暴走した呪い解除のお手伝いです
マリアの血の繋がらない兄、アランに頼まれて彼の呪い研究を手伝っている悠利。自分の力が誰かのお役に立てるの嬉しいので、わりと楽しんでやっていた。
やること自体は、以前やった鑑定士組合のお手伝いと同じだ。目の前にある品物を鑑定して、どういう呪いの品物なのか詳細を確認してアランに伝えるだけである。今回は以前と違って最初から全部呪いの品物だと解っているので、気楽でもあった。
また、既にアランがどういう呪いの品物かを確認している品物ばかりだ。早い話が、本当にそれが合っているかどうかの確認である。悠利の高い鑑定能力を見込んでのお手伝いではあるが、当人は【神の瞳】さん任せのお手軽簡単チェックレベルのノリなので、遊んでいるに等しかった。
ついでに、アランは呪い研究の専門家なだけあって、悠利に見せる品々にはきちんと呪い封じの処置を施している。呪いを封じるケースに入れた状態の品物にしか触らせないので、安全は考慮されているのだ。その辺り、プロとしての矜持が見える。
「あ、アランさん、これはちょっと追加情報がありました」
「ん? どういう情報だ?」
「こちら、同系統の呪いの品物とは相互干渉しあって無効になるみたいです」
「同系統で無効に? それは珍しいパターンだな」
悠利が示した先には、小さく愛らしい人形があった。人形ではあるが、陶器で作られた感じのもので、つるりとした質感が特徴的だ。白をベースに上に色を塗って丁寧に仕上げられた品物で、幼い子供が好みそうな雰囲気がある。
そんな可愛らしい品物だが、大変困ったことに付与された呪いは不眠である。正しくは、悪夢を見る、だ。これが付近にあると、眠っている人を悪夢に誘って休息を邪魔するのだ。一応眠ってはいるが、悪夢で色々と削られるのでちっとも疲労回復しないというやつだ。 なので、子供への贈り物として与えたら悪夢を見せてしまうという最悪のコンボを発動する品物だったのだが、悠利が【神の瞳】さんで確認した結果の、同系統の呪いに対する最強の防御アイテムになるという特殊仕様が発見されたのだ。その特性を生かせば、子供を守るための贈り物として最高かもしれない。
ただし、同系統の呪いが近くに存在しなければこいつが悪夢を見せてくるので、諸刃の剣みたいなもんである。上手に付き合えば良い感じかもしれないが。
とりあえず、そういう効能は珍しいらしく、アランは興味深そうに人形を見ている。彼は呪い耐性持ちなので何の影響も受けないが、だからこそ呪いで困る人々を助けるために研究をしているのだ。ヴァンパイアの長い寿命を生かした素晴らしいお仕事である。
「そうなると、呪いの媒体が確認できない場合の防御措置に使えるな」
「そういうことってあるんですか?」
「あるな。隠蔽をかけてる場合もあるからな。応急処置としてひとまず封じる役目としてなら、優秀だ」
「確かに、そうですね。……そういう使い方なら、誰かに害を成さずに使えるんですね」
悠利は目の前の小さな人形を見てそう呟いた。この可愛らしい人形に、悪夢を見せる呪いなどというものがいつ付与されたのか。作られたときはただの人形だったとしたら、あまりにも悲しい。
けれど、状況によっては誰かを守れる品物になるのだから、きっとこの人形も浮かばれるだろう。そんなことを悠利は思う。品物に対しても感情があるように考えてしまうのは、色々なものを擬人化したり、付喪神という概念に親しんでいる日本人ならではの感覚かもしれない。
「キュピー?」
「あ、ルーちゃん。階段のお掃除終わったの?」
「キュ!」
何やってるのー? と言いたげに入り口から顔をのぞかせたのは、ルークスだった。この可愛らしいスライムは、主であるアランの許可を取って塔の中の階段をせっせと掃除していたのだ。何か仕事をしていたかったらしい。
ちなみに、塔の内部の掃除そのものは領主館の使用人がちゃんとやっている。やってはいるが、人の掃除とスライムの掃除は全然違うのだ。そもそも目線が違うので、気づく場所も違う。細かいところまで入り込めるスライムの特性を生かして、ルークスは見落とされがちな部分まで綺麗に出来るのだ。
