食感楽しいワカメしゃぶしゃぶ
目の前のボウルにででんと山盛りにされている謎の濃い緑の草みたいなものを見て、マグは首をかしげた。ちょっと見覚えがないと言いたげな顔である。ただ何か心惹かれるものでもあるのか、ツンツンとつついている。
そんなマグに向けて、悠利は笑いをこらえきれない表情でこう告げた。
「マグ。それはワカメだよ。生ワカメ」
「ワカメ」
いつも見ているのとちょっと違う気がする、と言いたげなマグ。そんなマグに、悠利はこう告げた
「そうだね。いつも使っているものより塊が大分大きいから、不思議な感じがするかもね」
そう、その通りだった。普段使っているものは板状というと変だが、長方形にザクザクと一枚ずつ切ってあるのだ。しかし、今はびろーんとつながっていて、何やらデコボコした印象を与える。
悠利にとってはとても見慣れた形状である。スーパーなどで生ワカメとして売られているものが、だいたいこういう形状をしているのだ。
「ワカメ」
そうつぶやいたマグは、ボウルの中の大量のワカメを見て、次に悠利を見た。普段はあまり表情筋の動かない少年であるが、その目がどこか輝いているように悠利には見えた。好きな物を前にすると割と解りやすいのだ。
「今日はね、この大量の生ワカメが手に入ったからワカメしゃぶしゃぶにしようかと思って」
そう悠利が告げた瞬間、明らかにマグのまとう空気が華やかになった。感情表現豊かな者であったなら、満面の笑みを浮かべているであろう空気感だ。
何故マグがこんなに喜んでいるかというと、マグは和風だし、それもどちらかというと昆布だしの方にときめきを覚えるタイプなのだ。そして、その流れでか海藻にも他の食材よりは興味を示すのだ。
マグの中でワカメは昆布の親戚ぐらいの認識だった。なので、昆布を使った料理が美味しいのならば、ワカメを使った料理も美味しいに違いないという感じで、謎の理屈が存在していた。
そして、このワカメしゃぶしゃぶという料理はマグが以前食べてみたいと悠利に圧をかけていた料理でもある。
事の発端は、大量のレタスを美味しく食べるためにレタスしゃぶしゃぶをしていたときのことだ。他にはどんな物をしゃぶしゃぶにして食べるのかと話題を振られた悠利が、たとえに出したものの中の一つにワカメがあった。そこに出汁の信者ことマグが食いついていたというわけである。
とはいえ、王都ドラヘルンは内陸にある都市だ。流通の要所ということもありありとあらゆる食材が揃うには揃うが、あまり馴染みがないのか、生ワカメというものはさほど見かけることがなかった。魚も刺身で食べる習慣がない地域なのも関係しているのかもしれない。
ところが、運よく大量の生ワカメを悠利は発見したのである。ならばこれをマグが喜ぶワカメしゃぶしゃぶにしてあげればいいという結論になった。悠利が献立を決めたり食材を買うのを決めるのは、そういう流れのことが多々ある。
勿論、皆が美味しく食べてくれるのが一番だ。その上で、特定の誰かが好きそうなものを見つけたら、喜んでくれるかなぁという発想でそれを献立に組み込むのはよくあることだ。
またワカメに関しては、人魚族のイレイシアもきっと喜んでくれるだろうという確信がある。彼女は人魚らしく、故郷では海藻や魚介類をメインとして食べて生きてきた子だ。肉も野菜も何でも食べる少女ではあるが、やはり馴染みのある食材の方が食が進むだろう。
またそれとは違うが、和食に似た食文化の地域からやってきているヤクモも、もしかしたら食いついてくれるかもしれない。普段それほど食に対して自己主張をするわけではない面々の喜びそうな食材ということもあって、悠利は張り切って買い込んだのだ。
