バター醤油ソテーのチーズ焼き
高カロリーのものは美味しい。それは恐らく真理である。勿論高カロリーのものを美味しく感じないものもいるかもしれないが、少なくとも身体が資本の冒険者である《真紅の山猫》の仲間達はカロリーの高いものを美味しいと思って食べている。
しかし美味しいからといって、常日頃から遠慮せずにカロリーを取っていいというわけでもない。健康面でも心配になるし、何より女性陣にとっては、カロリーが高いものを食べるということは太るということで色々と気になるようだ。
男性よりも女性の方がそのあたりを気にするのは異世界でも変わらないらしく、大半の女性陣はカロリーが高いものを食べた後、体重をほんの少し気にしていたりする。まあ、一部「食べた分、動けば問題ないだろう」みたいな脳筋体質の人たちもいるが。
そんなわけで、普段の悠利の料理はカロリー高めのものがあっても他のおかずでヘルシーさを出してみたりしている。そのカロリー高めのものだって、カロリーとカロリーを重ねて! みたいなことはしていない。
しかし今日は、いつもと違ってメインディッシュにがっつりカロリー高めのものを、という感じで献立を考えていた。
何故かというと――。
「何だか知らないけど皆、今日はカロリーを気にせず、ガツンと食べたいみたいな感じだったんだよね」
そう悠利は思わず呟いた。昼食を終えたのち、それとなく今日どんなものが食べたいかと聞いたところ、何やら女性陣も男性陣も「カロリー高めで!」みたいな感じの返事だったのだ。何があったのかは悠利にはよく解らない。
そんな悠利の独り言に答えをくれたのは、本日の料理当番ウルグスだった。
「あー、何かここのとこ皆割と忙しかったから、それが一段落したのもあってこう、ガツッと食べて気力体力回復したいみたいな感じっぽいぞ」
「ウルグスも?」
「まあ俺はいつでもカロリー高めで、平気だから」
「お肉とか好きだもんね。ウルグス」
「美味いからな」
そう言ってにぱっと笑うウルグス。見習い組の中でも最年長、体格も良く、豪腕の技能を持つために純粋な力比べなら大人にも負けない彼は、その大きな体に見合った食欲をしている。そして、カロリー高めのものも大好きだ。
ついでに食べ盛りの男子だからか、カロリーを取りすぎて太るということにはあまり意識がいかないらしい。美味しいものを美味しいと思って食べられる方が重要という感じだろうか。
何はともあれ、仲間達の事情は理解した。そういうことならば皆の期待に応えるべく、いつもよりもカロリーを気にしない美味しい料理をと悠利は脳内レシピを検索する。がっつりカロリー高めといっても、皆が食べたいと思うようなものにしたい。そうやって色々なレシピを思い出しながら考える。
そして、悠利の出した結論は――。
「じゃあお肉をバター醤油ソテーにして、それを更にチーズ焼きにしよう」
「もう完全にカロリーのお化けじゃねえか」
ウルグスのツッコミも尤もだった。話を聞くだけで、カロリーの塊と解るような内容である。
しかし、それと同時にウルグスの顔はウキウキしていた。がっつり、こってり、しっかりした味付けが好きな彼にとって、バター醤油味は美味しいものであり、チーズ焼きも美味しいものである。そして、美味しいものと美味しいものが合体するということは、とてもとても美味しいものが出来上がるということだ。
ついでに、悠利が作る料理が美味しいことを、ウルグスは知っている。味の想像は何となく、という程度にしかつかないが、悠利がここまで自信満々にそれにしようと言っている。その料理が不味いわけがないという信頼は健在であった。
「で肉は何を使うんだ」
そう問いかけてくるウルグスに、悠利は少し考え込んでからこう答えた。
「お肉はビッグフロッグのお肉にしようかな」
「ビッグフロッグ?」