心ゆくまでお掃除できて大満足なのか、ルークスはにっこにこだった。そんな可愛い従魔の頭を悠利は優しく撫でる。お疲れ様と労われて、実に嬉しそうなルークスだ。
「もう終わったのか? ありがとう」
「キュピ」
「しかし、掃除が趣味とは変わったスライムだな」
「キュー?」
アランの言葉に、ルークスは小首を傾げるように身体を傾けた。何でと言いたげな雰囲気だ。そんなルークスの姿に、アランは笑う。
普通、ルークスぐらいの大きさのスライムはここまでの知能を持たない。雑食で何でも吸収してしまうが、それは生命維持のためみたいなものだ。ルークスみたいに、吸収して良いもの、悪いものを判別してお掃除するなんて器用な真似は出来ない。
しかし、悠利とルークスにとっては、ルークスがお掃除大好きなのは今更だ。仲間達も、何だかんだでルークスはそういうものだと認識して馴染んでいる。なので、ごく当たり前の感覚で変わっていると口にするアランの言葉は、実に新鮮な反応と言えた。
そんな風にまったりと過ごしていると、階下から来客を知らせる呼び鈴が鳴った。不思議そうに顔を見合わせた後、アランは悠利達を伴って塔の入り口へと向かう。誰かが来る予定はなかったのだが、どういうことだろうかと思いながら。
階下に降りた二人と一匹を待っていたのは、焦ったような表情をした使用人だった。それも、それなりに地位のある使用人である。服装がこう、パリッとしたスーツみたいな感じなので。下働き組はもっと動きやすそうな服を着ている。
「アラン様、お忙しいところ申し訳ありません」
「何があった?」
「急患です!」
「……どこにいる」
使用人が告げたその一言で、アランの表情ががらりと変わった。それまではどこか親しみやすさのある雰囲気だったものが、ピリリと張り詰める。一瞬で場を満たした威圧にも似た緊張感に、悠利は思わずひゃっと小さく声を上げた。
しかし、アランも使用人もそんな悠利にはお構いなしで、話を進めていた。
「ひとまず離れの救護室に運んであります。具合が悪いと言うことは解るのですが、それ以上の対処が出来ず……」
「案内しろ」
「はい」
「……悪いが、一緒に来てくれるか?」
「あ、はい」
こちらですと歩き出す使用人の背中を追う前に、アランは悠利にそう告げた。何を求められているのかさっぱり解らないまでも、とりあえず大人しく頷いて従う悠利。ルークスもそんな悠利に続いた。
走るアランの背中を一生懸命追いかけて悠利がたどり着いたのは、領主館の本館ではなく、幾つか点在する別棟だった。本館に比べればこぢんまりとしているが、こちらも十分大きい。何だろうここと思いつつも、無駄口は叩かずにアランについて行く。
そうしてたどり着いた部屋は、柔らかなアイボリーの壁紙が印象的なすっきりとした部屋だった。救護室という説明がされていたが、病院の部屋や学校の保健室というよりは、家具がほとんどないホテルの一室みたいな雰囲気だ。ベッドも上品なものが幾つか並んでいる。
そんな室内のベッドの上には、具合が悪そうにぐったりと横たわっている青年がいた。その傍らには、心配そうに家族らしき人々が付き添っている。パッと見た感じでは彼らは人間のようだった。ただ、この町の住人ならばダンピールの可能性もあるし、断言は出来ない。
悠利が何が起きたのか心配そうに見ている前で、アランは青年に近づいて状態を確認し始めた。脈を測ったり、周囲の家族にも聞き取りをしたりして、どういった症状が出ているのかを確認している。
白衣を着ているのもあいまって、今のアランは悠利の目にはお医者さんのように見えた。何をしているのか最初は解らなかったが、漏れ聞こえる会話からどういうことなのかは理解できた。目の前の青年は呪いの症状を受けて倒れた急患で、呪いの第一人者であるアランの元へ運び込まれたのだ。
呪いの対処法というのは一般的に、浄化や解呪の技能を持つ者に取り除いてもらうか、解呪薬を使うことで無効化する。しかし、該当する技能を持つ者は数が少なく、また技能レベルによっては呪いに対処できないこともある。解呪薬についても、呪いごとに材料が異なるので量産には向かないし、作れる者も少ない。呪いというのは実に厄介なのだ。