それに、ワカメをはじめとする海藻はミネラルが豊富で栄養満点だ。しゃぶしゃぶにすることで、通常スープに入れるときなどよりもたくさん取れるはずである。たまにはそういう日があってもいいのではないかという結論で、こんな感じになっている。
「出汁」
大きな鍋を手に、マグは真剣な顔でそう告げた。しゃぶしゃぶにするならば出汁が必要だろうという無言の圧力である。既にやる気満々であった。
しかしこれは、悠利にとっても願ってもないことだ。マグは出汁が好きなだけあって、出汁を引くのがとてもうまい。更にその出汁を使ったスープの味付けも得意なのだ。
今回悠利がワカメしゃぶしゃぶに使いたいのは、いわゆるすまし汁のようなお汁である。となれば、それを得意としているマグに作業を任せてしまうのはありである。
「じゃあ、マグは昆布だしですまし汁みたいな感じのスープを作ってくれるかな? 僕はその間にワカメの下ごしらえをしておくから」
「諾」
任せてくれたまえ、みたいな感じであった。勿論、普段からマグは与えられた役目はきちんと全うする子だ。手を抜くことはほとんどない。
しかしそれでも、大好きな出汁を使った、自分が食べたいと思っていた料理を作ることになるということもあって、ものすごく張り切っているのであった。単純と言うなかれ。そういうモチベーションは大切です。
「皆がおかわりしても大丈夫なように、多めに作っておいてもらっていいかな」
「諾」
悠利の言葉に、マグは力強くうなずいた。皆がおかわりをする分と悠利は口にしたが、そもそもマグが誰よりおかわりをするだろうなという予感はあるのだ。
ワカメしゃぶしゃぶなのでスープはそれほど食べないかと思うかもしれないが、そうはいかないのだ。何せ、その鍋にきのこや豆腐を入れようとしている悠利がいるので。そうなると、仲間達がスープを飲んでしまうと考えられる。
途中でスープがなくなってしまっては悲しいので、残るぐらい大量に作っておく方がいいだろう。残ったら残ったで、明日の料理に回せばいいだけなのだから。
そんなわけで、大量の出汁を作る作業をマグに任せたまま、悠利は生ワカメと戦うことに決めた。
大きなボウルに、まずは洗いやすいように分量を調整して生ワカメを入れる。丁寧に水洗いをするのは、一応売られている品だから大丈夫だと思いつつ、砂や小さな石などの汚れがついていないかを確認するためだ。
そうして丁寧に洗い終わった生ワカメを、食べやすい大きさにちぎる。ワカメは割と簡単にぷちぷちとちぎることが出来るので、包丁やハサミを使わずに大きさを調整することが出来るのが助かりものだ。
時々少し硬い部分があるのだが、それはまあ爪を使えば楽にちぎれる。そして、そういうところは食感が違ってこれもまた美味しいのだ。なお、房を分けるようにちぎっただけではものすごく長いので、それを更に三つぐらいに分けて、お箸でつまんで食べやすいようにしていくのである。
単純な作業だが、ワカメの数が多いので何気に大変だ。ワカメを洗い、ちぎり、余計な水気を落とすためにザルにあげる。黙々とその作業をしていると、気づいたらじっとそれを見ているマグの視線と目があった。
「マグどうしたの?」
「お湯、まだ」
「ああ、そっか。じゃあ、僕が水洗いするから、お湯が沸くまでの間これをちぎってもらっていいかな? 大きさはこんな感じ」
「諾」
大量のお湯を沸かすのでどうしても時間がかかるため、その間手持ちぶさたになったマグは自分も手伝うと言ってくれたのである。実にありがたい。
なお、マグがここで張り切っているのは、頑張れば頑張った分だけ美味しいワカメしゃぶしゃぶが食べられると思っているからだ。悠利としても、大量に買ってきた生ワカメの下処理を手伝ってもらえるのは助かるので、お互い様と言うべきだろうか。
とにかく、二人でせっせとワカメをちぎる作業を続ける。簡単な作業なので、雑談をしながら出来るのがいいところかもしれない。