「うんバイパーよりビッグフロッグの方が脂が多いからね。程よい脂が美味しさにつながると思うよ」
「それじゃあ肉取ってくる」
「よろしく」
そうと決まれば、と言わんばかりにウルグスは冷蔵庫に向かった。何せ、《真紅の山猫》の仲間達は人数が多いので、準備する肉一つを取っても量が多い。そうなるとどうなるかというと、重いのだ。なので、悠利が運ぶよりもウルグスが運ぶ方が適任だ。
ウルグスが大量のビッグフロッグの肉を冷蔵庫から運んでくる。どんと山積みになった肉を見て、圧巻だなぁと言わんばかりの顔をする悠利。晩御飯は基本的に全員揃うので、肉の用意一つ取っても結構手間である。
「このビッグフロッグの肉をどうするんだ」
「一口サイズのそぎ切りにしてね。あんまり分厚いと火が通りにくいから注意して、均一になるようにお願い」
「よっしゃ任せとけ」
カロリー多めの美味しい肉料理が食べられるということもあって、ウルグスはとても張り切っていた。また彼は肉料理が好きで、何かあると肉料理の担当になっていることもあって、ビッグフロッグの肉をそぎ切りにするのも慣れたものだ。
悠利とウルグスは二人でせっせと大きな肉を食べやすい大きさにそぎ切りにしていく。途中、ちょっと硬そうな筋などを見つけるとその部分は切って捨てる。こういったひと手間でより美味しくなるのである。
肉の量が多くて大変だが、美味しい料理を食べるため、美味しい料理を食べてもらうための作業だ。これも料理担当としての仕事だと思えば、手を抜く気にはならないのだった。
そんなこんなで大量の肉を切り終えたら、次は下味を付ける作業だ。確かにバター醤油味のソテーにするのだが、焼く前に軽く塩胡椒などをしておくと味がより染み込みやすくなる。
下味を何もつけないでただバター醤油で味をつけたときよりも、軽く塩コショウをしていた方がなぜか調味料の味がぐっと肉に染み込むのだ。原理は悠利も知らない。ただ、家で料理をしているときに、母からそういう風にすると美味しく出来ると教わったからである。
そんなわけで、大量にそぎ切りにしたビッグフロッグの肉をボウルに入れて、塩胡椒を適量入れてせっせと揉み込む。全体になじむようにしっかりと揉み込むのがポイントだ。
肉を一生懸命揉み込んでいる悠利に、不意にウルグスが質問を投げかける。
「なあこれ、仮にバイパーの肉でやるとしたらどうするんだ?」
「うーんバイパーでするときは、この作業のときにちょっとお酒を入れて、肉がふっくら仕上がるようにした方がいいかもね。
ビッグフロッグの肉に比べて、バイパーの肉は何もしないで焼くとちょっとパサパサしちゃうから」
「なるほどな」
ビッグフロッグの肉は鳥もも肉、バイパーの肉は鳥むね肉に似ている。なので、脂の少ないバイパーの肉は鳥むね肉にするような下処理をすると美味しく仕上がるのだ。
ただ、悠利はウルグスがどうしてそんな質問をしてきたのかが気になった。彼は肉食の民である。バイパーの肉を嫌っているわけではないが、二つを並べられたらビッグフロッグの方がいいと答えるような少年だ。
今日使うのはビッグフロッグの肉なのに、どうしてバイパーの肉で作った場合なるという仮定を出してきたのだろうか? そんな悠利の疑問が顔に出ていたのだろう。ウルグスは照れくさそうに鼻の頭を指でかいてこう告げた。
「今日はさ、がっつりした方がいいっていうのでビッグフロッグの肉使うけど、同じ味付けでもうちょっと軽めがいいみたいなリクエストのときだったら、バイパーの肉でやった方がいいのかなーとか思って」
「ウルグス」
「そういう目で見るなよ」
感動したみたいな顔になる悠利に、ウルグスは照れくさくなったのか、ぷいっとそっぽを向いた。言動はガキ大将みたいだが、何だかんだで育ちのいいウルグスは、周りへの気遣いも出来る。