そんな中、アランは呪い研究の第一人者として、手持ちの呪いの品物を使って相手の症状を緩和させるのだ。相反する呪いをぶつけることで効果を相殺したり、或いは軽減したりすることで日常生活に影響が出ないようにするのだ。
応急処置で終わるときもあれば、その方法で問題なく日常生活を送れるようになることもある。呪いの種類も強弱も多種多様で、解呪や浄化が出来ずとも上手に付き合っていけば問題ないことも多いのだ。
アランがテキパキと対処をしているの見ていた悠利は、ちらりと視線を患者本人へと向けた。ぐったりとしてはいるものの顔色はそこまで悪くはなく、今すぐ命に別状がありそうには思えない。呪いの影響を受けていると知らなければ、ちょっと具合が悪くて横になっているとしか思わないだろう。
そんな中、患者の手元が赤く光っていた。手首の辺りだろうか。この赤が【神の瞳】さんがオートモードでやってくれている危険判定のアレだと解っている悠利は、じぃっとそこへ意識を集中させた。
【神の瞳】さんは何でも見通せる最強の鑑定チートではあるが、持ち主の悠利の意識が向かないことに関してはよほどの危機でもない限りは大人しい。知ろうと思えば何でも知れるが、意識しなければ特に何も起きないという感じなのだ。日常生活を送るにはそれぐらいでちょうど良いが。
果たして、【神の瞳】さんの判定は――。
――呪具化したブレスレット。
銀細工のシンプルなブレスレット。本来はただのブレスレットだが、呪いを吸収し呪具化している。
現在発動している呪いは、気力減退、視力の低下、体温低下、食欲減退です。
周囲の呪いを少しずつ吸収して呪具化し、現在同時発動により着用者の体調を著しく損害しています。
呪具化しているので取り外しは不可能です。浄化、解呪、解呪薬、或いは相反する呪いの品物を利用して相殺してください。
大変解りやすい説明ではあるが、色々とややこしい情報が詰まってるやつでもあった。というか、一つの品物で複数の呪いを同時発動するのは止めてほしいと悠利は思う。相反する呪いを考えるだけでも大変だ。
とりあえず、対症療法で具合を確かめているアランの白衣の裾を、悠利はくいくいと引っ張った。見てしまったのだから、ちゃんと情報はお伝えするべきである。アランもそのつもりで悠利をここへ連れて来たのだろうし。
「アランさん、アランさん」
「何か解ったのか?」
「複数の呪いが同時発動しちゃってるので、対処用の呪いの品物を幾つか用意した方が良いと思います」
「複数同時発動……? だが、呪いの発生源はこのブレスレットだろう?」
「そうです」
流石は呪い研究の第一人者というべきか。アランは青年の手首に付いているブレスレットを触りながらそんなことを言う。なお、呪いは装着者に向かっているものの、耐性のない者が呪いが発動している最中の品物に触れるのはよろしくない。アランが平然としているのは、彼は呪い耐性の技能を持っているからである。
「そのブレスレットが周囲の呪いを少しずつ吸収して呪具化してるらしいんです」
「……その辺りの詳細は後で調べるとして、呪いの内容は解るか?」
「はい。気力減退、視力の低下、体温低下、食欲減退になります。同時発動してることで体調を崩してるみたいです」
「そうか、助かる。少し患者の様子を見ていてくれ」
「アランさん?」
君はここにいてくれと言われて、悠利はこてんと首を傾げた。アランはそんな悠利に、こう告げた。
「俺は今から、その呪いを相殺できるような品物を取りに行ってくる。君にはここで、患者の容態を見ていてほしい」
それは確かに納得できる要請ではあった。あったが、悠利は頭を振った。静かな、けれど明確な拒絶の意思である。
「どうした?」
「僕も一緒に行きます。多分、その方が早く必要な品物が解ります」
「しかし……」
「同じ呪いでも強弱があるはずです。今のこの方の症状を相殺できるかどうかを、僕なら見るだけで判断できます」
アランは呪いの専門家だが、鑑定能力のように見ただけで全てを判断できるわけではない。どの品物にどの呪いがかかっているのかを覚えていても、目の前の患者に合うかどうかは実際に試してみないと解らないのは事実だった。
