常備菜にポン酢ガーリックミニトマト
「今日の僕達の仕事は、常備菜を作ることです」
「常備菜を作ること」
真顔で告げた悠利に、ヤックも真顔で答えた。人によってはそんなこと? と思うかもしれない。しかし、彼らにとってはとてもとても大切なことだ。
常備菜、それはその名の通り、常に冷蔵庫に入っているおかずのことである。そして常備菜というのは、困ったときの手助けになるとても助かるアイテムという扱いでもあった。
例えば、ちょっと忙しくておかずを作るのに時間が足りないとき、あるいは小腹が空いたので軽く何かを食べたいと思うとき、もしくは急な来客対応。そんなときに、ささっと出せて食卓に彩りを添えてくれる常備菜は、とてもとてもありがたいものなのだ。
ついでに、《真紅の山猫》の仲間達は、それはもうよく食べる。小食組はいるものの、全体の割合で考えれば身体が資本の冒険者らしく、男女や年齢を問わず、割と皆ちゃんと食べるのだ。
それを思えば、困ったときのお助けアイテムである常備菜を切らすことなくしっかりと確保しておくのは大切なことである。そう、今の冷蔵庫は、常備菜がちょっと心もとない状態であったのだ。別にゼロではないが、追加できるならしておきたいな、ぐらいの感じだ。
「常備菜を作るのは解ったけど、何を使って何を作るの?」
「今日はこの大量のミニトマトを使うことにします」
そう言って、悠利がででんと作業台の上に出したのは、大きなボウルにこんもり山盛り入ったたっぷりのミニトマトである。真っ赤な色合いが美しく、皮はプリッと張りがあり、ツヤツヤとした輝きがある。一目見て美味しそうと思うような実に見事なミニトマトである。
「あ、これ、この間お土産で貰ってきたやつ」
「そう皆で食べてくださいっていっぱい持たせてもらったから。
これを使って常備菜を作っちゃおう」
「了解」
このミニトマトは、先日遊びに行ったマリアの実家、ヴァンパイアの領主様のお屋敷で食べていたミニトマトである。美味しいと気に入った悠利達の反応を見て、それなら大量にあるからお土産として持って帰るといいとプレゼントされたのだ。
金目のものや、何やら扱いに困るような高価な品を渡されるよりはよっぽどありがたい。来られなかった皆にも食べさせてあげてほしいという、優しい優しい心遣いのもと大量にいただいたのだ。腹ぺこを抱える《真紅の山猫》としては大変ありがたいことである。
「ミニトマトで常備菜かぁ……。でもミニトマトってそのまま食べられるよね」
「そのまま食べられるけど、これに一手間加えてちょっと味付けをしておくことで、グレードアップしたおかずになります」
「その理屈は解るかも」
「そして、今日は割と余力があるので、二人で頑張ってこのミニトマトを常備菜に進化させます」
「了解であります」
悠利が若干おどけた口調で言えば、ヤックもそれに乗ってくれる。
ちなみに、余裕があるというのは料理当番のヤックが特に勉強も訓練も入っていないからである。悠利の方もアジトの家事を出来る分は午前中にちゃっちゃか終わらせてしまったので、午後はこうして手すきなのだ。
手すきの料理担当が二人となれば、常備菜を作ってから晩御飯の支度に取り掛かってもまだ余裕があるというわけである。
そうと決まればやることは決まっていた。最初にやるのは当然ながらこの大量のミニトマトを洗うことである。一人がヘタを取り、一人が水で洗う流れ作業のようなそれを、悠利とヤックは慣れた手つきで続けた。
たかがトマトのヘタを取るだけでもこれだけの量があると大変だし、ただ洗うだけにしても大量にあれば大変である。しかし、彼らはその大変な作業の手を抜くことなく大量のミニトマトと戦い、無事にボウルに山盛りあったミニトマトをきれいに洗い終えた。
「洗い終わったけど、次はどうするの」
「これを半分に切ります」
「半分に切るんだ」
「半分に切ることによって、断面から漬けダレが染み込みます」
「なるほど、それはとても大事」
「そう大事なのです。なので……」
そこで悠利は言葉を切った。ボウルの上にこんもりと山盛りになっているミニトマト。それを見て、ヤックの肩をポンと叩いた。厳かな口調で一言告げる。
「頑張ろうね」
色々と実感がこもっていた。
