再会
十一時四十分。愛澤は板利明の経営するイタリアンレストランに来た。ドアを開け周りを見回すとジョニーはおろか、客が一人もいなかった。
愛澤は適当な席に座った。明は水を持ってきた。
「いらっしゃいませ。ご注文は」
「連れが来るまで待ってください。それと板利君。久しぶりですね」
板利は愛澤のことを思い出すことができなかった。
「失礼ですがどちら様ですか」
「覚えていませんか。愛澤春樹です。コードネームで言った方が分かりやすいですか。ラグエルです。」
ラグエルというコードネームを聞いた時板利ははっきりと思い出すことができた。
「七年ぶりですか。ラグエルは変装の達人という認識しかありません。だからその顔が素顔なのかが分かりませんでした」
愛澤はこの店の感想を述べる。
「それにしても静かな店ですね。昼時なのに客は僕だけとは」
「風評被害です。通り魔事件の容疑者の店だとマスコミが騒いでから閑古鳥が鳴くようになりました。ここは大学が近く、スパゲッティーは安いから多くの大学生が来ます。本当は満席ですよ。今でも来るのはあの娘だけです」
愛澤は聞き返した。
「あの娘」
その時ドアが開いた。そこから大学生らしい女が出てきた。
「いらっしゃい」
「いつもの奴でお願いします」
女はそう言うと席に座った。愛澤は板利に質問する。
「彼女は」
「常連客の宮本栞さん。近所の大学に通う大学生だ」