そして悠利は、そういう意味では専門家である。見るだけで様々な情報を理解することが出来る鑑定持ち。それもかなり腕が良いというのを聞かされているアランは、彼から見れば赤子レベルで幼いであろう悠利の主張を、退けたりはしなかった。
「解った。そういうことなら、一緒に来てくれ」
「はい」
自分の主張が通ったことに悠利はホッとした顔をして、次いで真面目な顔で頷いた。そのままアランと共に部屋を出ようとして、思い出したように足下のルークスを見た。
「ルーちゃん、悪いんだけどここで待っててもらっても良いかな?」
「キュ!?」
何で!? と言いたげなルークス。悠利の護衛を自認しているルークスは、主である悠利から離れるつもりはないのだ。そんなルークスに、悠利は理由を告げた。
「なるべく急いで戻ってくるけれど、もしも容態が急変したとか、急ぎの連絡があるとかになったら、僕達のところへ知らせに来てほしいんだ」
「……キュ?」
「ルーちゃんは、人が走るより速いでしょ?」
「キュピ!」
もしものときの伝令役を頼みたいと言われて、ルークスは解ったと言いたげにその場でぽよんと跳ねた。魔物ならではの身体能力の高さもあるが、そもそもルークスは小さなスライムだ。隙間を縫ったり、ショートカットしたりして素早く移動するのはお手の物である。
悠利から重要な役目を任されたルークスを残して、悠利とアランはその場を後にした。二人は急いでアランの研究室へと向かう。……こういうときは、無駄に広い領主様のお屋敷が恨めしい。同じ敷地内の建物だけれど、結構全力疾走する感じなのだ
たどり着いた研究室で、アランは呪いの品物を保管している棚を悠利に示す。
「さっき聞いたものと相反するような呪いの品物は、この辺りに片付けてある」
「了解です」
見る範囲が絞れるならそれに越したことはないので、悠利はアランが教えてくれた棚の中身をじぃっと見つめた。あの患者さんの症状にぴったり合う感じの呪いの品物を探さなければならない。【神の瞳】さんの本領発揮だ。
欲を言えば、効能だけでなく普段から身につけておけるものが望ましい。あのブレスレットは呪具化しており取り外しが出来なくなっているので、日常生活を問題なく送るには相殺できる品物も装着しやすいものの方が良いに決まっている。
そんな悠利の願いを反映しているのだろうか。目の前にぼんやりと言える青い光には、強弱があった。どういう意味か解らずに悠利が強い光のものと弱い光のものを手に取って見比べる。
――光の強弱について。
完全に呪いを相殺できる品物を強い光で、多少呪いは残ってしまうものの、身につけやすいものを弱い光で表現しています。
患者の状態に合わせて使い分けてください。
ひとまずは、強い光の品物を使って呪いを完全に相殺し、体調を安定させることをオススメします。
今日も安定の【神の瞳】さんである。絶好調過ぎる。僕の技能頼れる……! と悠利は思った。……なお、普通の鑑定技能にはこんなフランクな文言は出てこないし、こんな大変便利な感じで色々教えてくれる機能は付いていない。
ついでに言うと、初期の【神の瞳】はここまでではなかった。持ち主である悠利に合わせてアップデートされているのか、どんどん至れり尽くせりになっている。まぁ、それで今回は人助けが出来るので問題ないのだが。
ちなみに、悠利は他人の鑑定画面を見たことがないので、これがおかしいとは思っていない。また幸いなことに、鑑定画面は当人にしか見えないので、頼れる保護者のアリーが目撃して頭痛を覚えることもない。世の中には、知らない方が幸せなこともあるのです。
「アランさん、何かまとめて入れられる鞄とか籠とかありますか?」
「この籠で良いか?」
「大丈夫です。じゃあ、必要な分を入れていきますね」
「頼む」
アランが用意してくれた籠に、悠利は呪いの品物を入れていく。四つの呪いに対応する品物だが、何故か悠利が籠に入れたのは七つだった。アランが不思議そうに首を傾げる。
「細かい説明は後でします。今はひとまず、これをもって患者さんのところに戻りましょう」
「解った。何か考えがあるんだな?」
「はい」
「なら、後で教えてくれ」