特筆すべきは、妙に職人気質を発揮するマグがほとんどのワカメを同じぐらいの大きさにちぎっていることだろうか。悠利は割と適当に食べやすそうな大きさでちぎっているのだが、マグは何だかんだで全部均等になるようにちぎっている。性格だなぁ、と思う悠利なのだった。
二人がかりでワカメの下準備を終えると、マグは沸いたお湯を使って出汁を取りスープを作る作業に入る。その傍らで、悠利は鍋に入れる他の具材を切り分ける作業に入った。
ワカメを堪能したいので、見分けやすいように葉物野菜は入れない。ただ、スープに旨味を出したいのできのこを大量に入れることにする。エノキ、シメジ、マイタケ、それぞれのキノコを食べやすい大きさに切り分け、種類ごとにボウルに入れていく。
作業自体は簡単なのだが、こちらもやはり分量がなかなかに多い。何せしゃぶしゃぶとして提供するのだから、いつものように器によそっておしまいではないのだ。各テーブルに卓上コンロと鍋を置き、そこにスープと具材を入れるという形での提供になる。必然的にキノコの分量も必要になるのだ。
まあそれで皆がたくさん食べてくれるならそれに越したことはない。何せ今日のメインディッシュは、ワカメしゃぶしゃぶなのだから。
勿論、それだけでは物足りないと言われるので、後ほど肉たっぷりの野菜炒めなどを用意しようと思っている。肉を焼いたものをドーンと与えるよりも、野菜もりもりの肉野菜炒めにする方がおかずが二つでもたくさんの具材を食べることが出来るはずだ。
それだけでは寂しいので、常備菜として常に仕込んであるめんつゆトマトと塩きゅうりを添えようと思っている。ボリュームという意味では少ないかもしれないが、たまにはこういう日があってもいいだろう。ワカメをたくさん食べてもらいたいという、悠利の意思の表れだった。
まあ、どうしてもこれでは物足りないなどと言われた場合には、ベーコンやウインナーなどを焼いて提供すればいいと思っている。そういう食材は冷蔵庫に常に入っているので、リクエストされたなら欲しい人だけ焼くのもありだなと思っている悠利なのだった。
なお、悠利は個人的にワカメしゃぶしゃぶが終わった後の鍋でうどんを食べるとか、玉子雑炊にして出汁の旨味を余すことなく堪能するとかしてみたい気持ちもあった。これに関しては、スープの残り具合と相談してということになりそうな気がする。
何となくだが、そのままスープもなくなってしまいそうな気がしている。とはいえ、鍋の締めというとどうしてもうどんやラーメン、あるいは雑炊という風に意識が行くのはきっと日本人ならではなのだろう。何となく、宴会メニューなどでも締めは麺かご飯という風についている気がするので。
ひとまずマグが作ってくれたスープが出来上がったので、そこにきのこをすべて投入する。ありがたいことに、きのこは早くから煮込んでおいても煮崩れしたり溶けたりすることがない。むしろ出汁がしっかりと出て旨味を増やしてくれるのだ。
なので、きのこを入れてしばしことことと煮詰める。その間に肉野菜炒め、塩きゅうりの準備に取り掛かる二人だった。
しばらくしてスープにいい感じに出汁が出た頃、悠利はワカメの入ったボウルを手に鍋の前に立った。
「味見」
「まだ入れてないよ、マグ……」
ようやっと待ちに待った味見なのだなと言いたげに、マグが悠利を見ている。そんなマグの圧を感じながら、悠利はワカメをそっと鍋の中に入れた。ぽこぽこと沸いた鍋の中に濃い緑のワカメを投入すると、火が通った証しのように鮮やかな緑に変わる。その色が何とも美しい。
この生ワカメはそのままでも食べられるので、スープにしばらく漬け込んで温めるというイメージの方が近いだろうか。綺麗な緑がまんべんなく広がり温まったであろう頃合いで引き上げ、取り皿に乗せる。