単純作業であっても、量が多いと大変だ。二人で手分けして頑張ろうという悠利の言葉にされなかった部分も、きっちりと感じ取ったのだろう。ヤックはこくりとうなずいていた。
そこからはまた、二人で黙々とミニトマトを切る作業に入る。とはいえ、ただただ半分に切ればいいだけなので、そこまで疲れはしない。雑談をしながら出来る作業である。
晩御飯はどんなのにしようか、最近皆はどういうのが食べたがっているかなど、他愛ない会話をしながら、悠利とヤックはひたすらにミニトマトを半分に切っていく。そうして頑張っていると、すべてのミニトマトを切り終えた。
「出来たー」
「出来たねー」
「これ味付けは」
「ポン酢にガーリックを加えます」
「何それ、オイラ知らない味」
ふふんと胸を張るような悠利に、ヤックはちょっとだけ目を見張った。トマトとポン酢が合うのは、知っている。トマトとガーリックが合うのも知っている。しかし、その二つを合わせたレシピというのは知らない。何それ知らないという感じにヤックが反応するのも無理はなかった。
そんなヤックに、まあやってみれば解るよ、と言わんばかりに、悠利はトマトが入っているのと別のボウルを取り出して調味料を並べた。
「今日使うのはポン酢、お砂糖をちょっとにガーリック。これはこれからすりおろします。あと、風味付けにごま油も使うよ」
悠利が並べた調味料を見てヤックは小首をかしげる。何でそれがそこに? みたいな顔だった。ヤックの視線が捉えているのは砂糖であった。ポン酢とガーリックだと聞いていたのに、なぜそこに砂糖があるのかと思ったのだろう。
そんなヤックに、悠利はこう告げた。
「お砂糖をちょっと入れるとまろやかになるからね。それにほら、甘酢和えはお酢とお砂糖だし、別に変な味にはならないよ」
「そっか。じゃあ、やらなきゃいけないのはこのガーリックをすりおろすことだね」
「そうなんだよね」
ガーリックをすりおろすのは決して難しい作業ではない。皮を剥くのがちょっと面倒くさかったりはするが、ガーリック自体はそんなに固くないので、おろし金ですり下ろすことに力はいらないのだ。だが、料理当番達の中であまり人気のない作業でもある。
理由はただ一つ、ガーリックのすりおろしをやると、指先にこうガーリックの匂いがたっぷりついてしまうからだ。別に彼らは、匂いがついてしまうのが気になるなどということを言いたいわけではない。
もっと切実な問題だ。すりおろしたガーリックから香る匂いというのはこう、お腹が減るのである。育ち盛り、食べ盛りの少年達にとっては、自分の手から食欲をそそる匂いがするというのはなかなかに拷問らしい。
とはいえ、そんなことを言っていては料理当番はやっていられない。これも仕事であり修行である。なのでヤックは、オイラ頑張るよと言わんばかりの覚悟をにじませて、快くガーリックのすりおろしをやってくれた。
別に僕がやってもよかったんだけどなと思いつつ何も言わない悠利。ヤックがやる気になっているのならお任せしようの気持ちだった。
その間に悠利は空っぽのボウルにポン酢をたぱたぱ入れて、そこに砂糖を適量入れ、丁寧に混ぜる。ここでしっかり混ぜておかないと、砂糖が変な風に固まったまま残ってしまうからだ。全体にしっかり混ぜ合わせるというのは基本中の基本である。
そんな風に悠利が砂糖を溶かし込んでいると、作業を終えたヤックがすりおろしたガーリックを持ってきた。
「こんな感じでいい?」
「ありがとう、ヤック。じゃあ、それをここに入れてくれる? 混ぜるから」
「了解」
元気よく返事をして、ヤックはポン酢と砂糖の入ったボウルにすりおろしたガーリックを入れる。そしてそれを悠利が混ぜる。ダマにならないように、こういう地道な作業が大切だ。ここで手を抜くと、漬けダレの味にムラが出来、食べたときに味の違いが生まれてしまうのだ。それを防ぐためにやっているのだ。
そんな風に丁寧に混ぜた結果、砂糖もガーリックも全体にきっちりと混ざった。そこへ悠利は、香りと風味をつけるためのごま油を足して再び混ぜる。ポン酢、すりおろしたガーリック、更にごま油。これはどれもこれも食欲をそそる匂いである。
少なくとも《真紅の山猫》において美味しそうと皆が連想する匂いでもあった。そして、その三つが決して喧嘩することなく調和した状態で美味しそうな匂いをさせているのだ。無意識だろうが、ヤックの喉がごくりと鳴った。