特に、悠利と共に料理をするようになって、食べる人に合わせて食材を選ぶという工程が存在するのだと理解してからは、時々こういった気配りを見せるのだ。ただし、それを面と向かって指摘されるとこんな風に照れてしまうのだが、そのあたりは思春期の少年らしいということだろうか。
あまりこの話題に触れるとウルグスが怒るかもしれないと思った悠利は、それ以上特には言わなかった。
「これそのまま焼くのか?」
「もうひと手間加えます」
「もうひと手間?」
「まあひと手間ってわけじゃないんだけどね。バター醤油味にするにしても、まずは薄くオリーブオイルをひいてそれで焼きます」
「直接バターで焼かねえの?」
「焦げやすいから。あと、最初からたっぷりのバターで炒めると。何ていうかこう、重く仕上がっちゃうんだよね。個人的にだけど」
そう言いながら、悠利は温めたフライパンにオリーブオイルを入れる。バターは確かにオリーブオイルよりも焦げやすい。香りがついて美味しく仕上がるのは事実だが、大量の肉をしっかり火が通るように必要分のバターを投入するとなると、これがまたかなりの量が必要になる。そうするとバターの風味がつきすぎて、悠利としてはちょっとくどくなるかな、という気持ちなのだ。
他の料理のときもそうなのだが、悠利は基本的にバターは最後の仕上げに入れる派である。
そんなわけで、この大量のビッグフロッグの肉もオリーブオイルでこんがり焼き上げることにする。
「まずは弱火から中火ぐらいで蓋をしてじっくり焼いて、火が通ってきたらひっくり返して半面も焼きます。そして最後の仕上げにちょっと強火で焼き色をつけてから、醤油とバターを入れて味をつける感じです」
「なるほど」
「というわけで、まずはフライパンに肉を並べて蓋をします」
「了解」
やることが解れば行動は早かった。二人でせっせとフライパンに肉を入れ蓋をして、それに火が通るのを待つ間に他の料理の支度をする。
こういった段取りもスムーズに取れるようになったのだ。日々料理当番としてやってきたことは確かに身になっているのである。
目指しているのは冒険者なんだから、そこを磨いてどうするんだ? いえいえ、時間の使い方を覚えるという意味では実にいい修練です。複数の料理を同時に作るということは、それぞれの作業工程を把握して的確に動かなければならないのです。つまり、視野が広がる。これもまた冒険者にとって必要な感覚を磨くことになっているのです。多分。
そうこうしているうちに肉は無事に焼けた。仕上げに強火で両面焼いたことで、焦げ目もちゃんと付いている。それを確認して、悠利はフライパンにバターを落とした
瞬間、ジュワーッという音がして、バターのいい香りが辺り一面に広がる。匂いだけでお腹が空いてしまいそうだ。その感想はウルグスも同じだったらしく、フライパンの中身をじっと見つめながらこうつぶやいた。
「もう何か、匂いだけでうまそうなんだけど」
「気持ちは解るけど、まだ食べられないからね」
「解ってるよ」
フライパンに入れたバターに肉を絡めるようにして全体を混ぜる。バターの風味が肉にしっかりついたのを確認すると、最後に醤油をくるりと回し入れ、全体に絡むように混ぜ合わせる。溶けたバターの香りと、焼けた醤油の香ばしい匂いが広がった。
ああ、もう、これは絶対に美味しいやつだな、という謎の確信が広がる。全体に調味料が絡んだのを確認すると悠利は火を止める。
そして、小さなグラタン皿に味見用として二切れのビッグフロッグの肉をそっと入れた。
「皆の分は食べる前に焼くとして、ひとまず味見用に焼いてみようね」
「おう」
もう美味しいのが確定していると言わんばかりのウルグス。熱々の肉の上にチーズをパラリとかけると、温めておいたオーブンに入れる。肉に火が通っているのでチーズが溶けるだけでいい。それほど長い時間は焼かなくて大丈夫だ。