その取り皿を渡されたマグは、じっと悠利を見ていた。
「とりあえずそのまま食べてみて、味が薄かったらポン酢をかけるとか出汁醤油をかけるとか、各々で調整してもらう感じにしようと思ってる」
まずは味見をしてみなければ始まらない。それはマグも解っていたのか、こくりとうなずいて悠利から受け取ったワカメを口へと運ぶ。
最初に感じるのはワカメ独特のつるりとした表面の感触。続いて、噛んだことにより感じる弾力。癖のないあっさりとした、けれど確かに海の潮を感じさせる独特の風味が口の中に広がる。
そして、きのこの旨味を吸い込んだスープがいい感じに仕事をしているのか、ワカメ全体の味と絡み合って何とも言えず美味しい。人によっては少し薄く感じるかもしれないが、悠利はこれぐらいで大丈夫だった。
そして、出汁の信者とまで言われるマグはといえば、大満足しているようだ。口の中にあるワカメをひたすら噛んでいる。
……そう、飲み込まない。いつまで経っても噛んでいる。
「マグ、味見なんだから飲み込もうね」
悠利にそう諭されてからやっと飲み込むぐらいには、ワカメしゃぶしゃぶを気に入ったらしいマグだった。
「特に問題はなさそうかな。ワカメを各テーブルにボウルに入れて出して、スープを卓上コンロで使う用のお鍋に移してテーブルの上に並べようか」
「諾」
悠利の言葉に、マグはこくりとうなずいた。準備が整ったテーブルを見て仲間達がどんな反応をするか、それがちょっぴり楽しくなる悠利であった。
そして夕飯の時間。今日の夕飯は何だろうとやってきた仲間達は、テーブルの上に鍋と卓上コンロが置かれているのに目を丸くした。続いて、ででんと置かれたワカメに「なんだこれ……?」という顔をしていた。
ただし、悠利から説明を聞いていろいろと納得はしたらしい。しゃぶしゃぶという料理に触れるのは初めてではないので、どういう風に食べるかの説明は簡単に終わった。
また、味が足りなかった場合は、各好きに追加の調味料を使ってくれということで、ポン酢やめんつゆ、出汁醤油などが用意されている。そんな風に各自に任せるみたいなことがあるのも珍しいことではないので、今日はそういう感じなんだなというので終わっている仲間達だ。
そして、いざワカメしゃぶしゃぶを食べ始めると皆、これは意外といいものだというような反応を示していた。
というのも、ワカメが意外と美味しいと気づいたらしい。葉っぱの類いを入れてしゃぶしゃぶにする場合は、火が通ってくにゃりとしてしまう。レタスがいい例だ。生で食べるときはシャキシャキとした食感を保っているのに、一旦鍋に入れてしゃぶしゃぶにしてしまうと、へにゃっとなる。いや、レタスの場合はその変化を楽しむというとこもあるのだが。
それに対してワカメは、色はより鮮やかになるが食感自体は変わらない。しっかりとした弾力を残し、スープの旨味をきっちりと受け止める度量がある。その独特の食感が、「あ、これ美味しい……!」というのにつながっているらしい。
あと、いつも味噌汁に入れているようなワカメより肉厚なのもいいのだろう。今回は実に良い生ワカメが手に入ったと悠利も思っている。
そんなワカメしゃぶしゃぶに、マグが食いついていないわけがない。作っている最中から興味津々だったのだから。なので、同じテーブルの見習い組の三人を相手に三対一だというのに負けず劣らずの量を勢いよく消化している。
しかし、これに関してはそうなるだろうと解っていた悠利は、彼らのテーブルには他より多めにワカメを用意してある。見習い組の三人も、マグがこれに食いつかないわけがないと思っているらしく、言い合いはしながらも気に入って食べているマグの邪魔はしていない。