悠利はそれを特に指摘することはなく、味見用の小さなスプーンを取り出すとタレを少量すくってヤックに差し出した。何を求められているのか理解しているヤックは、悠利に向けて掌を差し出す。悠利はそこにタレをぽとんと落とすと、自分も同じようにスプーンですくったタレを掌にのせる。
彼らはほぼ同時にぺろりとそれを舐めた。最初に感じるのはごま油の豊かな風味、続いてポン酢のすっきりとした酸味に、ガーリックが後を追いかけるようにやってくる。
後味はポン酢が強いだろうか。ということは、後味はすっきりという感じだ。砂糖の甘みはあまり感じられなかったが、全体的にまろやかに仕上がっているような気がして、それがきっと砂糖の力なのだろうな、とヤックは思った。
「うん、こんなものかな。ヤックはどう?」
「何か食べたことない味だけど、これはこれで美味しいかも」
「よかった。実際食べるときはもう少し薄まるけどね」
「薄まるの?」
「トマトの水分が出るから」
「あ、そっか」
「というか、ここにトマトの旨味が入るって感じかな」
「それはそれで楽しみ」
そう言って、ヤックは満面の笑みを浮かべる。
トマトがあまりにも大量なので、一つのボウルで全ては作れない。まず第一弾ということで、タレにしっかり浸かるだけの量のミニトマトをボウルに入れ、冷蔵庫に入れる。その間にまた新しいタレを作って次のミニトマトを入れるという感じの作業を二人は繰り返す。
何せ、こういった漬け込む系のものは、しっかりとタレに具材が漬かっていないと美味しくない。ボウルに山盛り作るわけにもいかないのだ。
そんな作業をしながら悠利は思う。こういうときにきっちりと密閉できる頑丈な袋があればいいのに、と。まあ、ないものねだりをしても仕方ないのだが。ただ、こういうときにふと現代日本は色々な道具が充実していたなぁと思うわけである。
……逆を言うと、そういう部分からしか思い出さないあたり、悠利の性格が出ているのかもしれない。
そして作業を繰り返してちょっと休憩をした後、最初に漬け込んだボウルをユーリは冷蔵庫から取り出した。
「ユーリ、もう味見できるの?」
「うーん……。長く漬けた方が味はしっかり染み込むと思うけど、ひとまず味見できるぐらいには味がついたかなと思って。なので、ちょっと味見してみようか」
「みようー」
顔を見合わせて笑顔を浮かべ、手にしたフォークでミニトマトを一つ突き刺す。そしてそれをそのまま口に運ぶ。口に入れた瞬間、ぶわっと口の中から鼻に抜けるのはポン酢とガーリックの匂いだ。どちらかというとガーリックが勝っているような気がするが、それは最初の印象だけで後から追いかけてくるポン酢のまろやかな酸味がいい感じになっている。
そのままトマトに歯を立てれば旨味がぎゅっと口の中に広がり、調味料の味と混ざる。タレだけを味見したときは少し濃いめに感じた味付けだが、こうしてトマトと一緒に食べてしまえばその水分や旨味と一緒になっていいバランスだ。
漬け込んだことで、トマトが少しばかりしんなりしているのもまた楽しい。しかし、しんなりしているからといってぐずぐずになっているわけでもなく、ミニトマト特有のちょっとした弾力も残っている。
「割といい感じかも」
「オイラ、結構これ好きかも」
悠利がつぶやけばヤックもニコニコと笑う。悠利が作る料理は基本的に、魔改造民族日本人、しかも家でなんやかんやとアレンジ料理もしたりするような家庭で育った悠利の味覚をベースにしている。幸いなことに、《真紅の山猫》の仲間達というか、この異世界の人々は悠利と味覚に大幅な違いはないようで、悠利が美味しいと思う味付けを割りと美味しいと思ってくれている。料理担当としてはありがたい限りだ。
勿論個人の好みの違いというのもあり、この味付けはあんまり好みじゃないかもみたいな事案は発生するが、それは料理をする上では当たり前とも言える。料理の好みは千差万別、十人十色である。
「盛り付けて出すときは、ここに炒りごまをパラパラっと散らしたり、刻んだ青じそをパラッと乗せてもきれいかなと思うんだ」
「青じそって、トマトと相性いいよね」
「うん」
「何で一緒に入れなかったの?