チーズが溶け、香ばしい焼き目がついた頃合いを見計らって、オーブンからグラタン皿を取り出す。熱々のチーズとお肉なので、火傷をしないように注意しながら一切れずつ肉をつまむ。
それを悠利達はそろりと口へと運んだ。ふーふーと冷ましながら一口かじる。最初に感じるのはチーズの柔らかさ、続いてビッグフロッグの肉の弾力が伝わる。そして、噛んだことにより口の中に広がる肉汁と、肉全体に絡まっているバターと醤油の風味が混ざり合う。
それだけでも美味しいのに、それをチーズが包み込むことによって程よい塩気が更に味の調和を促している。噛めば噛むほど旨味が広がるような熱々の状態で、とろりととろけたチーズが肉に絡むのを堪能すると、何とも言えない美味しさがあった。
「美味しく出来たと思うんだけど、ウルグスはどうかな?」
「めちゃくちゃ美味い」
それ以外の答えなんてあるわけないだろ、と言いたげなウルグスであった。
お肉大好きなウルグスの太鼓判もいただけたので、それじゃあ、今日のメインディッシュはこれで問題ないということになった。あとは食べるときに皆の分を焼き上げるだけ。
カロリー希望の仲間達が喜んでくれるだろう姿を想像して、思わず笑顔になる悠利だった。
そして夕飯の時間。
どどんと大皿で用意されたチーズ焼きを見た一同は、感嘆の声を上げていた。カロリーたっぷりを希望して、ちゃんとカロリーもりもりの料理が出てきた感動だ。チーズ焼きというのはそれだけのインパクトがある。
更にこの下にはバター醤油で味付けした肉が潜んでいるというのも聞いてしまえば、わくわくが止まらなくなるらしい。いただきますの挨拶もそこそこに、皆はそれぞれの取り皿にビッグフロッグのバター醤油ソテーのチーズ焼きを取り分けている。
とろっとろのチーズ香ばしい匂いを放つお肉。もうそれだけで食欲をそそる。まずはこれを食べなければという感じで、皆は美味しそうに肉を頬張っていた。
猫舌のレレイだけは、取り皿に肉を取り分けた後、他のおかずに先に箸を伸ばしている。本当は皆と同じようによーいどんで肉を食べたかった気持ちはある。しかし彼女は典型的なまでの猫舌である。熱々の肉を食すというのは、それだけでかなりハードルが高い。
おまけに単に肉が熱いだけではなくチーズまで乗っているのだ。チーズはなかなか冷めないため、それを口に入れたら火傷してしまうに違いない。なので、後ろ髪を引かれるような表情をしつつ黙々と他のおかずを食べているレレイだった。
「チーズとろっとろだし、お肉も柔らかいし、バター醤油ってやっぱり何でも美味しく仕上がるのね。これ」
そう言って満足そうに笑っているのはヘルミーネだった。彼女は別に特別肉が好きなわけでもチーズが好きなわけでもない。しかし、今日はがっつりカロリーを食べたいという気分だったらしく、目の前のチーズ焼きはどんぴしゃで彼女の好みにもあったらしい。
ふーふーと冷ましながら、ちょっとずつ肉をかじってチーズと肉のハーモニーを楽しんでいる。その顔は満面の笑みである。
普段はそれほど肉に食いつかないヘルミーネすら虜にするバター醤油ソテーの上にチーズをのせたチーズ焼き。美味しいと美味しいのコンボはしっかりと仕事を果たしていた。
「そんなに美味しい?」
「美味しい。何ていうの? チーズがね、完璧って感じ」
「チーズが完璧なの?」
「うーん……。チーズそのものがっていうわけじゃないんだけど、多分これ、バター醤油味の肉だけだったらこんなに食べてるって感じにならないと思うのよね。チーズがあるからこその美味しさだって思うわ」
「そっか」
いつもより若干テンション低めのレレイ。どうやら、周りで皆が美味しい、美味しいと言って食べているので、早く食べたくてしょんぼりしているらしい。
そんなレレイの気持ちは解るものの、ヘルミーネが口にしたのはこの言葉だった。