ちなみに、自分が入れた分のワカメは自分でという感じなので、鍋に入れるときのタイミングをずらしている。やはり誰かに取られるとちょっぴり悲しいので賑やかになっているテーブルもあれば、お互いちゃんと気遣いをし合って静かに堪能しているテーブルもある。
なお、静かに堪能しているテーブルはここ、悠利とイレイシアとヤクモのテーブルである。ちなみにこの三人は生魚美味しいね同盟である。なんだそれと言わないでもらいたい。割と重要なのだ。
このあたりでは生魚を食す文化がないので、彼らにとっては何より美味しいと感じるお刺身の良さが解ってもらえないのだ。必然的に、同じものを美味しいと思って食べることの出来る相手というのは心が近づくのである。
そんな彼らであるが、今はワカメの美味しさを堪能する同盟でもあった。悠利の予想通りと言うべきだろうか。人魚族のイレイシアはもう一も二もなく、ワカメを見て嬉しそうな顔をしたし、和食に似た食文化の地域で生まれ育ったヤクモはヤクモで、故郷とは違う食べ方をこれも良いと言わんばかりに堪能している。
彼らは単にワカメの美味しさを堪能しているだけではない。スープの旨味を含めて美味しいと思っているのだ。なので、じっくり静かに味わっている。
「この生ワカメの食感が、何とも言えない……」
余は満足じゃみたいな顔をしている悠利。そんな悠利に同感だと言いたげに力強くうなずいてくれるのは、ヤクモである。
「これほど立派なワカメは、このあたりではなかなか見かけぬものよな。探すのが大変だったのではないか」
「あ、いいえ、違うんです。別にわざわざ探したってわけじゃないんです」
ヤクモの言葉に、悠利は頭を振った。ワカメを探すために東奔西走したわけではないのだ。ある意味、これは偶然の産物である。
「たまたまお店で見つけて、僕としてはこんなにいい食材がある何ての気持ちで買い求めたんですけど」
「ん?」
「お店側にしてみると、売れ残っていたものを引き取ってもらえて助かったみたいな感じだったらしいです」
「売れ残っておったのか」
「です」
悠利の言葉にヤクモはもったいないと言いたげな顔をした。こんなにも美味しそうなワカメだというのに、売れ残っていたとは実に残念な話だ。このあたりではワカメの美味しさがまだ通じていないらしいと何とも言えず、しょんもりとした気持ちになった。
とはいえ、それはそれ、これはこれである。そのおかげで、他者に取られることなくこの大量のワカメを手に入れることが出来たということなのだから。
「売れ残りであったから、この量を揃えられたということか」
「その通りです」
何とも言えないジレンマである。他の人にもこの美味しさを知ってほしい。でも知られたら、自分達の取り分が減ってしまうから知られたくない。そんな気持ちが顔に出ている二人だった。
バカバカしいと言わないでもらいたい。手に入りにくい食材なので、そういう風に思ってしまうのだ。
なお、そんな風に悠利とヤクモが雑談をしている間も、イレイシアは黙々とワカメしゃぶしゃぶを食べている。言葉にはしないが、その表情がもう幸せですと言わんばかりのものなので気に入ってくれているのだなということは悠利にも解る。
ちなみに、普段もの静かな美少女が一心不乱に一つの食材に突撃するかのように食べている姿は、いわゆるギャップ萌えに似ていると思う悠利なのだった。
喜んでワカメを食べているというと、ティファーナもそれに当てはまった。普段はあまりもりもりと食べるわけではない彼女なのだが、ワカメしゃぶしゃぶはお口にあったのか美味しそうに何度もおかわりをしている。
「ティファーナ、随分と気に入ったようだが、そんなに美味しいのか?」
「ええとっても美味しいです。それに、海藻は野菜みたいな感じですから食べやすいんですよ」
フラウの言葉にそう言ってティファーナは笑う。彼女は成人女性の標準ぐらいには食べるものの、それでもやはりどちらかというとあっさりしたものを好む傾向にある。