不思議そうな顔をするヤック。トマトと青じそのコンビはもはや黄金コンビと言っていい。この二つが合うのはヤックも知っている。だからこそ、いっそ最初からここに混ぜてしまえばよかったのに、というのが素直な感想なのだろう。
そんなヤックに対して悠利は大真面目な表情でこう告げた。
「個人的になんだけどね。漬け込んじゃうと青じその色が変わっちゃうのが、もったいないなって思っちゃうんだ」
「……あ、確かに……」
遠い目をした悠利にヤックは同意を示してくれた。青じそはみずみずしい緑の美しさが魅力的な薬味の一つである。しかし、火を入れたりタレにつけこんだりするとその鮮やかな緑が若干黒っぽくなったりするのだ。そんな風に色が濁るのを、悠利はもったいないと思ってしまったのである。
相方が真っ赤で艶々のミニトマトならば、そこに添えるのはやはり同じように鮮やかな緑の青じそでいてほしいのだ。そんなちょっとしたこだわりであった。
理由が解ったので、ヤックはなるほどとうなずいている。それならば盛り付けるときに青じそを切って添えればいいだけだ。綺麗な料理の方が美味しそうに見えるというのは理解している。悠利と一緒に料理をするようになって、彩りや盛り付けが食欲に影響するということを学習してもいたのだ。
とにかくミニトマトのガーリックポン酢漬けは上手に出来た。あとは、いい感じに味が染み込むまでボウルのまま漬け込んで、今日食べる分と、常備菜として保存しておく分を分けるだけだ。
僕達頑張ったなーみたいなオーラを出している悠利とヤック。そこで彼らは気づいた。じーっと自分達を見ている視線があることに。
「えーっと、レレイにマリアさん……? 鍛錬のお時間では?」
ちょっぴり顔を引きつらせながらユーリがそう問いかける。そんな悠利に、レレイはにぱっと満面の笑みを浮かべた。
「喉渇いたから水飲みに来た」
そんなレレイに続けて、マリアが麗しの美貌にふさわしい妖艶な微笑みを浮かべて告げる。
「そうしたら何だか、とても美味しそうな匂いがしてきたから、気になってしまっただけよ」
実に楽しげなお二人である。しかし天真爛漫な笑顔のレレイも、妖艶な微笑みのマリアも、今の悠利とヤックにしてみれば天敵の出現ぐらいの扱いだった。
何せレレイは何でも気にせずいっぱい食べる大食い女子であり、マリアはトマトが大好きなお姉さんである。見つかりたくない相手に見つかってしまった。そんなオーラがにじみ出ている二人。笑顔でにじり寄るの女子二人。どう考えても蛇に睨まれたカエルみたいになっていた。
いつもの悠利ならここで必要な分なのでと押し返すのだが、今それが出来ないのには理由があった。目の前のこれは、マリアの実家からの頂き物である。そして、マリアを溺愛する兄デュークから、妹に美味しいものを食べさせてあげてほしいと言われたという背景がある。ここで拒絶してしまうと、デュークのその言葉に背くような気がして若干の罪悪感があるのだ。
どうしよう、どうしようと考える悠利。ヤックも同じような顔をしていた。しかもそこに、ゾロゾロと他の仲間達までやってくる。ついでに、何か試食できるなら俺達も混ぜてと言わんばかりの若手組ばかりである。ここに大人がやってきただけなら、うまくいけばこちらの味方をしてもらえただろうに、やってきたのは援軍ではなかった。
しばらく考えて悠利は、自分達の目の前にあるボウルの中身と、いつの間にか増えている傍観者達を見比べた。
「ユーリ、どうするの?」
「うーんまあ山盛り仕込んだしね。この中身ぐらいは皆に分けても大丈夫だと思う」
「じゃあオイラ小皿取ってくる」
「よろしく、ヤック」
二人のやりとりを聞いた仲間達は、パッと顔を喜びに染めた。やったおやつだ! みたいな雰囲気になっている。違います。おやつじゃないです。単なる試食です。
そうして小皿に用意されたミニトマトのガーリックポン酢漬けを、仲間達はじっと見ていた。単なるミニトマトだと思ったら、何やら実に食欲をそそる匂いがする。そんな面持ちの仲間達が嬉々として悠利とヤックから小皿を受け取っていった。
試食とはいえ一人一個というわけにはいかないようで、少なくて三つ、人によっては五つ以上小皿に入った状態で受け取っていく。まあ、それでも山盛り仕込んだミニトマトはなくなっていないので、常備菜としての面目は保てるだろうか。
そんなことを考えている悠利とヤックの前で、仲間達は初めて食べるミニトマトを美味しそうに口へと運んでいた。みずみずしいミニトマトはそれだけで十分な旨味と甘みを持っているし、そこにインパクト抜群のすりおろしたガーリックの風味が届く。さらにはすべてを包み込むポン酢の、酸味がありながらもまろやかさも宿した絶妙のパワーバランス。
