名簿 前編
十三時。植田時計店。愛澤は玄関のドアを開けた。すると小太りの店長が話した。
「珍しいね。君が変装もせずに来店とは」
愛澤は指を立てる。
「短刀直入に聞きます。この店で販売した盗聴器付きの時計が、ある事件に利用されました。そのことが警察にバレると刑務所行きは確実です」
植田は怒る。
「告発するつもりか。お前だってこの店にはお世話になっただろう」
怒りに対して愛澤は笑う。
「基本的に組織の上層部の人間が逮捕されることはありません。なぜならその前に暗殺されますから。しかしあなたは違います。あなたは捨て駒ですから。同じような協力者は星の数ほどいます。あなたが逮捕されようが、ここで自殺しようが我々には関係ないです」
植田は怒りを鎮めた。
「それで何をすれば言い」
「交換条件です。あなたは簡単な質問に答えてもらいます。答えたら告発はしません」
「いいだろう」
愛澤は質問をする。
「佐久間翔をご存じですか」
「盗聴器付きの時計を購入した男だ。この購入者名簿に書いてある」
購入者名簿には佐久間の名前があった。
「購入したのは発売前日ですか」
「珍しいフライングゲットってやつで・・」
植田はあることを思い出した。