「ちゃんと冷めるまで待ちなさいよ。絶対火傷しちゃうんだから」
「解ってるよぉ……」
友情ゆえの忠告はお腹を空かせたレレイには、ちょっぴり切ないものであった。とはいえ、他のおかずが不味いわけではないので、ちゃんと残しておいてねという圧をかけながらレレイは他のおかずを食べている。
なお、同席しているヘルミーネとクーレッシュ、イレイシアの三人はそんなに食べないと言いたげな反応をしている。確かに猫舌のレレイよりスタートは早いが、彼らはいずれも彼女ほど食べないのだ。私の分残しておいてねみたいな、悲痛なオーラを出されても困る。
どちらかというとそれは、普段彼らが言うセリフなのだから。
そんなやりとりをしているテーブルもあれば、見事に争奪戦を繰り広げているテーブルもある。安定の見習い組の四人が使っているテーブルだ。彼らは基本的にお互い遠慮がない。同年代の見習い組の四人は、常に大皿料理の争奪戦を繰り広げている。
「ウルグスちょっと取りすぎじゃねえ?」
「そんなことねえよ。普通に取った」
「オイラも、オイラも欲しいってば」
「まだ残ってんだろ」
ギャーギャーと言い合いをする三人。そして、その言い合いには加わっていないものの、ひっそりと自分の取り皿に肉をよそっているマグの姿もある。
多少わいわいガヤガヤしてはいるものの、怒られるほどの騒動ではない。まあ、いつものことである。これも料理が美味しいからなのだから、仕方あるまい。
日々の鍛錬を頑張って、そのご褒美のようにこんなにも美味しいご飯が待っているのだから、まあちょっとぐらい争奪戦を繰り広げても微笑ましいということだろうか。多分。
騒いでいる三人の隙を縫って自分の分を確保したマグは、口を大きく開けてがぶりと肉に噛みつく。まだ柔らかいチーズが肉にとろりと絡む。肉を全体的に包み込んでいるのが実に良い。
単に肉にチーズを乗せて焼いただけでもきっと美味しいのに、バター醤油味というおまけ付きだ。下味として塩胡椒をちゃんとしてあるおかげで、バター醤油の風味がしっかりと肉に染み込んでいる。
ビッグフロッグの肉汁とバター醤油のしっかりとした味が絡み合い、そこにチーズが加わる。その美味しさを噛みしめた後、マグは白米を口へ運んだ。実にご飯が進む。
そんな中、取り皿に取ったチーズ焼きをパンに挟んでいる者もいた。アロールだ。
今日のパンは小ぶりなロールパン。柔らかいので手で簡単にふわりと裂ける。真ん中に裂け目を入れたロールパンに、アロールはせっせと肉を詰めているのだ。
なお、肉だけでなくサラダのレタスもそっと添えているあたりがなかなかニクい。まだ温かい肉のおかげでレタスがしんなりして、良い感じだ。
小さな口を大きく開けて、即席で作ったロールサンドをかぷりとかじるアロール。基本的にあまり感情を表に出さないというか、喜びの感情をあまり表に出そうとしないアロールであるが、美味しいものは美味しいのだろう。チーズが好物の彼女らしく、もぐもぐと咀嚼している表情はいつになく緩んでいる。
幸いなことに同席者はアロール同様チーズが好きなフラウや、穏やかなお姉さまであるティファーナ、落ち着いた頼れる兄貴分のリヒトと、誰一人彼女をからかうことはない。
皆、各々自分が食べやすいように食べて、美味しいと言い合っているだけだ。ただ、時折チラリとアロールに視線を向けてはいる。その視線には気づいていないのか、アロールは満足そうに、ロールサンドを食べていた。
チーズとパンの相性はいいし、肉とパンの相性もいい。バター醤油味がパンに合うかどうかは賭けではあったが、割と問題なく調和していた。美味しい、と小さくこぼれた言葉は誰にも拾われることはなかったが、大人組はアロールが喜んでいるのを見て柔らかく微笑むのだった。
そんなアロール以上に解りやすく顔に出している人物がいた。レレイだ。やっと食べられる程度に冷めたらしく、肉を頬張って満面の笑みを浮かべている。