まあ早い話がとても美味しいということで、皆の口にひょいパク、ひょいパクとミニトマトは消えていく。
するとどうなるかというと――。
「お代わり欲しいです」
回りくどいことをするよりも正面突破がいいと思ったのか、最初にそれなりの量を持っていったはずのレレイがぺろりとミニトマトを平らげて戻ってきた。
「えーっとレレイ、これ別におやつじゃないんだよ?」
「おやつこれでいいよ」
「いや、これでいいよ、と言われましても……」
それは何か違うのではなかろうか。そんな顔をする悠利だが、目をキラキラと輝かせたレレイは話を聞いていない。どうやらよっぽど気に入ってしまったようだ。その隣で、おかわりあるんでしょう? と言わんばかりにお皿を出しているのはマリア。トマト好きの妖艶美女のお姉さまのお口にもきっちり合ってしまったらしい。
そして、レレイとマリアの二人がいると、つられるようにお代わりが欲しくなったのだろう。ちゃっかり他の仲間達も後ろに並んでいる。普段ならこういうことに便乗しなさそうなアロールまで並んでいるのだから、どうやら本当に美味しかったらしい。
えーっとどうしようかと悠利は思った。思ったが、そもそもミニトマトがたくさんあるので常備菜にしようと作っただけであって、本日の夕飯とはあまり関係がない。そして常備菜というのは、お腹を空かせた仲間達の小腹を満たすために使われることもある。それを考えると、使い方としては間違っていないのだ。ただ仕込んだその日に、結構な量が消えそうだなというだけで。
「ユーリ、これ大丈夫?」
「ヤック、常備菜はいつかなくなるものだからね。うん」
「ものすごく言い聞かせてる」
一生懸命頑張って作った常備菜。それを仲間達が喜んで食べようとしてくれている。それでいいと悠利は思うことにした。多分いろいろと面倒くさくなったのである。
「じゃあ。今日のおやつはこのミニトマトのガーリックポン酢漬けということで」
「やったー」
「わーい」
「おやつ、これでいいの? 本当に?」
「いいよ! 美味しいもん」
そんな会話をしながら悠利はおかわり希望の仲間達の小皿にミニトマトを入れていく。確かに美味しいけれど、お腹は膨れないと思うのだ。
だいたいおやつというのは小腹を満たすためなのだから、あんまりお腹にたまらないトマトでどうするんだろうという気持ちにはなる。なるがまあ、美味しいねと言い合いながら、皆が仲良く食べてくれているのが見えるので、それ以上は何も言わなかった。
「これ、そのまま食べても美味いけど、何か他のもんに混ぜても美味そうだよな」
「ウルグスなら何に混ぜる?」
「あー? まぁ、単純だけどサラダとか」
「それはそれで美味そう」
仲良くわいわいと雑談をしているのは見習い組だ。単なるミニトマトをサラダに入れるのも美味しいが、こうして味の付いたミニトマトを添えると更に美味しくなるのではという感じだった。与えられたものをそのまま食べるだけでなく、アレンジを考える程度には彼らも成長していた。
そんな中、黙々とミニトマトを食べていたマグがぼそりと呟いた。
「パスタ」
「え?」
「美味」
告げるだけ告げて満足したのか、また食べるのに戻るマグ。どういう意味かよく解らなかったカミールとヤックは、ウルグスを見た。毎度お馴染みマグの通訳担当のウルグスは、ミニトマトを咀嚼してから口を開いた。
「サラダうどんみたいに、サラダを載せたパスタに混ぜたら美味そうだってよ」
「今のどこにその要素あったの!?」
「パスタしか言ってねぇよ!?」
明らかに言葉が足りないだろうと主張するヤックとカミール。知るかよと言いたげなウルグス。我関せずのマグ。そんな賑やかな見習い組の会話を、悠利は賑やかだなぁと思いながら眺めていた。
それはそれとして、サラダパスタみたいな感じで使うのは悪くないかもしれないなぁと思った。前にめんつゆトマトで冷製パスタを作ったことがあるので、そういう発想に繋がったのかもしれない。また今度やってみるかーと思いながら、ミニトマトを頬張る悠利なのでした。
なお、なんやかんやでお代わりが相次ぎ、ミニトマトはそれなりの量が消費されるのでした。一応常備菜用は残っているのでセーフです。多分。
お土産にもらったトマトなので、まずトマトが美味しいのです。
ご意見、ご感想、お待ちしております。
なお、感想返信は基本「読んだよ!」のご挨拶だけですが、余力のあるときに時々個別でお返事もします。全部ありがたく読ませて頂いております!