なので、マグが丁寧に出汁をとって作った上に、キノコの旨味がぐっと染み込んだスープと、そこに深みをもたらすワカメのコンボがいい感じに効いているようだ。ワカメの弾力を楽しみ、スープを飲み、幸せそうな顔をするティファーナ。美貌のお姉さまが美味しそうに食べる姿は何とも言えず目の保養である。
そんな姿を見ながら悠利は、そういえばという感じで隣に座るヤクモに話題を振った。
「僕の故郷では、ワカメをはじめとした海藻ってむくみ予防とか美容効果があるみたいな感じの扱いだったんですけど、ヤクモさんの故郷ではどんな感じでした?」
「ふーむ……。さて、むくみや美容に関しては知らぬが、腹の調子が良くなるというようなことは聞いたことがあるな」
「お腹の調子?」
「腹というより腸だが」
その言葉に、あぁなるほどと悠利は思った。食事中なので表現を濁してくれたらしい。早い話が、海藻をたっぷり食べることによってお通じが良くなるということらしい。
そういえばそういう話もあったなあと悠利は思う。あと、海藻でイメージするのは嘘か本当か髪の毛に良いというやつだ。悠利はあまりそういう細々としたことに興味はないので、いずれもテレビとかネットで見た程度の軽く小耳に挟んだ知識だ。細かいことは知らない。
もしかしたら、【神の瞳】で確認すればそのあたりのこともしっかり解るのかもしれないが、当の悠利にその気がない。悠利にとって【神の瞳】さんは美味しい食材の目利きに使ったり、仲間の体調管理に使ったりするものでしかないのだ。
なので、彼ら二人の会話はそんな風にゆるっと終わっていた。終わらなかったのは、今の雑談が耳に入った女性陣である。
嘘か誠かは解らないが、むくみ解消や美容に良いと聞いてしまえば、冒険者ではあっても年頃の女性である皆様の意欲に火をつける結果となった。その結果どうなったかというと、大量に用意されていたワカメを皆がぺろりと平らげてくれるという状況になった。
美味しくて身体にも良く、更に美容にも良いとなれば、食べるに決まっている。ただし、食べ過ぎてお腹を壊すとか、他に食べたがっている人の分を取るとかそんなことはない。ただ、いつもより張り切って食べていたというだけだ。
その光景を見ていた悠利の感想は、女性陣は随分とワカメを気に入ったんだなぁぐらいである。まさか自分の発言が彼女達に火をつけたなどとは思わない。そのあたりが悠利と言うべきだろう。
そんな風にまったり出来ているのも、誰かが大げさに騒いだりとかもしていないからだ。きれいに食材がなくなったで終わるのだけだ。ワカメだけでなく、鍋も中身も綺麗になくなっていた。
肉野菜炒めとご飯も全部食べてくれているので、物足りないということはないだろう。
ただ、ちょっと悠利が残念に思ったことがある。やっぱりうどんを入れたり雑炊にするほどスープは残らなかったか、と。あわよくばと考えていた悠利がいるテーブルですらスープは残っていないのだ。他のテーブルはきっちり完食されている。
やっぱりそういうことはあらかじめ言っておかねばならないのだろう。ただし、今日は別に締めに何かをしなければいけないわけでもないので、また次の機会だなぁぐらいの悠利だった。
食後、その話を聞いた仲間達がそれはそれで美味しそうだからまた今度やってくれ、とリクエストをしてくるのでした。とりあえず、美味しい生ワカメを見つけたら今回同様大量に買い込もうと決意する悠利なのでした。食材の確保は大事です。
ワカメ、美味しいよね。
ご意見、ご感想、お待ちしております。
なお、感想返信は基本「読んだよ!」のご挨拶だけですが、余力のあるときに時々個別でお返事もします。全部ありがたく読ませて頂いております!





