残念
その後愛澤は近くの警察署で事情聴取を受けた。容疑者としてではなく参考人として。
「名前は」
愛澤は偽名を名乗る。信憑性を高めるために偽装した身分証明書を見せて。
「杉浦雄二です。横浜スカイの記者です」
狩野は拍手をした。
「勇敢な若者ですね。相手は殺人犯かもしれないのによく追跡する気になったものです」
「刑事ドラマの真似ですよ。高校時代の将来の夢が警察官でしたから」
狩野は溜息を吐く。
「これでその不審者を逮捕することができれば警視総監賞を受賞していたと思います。取材もいっぱい来たでしょう。勇敢な雑誌記者が連続通り魔事件の犯人確保に協力したということが事実になれば神奈川県警のイメージアップになるというのに。横浜スカイというのは地方紙でしょう。成功していたら一躍有名雑誌になったでしょうに。残念です。どうやらお互い煮え湯を飲まされました」
いろいろと苦労しているなと愛澤は思った。
「それなら僕の撮影した写真があります。せめてもの償いです。僕が話しかけなければすぐ逮捕できたと思いますから」
狩野は慰めるように話す。
「職質をしたとしても結果は同じだ。運がなかっただけだろう」
狩野は写真を見た。
「この男は佐久間翔。事情聴取をしたから間違いない」
そして狩野は上司に電話した。
「狩野です。殺人の第一容疑者は佐久間翔です。彼は犯行現場を眺めていました。彼は証拠品のナイフと同じ型のナイフを所持しています」
『家宅捜索状を作成しよう』




