにゴムボートが見える。

 不可視魔術を使用していて見えないが、後ろには大きな兵器が積んである船がもう一隻。

 あそこに目標がいるのだろう。


『ターゲット、到着しました。第18番倉庫へ入っていきます。魔術防壁、魔素感知器が設置してあります。気を付けて』

「俺にはおよそ無意味だな」


 灯台から降り、第18番倉庫へ向かう。

 陰から様子を伺うと、何かしらの荷物を積み込んでいる。


 そして、明らかに怪しそうな男とスーツ姿の男。

 前者は資料に見た通り、シャルル・ディザネスだろう。もう片方が取引相手か。


『よし、取引相手の顔は入手できた。あとはこちらで解析をかける。解析班!データベースに当てはめろ!』

『あとはディザネスの身柄を確保してください。もし抵抗が激しければ、射殺も厭いません』

「了解」


 小銃、拳銃の弾込めよし。あとは攻め込むだけだ。

 倉庫には、メインの大扉、裏に関係者用の小さな扉が一つ。裏から入れば、一本道で倉庫内へたどり着ける。


 バレないように裏へ回り扉の近くに潜むと、一人の警備が巡回してくる。

 手にはめているのは、魔術増強のグローブだ

『気を付けてください、警備メンバーには共有魔術が掛けられています。一人でも異常な心拍数を計測すると通知が行くようになっています』

「殺したらマズいってことか……麻酔弾があったな」


 拳銃の弾を麻酔弾に込め直し、サプレッサーを装着。


 頭を確実に狙い、一撃。


「ふわぁあ……」


 魔術適正が低いのか、警備兵に魔術防壁も張られておらず、なんなく無力化。

 体を漁るが、鍵らしきものは見当たらない。


『下っ端中の下っ端のようですね、鍵すら持たされてない』

「仕方ない……」


 懐からドライバーのような細い棒を3本。鍵穴に差し込み、手当たり次第に弄ってみる。すると、古い鍵だったからかすぐに開いた。


『ピッキングなんて出来たんですね』

「世の中、学ばなくていいものなんてないな」

『魔術なら一瞬だけどな』


 未悠さんが、皮肉か嫌味か、そう呟くが無視して進んでいく。

 中は一本道、階段を上がり、右に曲がり、また階段を下りれば倉庫だ。


 警備兵は二人、窓には全てに魔素感知器が備えられていた。


『随分厳重ですね』

「倉庫の中にも、何人か警備がいるようだ。ただの取引とは思えないな」


 通路の警備兵は二人一組で動いている。

 だが、万全な備えに慢心しているのか談笑している。

 なんとかして、二人同時に眠らせなければ。


「遠見、麻酔が回る時間を計測できるか」

『可能です、着弾部位から計算して麻酔が回るまでの時間を計測します』


 談笑している片方の男の左大腿筋に麻酔を打ち込む。


「ん……?」

「なんだ、何かあったのか?」

「蚊か何かに刺された」

「今の時期は多いからなぁ」

「ったく、魔術で蚊を駆除できねえのかってはな――――」

「おい、どうし――――」


 片方が倒れるのに合わせて、もう片方にも麻酔を頭に打ちこむ。

 頭部ではほぼノータイムで昏倒に落ちいる。これで、二人とも夢の中だ。


 階段上から覗くと、何かしらの機械の前で話し合っているディザネスと取引相手がいる。その周囲には警備兵。


 急所には魔術防壁を張っており、手には魔弾を放てるショットガンのようなもの。

 先ほどよりかは強そうだ。


 様子を伺っていると、一人の兵士が走ってディザネスに何かを話している。

 直後に焦ったように何かの魔術を行使する。


「侵入者だ! 侵入者がいるぞ!」

「なっ――――」

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