「ふわぁ……。美味しいねぇ」
幸せとはこういうものを言うのだと言いたくなるような、それはもう素晴らしい笑顔だった。お肉大好き肉食大食い女子にとって、カロリーとはただ美味しいだけのものである。猫獣人の父親から身体能力や体質を受け継いでいるレレイは、食べた分動けば太らないを体現しているような人物だった。
なので、冷ましたお肉をもりもりと口に詰め込んで食べている。一歩間違えると頰袋のようになって行儀が悪くなるのだが、そうならないギリギリの、見ている方が美味しそうだなと思えるレベルで食べているのだからある意味すごい。
本格的にレレイが参戦してきたので、同じテーブルの面々はなくなる前に自分の分を確保しておこうと、取り皿に肉を入れるのだった。まぁ、割といつもの光景である。
そんな風にあっちでもこっちでも仲間達が喜んで食べていることを確認して、悠利も思わず笑顔を浮かべる。今日はカロリーが欲しいと言われていたが、ちゃんと皆の希望に添えたようだ。
一応、メインディッシュにガツンとカロリーを投入していることもあって、副菜や汁物などに関しては、あまり油を使わなかったり、野菜やヘルシーな食材を使うようにしている。
何というか、そうすることで罪悪感は多少減らせるだろうという判断であった。このあたりの感覚は、姉妹のいる少年としての感覚なのかもしれない。女性はカロリーを求めつつも、そのカロリーを大量に摂取することにやや罪悪感を抱くこともあるのだ。
今日はがっつりカロリーで行くぞという気持ちになっていても、食べ終わった後、あるいは数日後などに「ああ、あのときあんな風に食べなければよかった」となる可能性も否定できない。その罪悪感を少しでも和らげてくれるのが、「他は野菜をたっぷり食べたし」とか、「他はヘルシーに仕上げたし」みたいなやつだ。
まあ詭弁のようなものなのだが、そういうことも配慮しておくべきだろう。せっかく美味しくご飯を食べたのに、後で抱く感情がマイナスになるのは悠利としてもちょっと悲しいので。
それはさておき、美味しく出来たなぁと思いながら自分もビッグフロッグのバター醤油ソテーのチーズ焼きをもりもりと食べている。やはり、バター醤油の濃厚な風味に、ビッグフロッグの肉がまったく負けないというのが強すぎるのだろう。肉の旨味、それも脂を含んだ旨味がバター醤油と絡んで、何とも言えない美味しさを醸し出している。
また、食べやすいように一口サイズにし、かつ厚みを均等にするためにそぎ切りにした結果なのか、噛み切りやすい。分厚く固いお肉だと噛みにくいが、程よい弾力を残した厚みに切ってあることでもりもりといけてしまう。
こうチーズがいい感じに絡むぐらいの厚みに仕上げたのは、やはり正解だったと思うのだ。もぐもぐと食べつつ、果たしてチーズが受けたのか、バター醤油味が受けたのか、合わせ技だからここまで受けたのかどれなんだろうなぁと悠利は思う。
正解を確認することはしなかった。何となくだが十人十色の返答が返ってきそうな気がしたからだ。
まあ、小難しいことは置いておいて、皆が美味しいと言いながら食べてくれるのだからそれでいいだろう。今日もちゃんとリクエストに応えられてよかったと思う悠利なのであった。
なお途中でパン派とご飯派がどちらがより美味しいかみたいな不毛な戦いを始めかけたので、それなら両方試せばいいのでは? とユーリが仲裁する羽目になったのでした。以前も何かやったような気がしますが、よくあることなので気にしてはいけません。
バター醤油は肉でも野菜でも美味いんですよ。
ご意見、ご感想、お待ちしております。
なお、感想返信は基本「読んだよ!」のご挨拶だけですが、余力のあるときに時々個別でお返事もします。全部ありがたく読ませて頂いております!





