第二十一話
「何年ぶりですかネ!私のこと、覚えていますカ?」
「もちろん……忘れたくても忘れられないな」
彼女の名前はリ・シェンメイ。
中国特別指定魔術師として、国では生ける国宝のように扱われていた人物だ。
その理由は、彼女の夢現適正の高さ。
夢現適正とは、現代魔術とは一線を画す新たな魔術、夢現流の適正値である。魔術適正はDと最低クラスだったが、夢現適正は現在残っている人類でたった3人の『S+』を叩き出した。
数年前、そんな彼女を暗殺しようする組織からの護衛、その組織の壊滅という任務を担当したことがある。
その時は、シェンメイがほぼ組織を壊滅させてしまい、俺の出る幕はなかった。というより、彼女の尻ぬぐいに追われた記憶がある。
そんなシェンメイが、なぜ日本に……?
「私も私立樫原学院へ入学しているんですヨ!」
「なるほど、確かに夢現流を鍛えるためにも入学する価値はあると思うが……」
「あ、おばちゃん、和佑にもカツカレーを!」
「俺もかよっ!」
勝手に注文される。特段、嫌というわけではないが。
昔の任務以来、全く会っていなかったが、彼女は特にこれといった変化はなさそうだ。この人懐っこい感じなどもそのまま。
「それにしても、和佑はなぜ学院へ?」
「ま、任務とちょっぴり青春を」
「任務? ルミハ部隊は解体されたんじゃありませんでしたカ?」
「ルミハ部隊はそのまま独立したんだ。今は未悠さんの元で万事屋まがいの仕事さ」
「なるほど! 国防省とIMROに喧嘩売ったと聞いて、心配でしたヨ!」
「喧嘩を売ったわけじゃないんだがな……シェンメイは寮生活か?」
「ハイ、国が家を借りてもいいと言ってくれましたが、学生寮を楽しみたかったので!」
シェンメイは、久しぶりに会った『俺の素性』を知る人物だ。ただでさえ、現役時代の俺を知っている人物は数少ないというのに、その中でも同年代の知り合いと出会えたことは、とてもテンションが上がる出来事であった。
そのせいか、いままで起きたことや、これからのことも存分に話しつくしてしまった。
カツカレーを食べ終えるころには、話は失踪事件に移っていた。
「ふむふむ~、その魔弾と失踪事件の痕跡を集めてるんですネ」
「だが、どうも思うように進まなくてな。あの学院の広さだから、足だけじゃそう簡単じゃない」
「うーん……分かりました、手伝いましょう!」
「手伝うって、痕跡探しをか?」
「もちろんデス! 代わりに、今度デートにでも連れてってくださいネ!」
「それは願ってもない話だ。デートくらい、もちろん付き合うさ!」
シェンメイは任務で出会ったころから俺を慕ってくれていることは知っているし、買い物くらいなら付き合おう。
それだけで、こんな強い助っ人が得られるなんて。人生、分かったもんじゃないな。
その後、更にカツカレーを二杯平らげたシェンメイと共に学院内に戻った。
「それじゃ、召喚しますネ」
「何を召喚するんだ?」
「はい、妖精を召喚して、学院内に放つんです。数日内に、情報を持ち帰ってきますヨ!」
魔術と夢現流の大きな違いはここにある。
魔術師は、このような雑務は使い魔を放つのが一般的だが、夢現流は全く別の『召還』という概念を使用する。
難しい話は省くが、魔術は使い魔を自らの魔術で錬成するか、そこらへんの生物を使い魔にするか、降霊術で冥界から呼び出すかが一般的だ。
だが、夢現流は「人類が想像で生み出した生物は全く別の次元に全て存在し、それらをこちらの次元に呼び出す」という解釈を編み出し、それを実現したという。
使い魔が現実に存在し続けるためには、魔術師が魔力を常に供給しなければならないが、夢現流で召喚した妖精などは自身で活動できるため、魔力供給の必要がない。そのコストパフォーマンスの良さも夢現流だ。
シェンメイは、何かしらの石のようなものを素手で握りこむと、石は粉々に砕け、周囲に散布されていく。
「来たれし物の怪の類、神と人類を繋ぎシ妖怪、我が手足となりゆけ」
その瞬間、シェンメイの周囲の光が屈折した。正確に伝えるとしたら、すりガラスがあるようにぼやけて見える。そして、その周辺には形のない「妖精」がいることに気付く。それは、見えないが確かにそこにあると感じられる、不思議な存在だ。
「何度見ても分からないな、魔素もほぼ感じない」
「実際、私もよく理解していませんからネ」
「おいおい、中国の特別指定魔術師だろ」
「この学院の魔術授業も訳分かりませんし」
そう話していると、周囲の妖精が散らばっていくのが感じ取れた。
これで痕跡を集めてくれるというのだから素晴らしい。
俺にも夢現適正が欲しかった。
「じゃ、妖精さんにあとは任せて、デートに行きまショ―!」
「――――止まりなさい~、あなた方に用がありますぅ」
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モチベがめっちゃあがります。




