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第一話

 血と化学薬品の臭い。

 幼いころの記憶だというのに、まだこれほどまでにこびり付いている。

 あの頃は、全面がガラス張りだった5メートル四方が世界の全てで、他に与えられたものは苦痛のみだった。


「さぁ和佑(かずすけ)、お父さんの実験に付き合ってくれるよね?」


 マイク越しで聞こえる父親の声。触れ合った回数は、実験回数と同義だ。

 しかし、その父親の声の後ろから、普段に耳にしない音が響いた。


「IMROだ!そのまま手を挙げて膝をつけ!」

「国際魔術研究機関!?マズい!急いで研究資料を――――」

「そこの男!貴様が伏見賢伸(けんしん)だな、貴様には十二の国際条約違反の容疑が掛けられている!」

「あそこに子供がいるぞ!被検体にされているのか!?」


 ガラス越しでも聞こえる大人たちの怒号。だが、一切泣きはしなかった。泣くという行為は、許されてなかったのだ。

 そして、ガラスが割れる音。初めて、火の熱さを知った。

 訳も分からず、ただ感動していた。

 すると、目の前に一人の女性がいることに気付く。その服装は、およそ後ろにいる重装備とは思えないラフな格好だった。


「こんなガキまで……チッ、坊主、早くここを出るよ」

「ここを……出る……?」


 三ヶ月ぶりに発した声を言い終わる前に、目の前の女性に抱きかかえられた。

 あの姿はまさしく俺の――――――
















「起きろ和佑ー!」

「おうさっ!」


 大きな人間目覚ましの声で目が覚めた。

 寝ぼけ眼で辺りを見回すと、ラフな格好のまま、拳銃で頭を小突いてくる人が。


「ったく、お前ももう高校二年生だろ。一人で起きれるようになれ」

「その前に未悠(みゆう)さん、寝起きの人に拳銃を向けないでください……」

「これは試作品だ、面白機能満載だぞ。ほら見てみろ」


 そういいながら、寝室に隣接している作業室へ連れていかれる。

 髪型を整えながら、未悠さんが広げている設計図を見る。その横には、大量のエナジードリンクの空き缶が。


「未悠さん、また徹夜したでしょ」

「こいつの調整に手間取ってな」

「で、それなんなんです?」

「実際に見てもらった方が早いな」


 と、少し離れたところに空き缶を数個並べる。


「こいつは魔術防御を貫通できるように調整してみたんだ」

「へえ」

「まず、この空き缶を魔術障壁でコーティングする」


 そう言いながら、空き缶に手をかざしながら、何語か分からない言語を短くつぶやく。すると、空き缶の表面が青く薄い障壁でコーティングされる。


「まず、この魔嫌石(まけんせき)を散りばめた弾丸を使う」


 ポケットから取り出した弾を拳銃に込め、空き缶に向けて一撃。ズドン、という大きな音と共に空き缶が吹き飛ぶ。その空き缶を見ると、魔術障壁は消え去っている。


「魔嫌石は、魔素を構成していない鉱物だ。故に魔術を無効化する。だからそれを散らばませたこの弾丸に当たると魔術障壁は消え去るわけだ」

「ふぁいふぁい」


 楽しそうに語る未悠さんの方を向きながら、歯磨きを始める。虫歯で病院には行きたかない。


「じゃ、次はどうだ」


 再び、空き缶に魔術障壁をコーティングする。そして、次は段ボール箱から市販の弾薬を取り出し、拳銃に込めた。


「この弾丸は、市販の鉛とギルディングメタルだけで出来ているが……」


 拳銃を空き缶に向けて、先ほどと同じように発砲。


「おお、ふごい……」


 本来ならぺちゃんこに潰れてしまうはずの弾丸は、難なく魔術障壁を破り空き缶を打ち抜いていた。

 とても大真面目に感心したことで大満足なのか、未悠さんはどや顔をしてこちらを見ている。さっさと口をゆすいでしまおう。


「これは、拳銃自身に魔嫌石の粉末をコーティングしていることで、弾薬にも一時的にその効果が移ることを利用しているんだ」

「流石は魔術殺しの神貫(かんぬき)未悠様ってところですね」

「素直な評価と受け取っておこう。さ、朝飯を作り給え」


 言いたいことを言ったら、リビングでソファに座りながら朝刊を読み始めた未悠さん。科学武器以外には興味はないようだ。

 冷蔵庫の中身を見ていると、どうやら何もないご様子。


「未悠さん、食材尽きたんで買ってきます」

「辻斬りにだけは気をつけろよー」


 財布を持って、事務所を出る。

 この事務所は、未悠さんが立ち上げたOrderly Freedomという万事屋の事務所だ。傍から見れば只の廃ビルだが、未悠さんが「ここをキャンプ地とする!」とか言って丸々買い取ったのだ。町自体が下町情緒あふれる場所なので、特に目立ったりなどもしていない。

 歩いて三分のスーパーで三日分ほどの食料を買い、両手いっぱいに荷物を持ちながら家路を辿る。

 時間的に、ちょうど学生の登校時間であり、その中堂々と道を歩くのは心臓に悪いので早めに事務所へ戻った。


「早かったじゃないか、辻斬りにでも襲われたか」

「襲われてたら、こんなにビニール袋持ってないですよ」

「っておい、ビールは!?」

「俺は未成年ですよ」


 食品を片付けながら、簡単に朝ごはんを作る。

 ビールの代わりにコーヒーを二人分淹れ、机へと運ぶ。

 よほど腹が減っていたのか、すぐに食べ始めた未悠さん。俺も腹が減っていたので、食べるとしよう。


『――次のニュースです。IMRO、国際魔術研究機関は新たに魔嫌石の貿易に高い関税をかけることを決定しました』


「また魔嫌石高くなるらしいですよ」

「はぁ、IMROは魔嫌石を流通させたくないだけだろ」

「そうなんですか?」

「商売の邪魔だからな、私みたいな異端者に回る前に買い占めて、流通を減らす気だよ」


 気に食わないのか、パンをコーヒーで一気に飲み込んでいた。急いで、おかわりを淹れる。

 IMROの話は、やはり不機嫌になってしまうらしい。話を逸らさなくては。


「でも、魔嫌石もそろそろ財布に来ませんか?」

「なら和佑よ、お前どうせ一日中暇なんだしバイトしろ」

「嫌ですよ、俺だって好きで学校行ってないわけじゃないんだし」

「なに?お前学校行きたかったの?」

「そりゃ、健全な十七歳ですから。青春を送りたいですよ」


 思い返せば、男だらけの訓練ばかり。あとは、女性とはおよそ呼べないであろう未悠さん。

 もっと青春したいってのは、わかってほしい。


「でも、俺が入れるような高校は――――」

「待て、ひとつだけ思い当たる節があるぞ」


 と言って、おもむろに立ち上がった。そして、一体何年前のかと思うような黒電話をぐるぐる回し始める。

 そして、少しいやそうな顔をしながらも何かを交渉し終えたのか、電話を切った。


「誰と電話してたんですか?こんな魔術通話のご時世に」

「そんなことより、お前、明日から高校生だ。喜べ」



 そう簡単に告げられた。


「う、うぇええええええええええええ!?」


 その時の未悠さんは、とても清々しい笑顔を浮かべていた。




もし作品を楽しんでいただけましたら、ブックマーク、評価、感想のほどよろしくお願いします。

モチベがめっちゃあがります。

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