第三十話
伏見和佑は、ただ寝転がったまま動かなかった。
血液が急激に減ったせいで、一種のパニック状態に陥っていたのだ。
だが、その周囲には流れ出たはずの血液は存在していなかった。
「なんだ……なんだこれ」
だというのに、おかしい。明らかに俺が確実に勝っているはずだ。
伏見和佑は、魔術を使えない。装備している武器もすべて把握しているはず。
それなのに、なぜ村正は血を吸っている。
それなのに、なぜ伏見和佑は死なない。
それなのに、なぜ立ち上がっている。
それなのに、なぜここまで恐ろしい。
「デスアスク、お前は一つ間違えた」
右腕の出血はどこへいったのか、まるで小石につまずいたかの如く立ち上がる和佑。
まだ動かせる左腕は、村正を握っている。その刀身は、漆黒に染まっている。
体中が血だらけ、見るからに瀕死の和佑だというのに、俺は恐れを抱いていた。
そう、あの時、初めて伏見和佑を逃がした時と同じように。
「それは、俺を一撃で殺さなかったことだ」
そうして一度、刀身を空振りさせた。
急いで、距離を取る。
伏見和佑は結界外に、ぴたりと動きが止まった。
止まった、はずだった――――――
「――――――――――もう手遅れだ」
動くはずのない唇。
だが、その唇は確かに動いていた。
そして、たった六文字を聞き逃さなかったのは、ある意味不幸だったのかもしれない。
自らを覆っていた赤い結界は、砂の城のように粒子になって崩れ去った。
第一、第二の結界は全て自身の心臓に仕込んだ起因がもとで動いている。
第一の結界は、ひとつの起因が破壊されようと効果が半減するだけ。第二の結界は、実質自分を殺す以外に解除方法はない。
だというのに、結界は一人でに崩れ去った。
否、崩されたのだ。
「魔術は綻びから生まれ、綻びに収束する」
再び歩み始めた和佑。
隙だらけだというのに、手出しができない。
「村正が魔術殺したる所以は、綻びを辿るだけじゃない」
「く、くるなぁあ!」
パニックになり、圧縮魔術を連射する。だが、ことごとくを村正の一振りで解除されてしまう。
そして気付く。魔力が枯れ始めていることに。
「村正は…………」
「魔素を吸い上げろ、第一の結界!」
和佑から距離を取り、魔素を吸い上げる準備をする。
この学院から魔素を吸い上げれば、再び第二の結界を張れる。
なぜ、崩れたか分からないがもう一度作らなければ負ける。
俺の本能がそう叫んでいた。
「現れろ『我が手中にあり――――――――」
しかし、言葉は続かない。
漆黒の刀身が、心臓を的確に貫いていた。
そして、起因は村正の刀身により、ただ破壊される。
「村正は――――――綻びを創る刀だ」
瞬間、空は青く澄み渡る。
鳥が飛び、風が吹き、草木の匂いがする。
最後に見たのは、自然の美しさか、はたまた神か。
結界は、崩壊した。
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モチベがめっちゃあがります。