そう告げて、アランは籠を持って走り出す。悠利もその背中を追った。アランは鍛えているようには見えないごく普通の体格の青年ではあるが、そこはヴァンパイアだからだろう。品物が呪い封じのケースに入っているのでそこそこ重さがあるだろう籠を、軽々と抱えて走っている。
身体能力が高いヴァンパイアらしく足も速いようで、悠利は頑張ってアランの背中を追いかけた。悠利も決して運動神経が悪いわけではないのだが、鍛えているわけでもないただの家事担当だ。種族差はどうあがいても覆せない。
それでも何とか救護室に戻った悠利は、心配そうに患者に声をかける家族と、ぼんやりとした表情で横たわっている患者の姿に気づく。気力減退という言葉通りに、どうやら話す気力もないらしい。或いは、視力の低下の影響で視界が定まっていないのかもしれない。
早く何とかしてあげなきゃと、悠利はアランの傍らに小走りで近寄った。籠の中から呪いの品物を取りだしているアラン。呪い封じのケースから取り出すのはアランにやってもらう方が良いので、悠利は横から口を挟むだけにする。
「ひとまず、その水差しに水を入れて、時計と人形を近くに置いて、スカーフは首に巻いてください」
「使うのはこの四つなんだな?」
「ひとまずは」
「解った」
悠利の指示にアランは従ってくれる。それだけ悠利の鑑定能力を買ってくれているという証しだ。患者の家族は不安そうにそんな二人を見ていたが、アランへの信頼が勝ったのだろう。特に口を挟むことはなかった。
悠利に言われたとおりにアランが呪いの品物を並べる。しばらくして、呪いの相殺が行われたのか、患者の表情がはっきりしてくる。不思議そうに瞬きを繰り返していた視線が、真剣な顔で自分をのぞき込んでいる家族とアランに向いた。
「……アラン様……?」
「意識がはっきりしたようだな。気分はどうだ?」
「あ、随分と、楽になりました……。ご迷惑をおかけして……」
「迷惑なんて考えなくて良い。何とかなって良かったよ」
そう告げて、アランは患者の頭を優しく撫でた。呪いに苦しむ人々がアランを何故頼るのか、何となく悠利には理解できた。呪いに詳しいというのが理由だけではないだろう。アランは目の前の相手にきちんと向き合ってくれるという信頼があるのだ。
そんな患者の状態を、悠利は【神の瞳】で確認する。【神の瞳】さんの見立ては正しかったようで、呪いは上手く相殺できていた。後は、しばらく養生すれば問題ないだろう。一安心だ。
そんな悠利に、アランが視線を向けている。安心したような表情をしている悠利から状況を察したのか、アランが口にしたのは別の言葉だった。
「それで、今使っていない残りの道具はどうするんだ?」
「あ、それの説明ですね。えっとですね」
ひとまず処置が優先と言うことで説明していなかったので、悠利はアランの隣にちょこんとしゃがんで説明を始めた。籠の中には、使わなかった呪いの品物が残っている。それらは、【神の瞳】さんが弱い青色で示したものだ。
何故それらが必要なのかを、悠利は口にした。今後に必要なものなのだ。
「今使っている呪いの品々のおかげで、呪具化したブレスレットの持つ呪いは相殺されています。ただ、浄化や解呪などを行わない場合ブレスレットが外せないので、問題なく身につけて呪いを相殺する物が必要になると思ったんです」
「……なるほど。確かに、水差しに時計に大きめの人形となると、室内にいるときはともかく外出すると影響下から離れてしまうな」
「ですです。なので、水差しの代わりにブローチ、時計の代わりに髪紐、人形の代わりに指輪を身につけることにすればどうかと思いまして。この三品は装着しない限り呪いは発動しないので、部屋にいるときは外しておいて、外に出るときに身につければ問題ないかなと思います」
「それなら何故、最初からこっちの三品にしなかったんだ?」
悠利の説明を聞いたアランがそう問いかける。患者もその家族も同じ気持ちなのだろう。何故? と視線で訴えている。そんな彼らに、悠利は困ったように笑いながら告げた。
「この三品では、ブレスレットの呪いを完全に相殺することは出来ないからです。ブレスレットの呪いの方が強いんですよ。でも、どの症状も生活に支障が出るほどは残らないはずなので、応急処置に使えるかなと思って」
「……なるほど。つまり、まずは完全に呪いを相殺した状態で体調を元に戻し、大丈夫そうならその三品を身につけて日常生活を送るようにすれば良い、と」
「本当は、完全に呪いを排除できるのが一番ですけどね」
そう言って悠利は肩をすくめた。しかし、浄化や解呪が出来る存在を頼るにも時間が必要だ。今は呪いを相殺させることで、少しでも患者が楽になるように努めるのが一番である。
悠利とアランの会話で状況を把握したらしい患者と家族は、なるほどと言いたげに頷いている。呪い研究のプロであるアランが納得しているので、彼らも疑わずに信じてくれたらしい。話が早くて助かる。
「それで、浄化や解呪の技能持ちの方はお知り合いにいるんですか?」
「いるにはいるが、少し離れた場所に住んでいるからな。こっちに来てもらうまでの間は、君が考えてくれた方法で対処しよう」
「お役に立てたなら良かったです」
ぺこりと頭を下げる悠利。その頭を、アランはぽんぽんと撫でてくれた。助かったよという言葉と共に。患者とその家族も、ありがとうございますと礼を言ってくれる。誰かのお役に立てて良かったと悠利は笑顔を浮かべていた。
その足下で、ルークスがえっへんと言いたげな顔をしている。ご主人様は凄いんだぞとでも言いたいのだろうか。ルークスは悠利が大好きなので。
そんなやりとりをしていると、騒ぎを聞きつけたらしいアリーが顔を出した。ついでと言うとアレだが、デュークも一緒である。……弟に会いに来る口実を見つけたみたいな感じなのであろうか? 流石にそうではないと思いたい。
「ユーリ、何があった?」
「あ、アリーさん。いえ、アランさんのお手伝いをしてただけですよ」
「それで何でこんな場所にいるんだ?」
「呪いで困ってる患者さんが運ばれてきたので、状態確認と相殺させるのに最適な道具を見繕ってました」
「なるほど……」
ちゃんと働いたんですよと言いたげな悠利。よくやったと労ってくれるアリー。……しかし次の瞬間、何とも言えない顔になる。
「……なんですか、アリーさん」
「いや……。アラン殿、こういった事態はよくあるのか?」
「よくあるというわけではないが、珍しいわけでもないな。それがどうかしたか?」
「それなら良いんだ。……またこいつが何かを引き寄せたのかと思っただけで」
「アリーさん、ひどいですよ!」
ぼそりと呟かれた言葉は悠利の耳にしか届かなかった。アランは首を傾げているが、バッチリ聞こえていた悠利はひどいと訴える。何かが起きたら自分が原因扱いされるのは慣れているが、今回は本当に何もしていないのだ。
そんな主張をする悠利に、アリーは面倒くさそうな顔をしてこう告げた。
「お前のそのわけの解らん強運がな、何かを引き寄せた可能性もあるだろうが」
「人助けをしただけなのに!」
「解ってる。責めてない。ただ、いつもと違う場所に行くと必ず何かが起こるなと思っただけだ」
「僕のせいじゃないです!」
濡れ衣だーと訴える悠利。適当にあしらっているアリー。何をやっているんだと言いたげにアランとデュークが見ているが、まぁ、いつものやりとりではある。悠利に自覚がなくとも、いつもと違うことをすると何かを引き起こすのはお約束である。
ただ、アリーが言ったように、強運が仕事をした可能性はあるのだ。悠利がいなければ、目の前の患者の対処は遅れていた可能性がある。そういう意味での、騒動を引っ張り寄せた可能性は否定できないのだ。過去にもそんな感じのことがあるので。
悠利がいるから、本来よりも軽い被害ですんだ。自分だけでなく居合わせた面々にも影響を及ぼすのが、悠利の強運である。運∞は伊達ではなかった。
何はともあれ人助けをちゃんとやったので、話を聞いた仲間達から褒められる悠利なのでした。誰かを助けて褒められるのは嬉しいものですね。
たまにはちゃんと仕事するんですよ、【神の瞳】さん。
やはりチート技能は頼れる……。
ご意見、ご感想、お待ちしております。
なお、感想返信は基本「読んだよ!」のご挨拶だけですが、余力のあるときに時々個別でお返事もします。全部ありがたく読ませて頂いております!





