ワーキャットさん達との交流会
明けて翌日。ぐっすりと寝たことで旅の疲れも取れた悠利達は、里の一角、広場になっている場所にいた。せっかくワーキャットの里に来たのだから、里の住人と交流を深めてもらおう。そんな意味合いで用意された時間であるが、交流会というよりはお遊びであった。
何せ、交流会メンバーの筆頭が若様である。お子様代表とでも言うべきリディが頂点なのだから、集められているのも基本的に子供だった。子供達と遊びながら里に馴染んで貰えば良いということらしい。
下はリディと同じぐらいの幼児から、上は見習い組と同年代の十代前半頃まで幅広く集まってくれている。中には勉強や家の手伝い、修行などがあるということで不参加の子供達もいるが、里の大半の子供達がこの場に集まっていた。
別に無理強いをしたわけではない。ワーキャットの子供達は子供達で、普段見ることのない人間に興味津々なのだ。外に出ることも滅多にないので、人間の街はどんな風なのか、どんな生活をしているのかを知りたいらしい。子供はどこでも好奇心旺盛だ。
この場にいる《真紅の山猫》のメンバーは、アリーを除く全員である。アリーは里長と大人のお話があるらしく、席を外している。ジェイクは一応見守り役というポジションらしいが、誰も彼にそれが出来るとは思っていなかった。どうせ、知的好奇心で首を突っ込んでくるので。
主に子供達と交流しているのは見習い組と訓練生の若手、と言いたいところなのだが、大人枠であるマリアとリヒトの二人も何やかんやで子供達に囲まれていた。子供の好奇心は、大人が相手でも止まるところを知らないのだ。
「わー、お姉さん力持ち!こんなに腕細いのに……!」
「うふふ。私はダンピールっていう種族なの。ヴァンパイアのお父様から力の強さを受け継いでいるのよ」
「ダンピールってなぁにー?」
「はじめてきいたー!」
見た目は妖艶美女のお姉様であるマリアだが、ダンピールは身体能力の高い種族だ。ワーキャットの子供達を軽々と担ぎ上げてはきゃっきゃと喜ばれている。見た目はちょっぴりシュールだが、当人達が楽しそうなので良いのだろう。多分。
色取り取りのワーキャットの子供達が、マリアを取り囲んでわいわい質問攻めにしている。特に、初めて聞いたダンピールという名称に「それ何?それ何?」状態らしい。マリアはにこやかに微笑みながら子供達に説明をしている。
「ダンピールというのは、お父さんかお母さんがヴァンパイアで、その能力を少しだけ受け継いで生まれる種族のことよ~」
「じゃあお姉さん、強いの?」
「ヴァンパイア強いんだよね?お姉さんも強いってことだよね!」
「うふふ、そうねぇ。お姉さん、戦うの得意だし、結構強いわよ」
「「すごーい!!」」
微笑ましい会話であるが、「結構強いは事実でも、人の話を聞かないのはどうかと思う……」みたいな気分になった悠利であった。なお、悠利よりも直接的にその影響を受けることが多いリヒトとラジは、物凄く微妙な顔をしていた。子供達の手前、口を挟むことはなかったが。
そのリヒトとラジも、同じようにワーキャット達に囲まれている。ラジは比較的幼い子供達で、リヒトは年かさの子供達に囲まれている感じだった。獣人と人間に対する興味の表れだろうか。
「おにーさん、ぼくらといっしょ?」
「擬態してるの?」
「違うよ。僕は獣人。あと、猫じゃなくて虎」
「獣人さん!」
「虎さん!」
どうやら獣人を見るのは初めてだったらしく、子供達はラジの言葉に一気にテンションが上がった。上がった結果、話をするために座っていたラジの身体をベタベタ触り始める。耳、尻尾、手、などが特に念入りに触られて、ラジは困ったような顔になる。
それでも、幼い子供達を邪険に扱うことは出来ないのだろう。しばらくは彼等にされるがままになっていた。少しして落ち着くと、子供達から質問が飛び出す。
「耳と尻尾だけ?」
「あぁ。獣の性質を残しているのは、耳と尻尾だけだよ。ただし、力が強かったり足が速かったりはちゃんとあるよ」
「擬態とそっくりー」
「そうだね。それは僕も驚いた。ワーキャットの擬態は獣人みたいだね」
「うん」
一通りもみくちゃにしたら落ち着いたのか、子供達は無理にラジに触ることもなく、楽しそうに談笑をしている。獣人には何が出来るのか、ワーキャットと何が違うのか。そんな子供らしい好奇心を炸裂させていた。
その隣でリヒトは、比較的年齢層が高めの子供達を相手にしているので、実に穏やかに会話をしている。子供達の方も、大人に質問をするというスタンスなので礼儀正しい。……どうやら、外の世界や冒険者というものに興味があるらしい。
「基本的に冒険者ギルドの登録は10歳ぐらいから出来る。ただし、能力を認められない限りは、見習い扱いになるな。その状態で受けられる依頼は、近所の草むしりとかお使いとかだよ」
「そういう依頼もあるんですか?」
「ある。冒険者ギルドは何でも屋みたいなところがあるからな。水路の掃除とかもあるぞ」
「へー……」
「そうなんですね……」
冒険者のお仕事ってそういうのあるんだ、とふむふむと感心している子供達。同時に、それなら僕達でも出来そうなお仕事だよね、という空気があった。恐らく、普段手伝いなどでやっていることなのだろう。
ただし、冒険者として生活していくなら、そんな簡単な、子供のお手伝いレベルの依頼だけでは無理だ。生活費を稼ぐことを考えると、もう少し身体を張る依頼でないと収入として心許ない。しかし、子供相手にそんな世知辛い現実を伝えるのはアレなので、リヒトはその件については沈黙を守った。
交流会と言いつつ子供達の好奇心を満たすお遊び会みたいなものなので、悠利達が新しい情報を得るという雰囲気はない。どちらかというと気兼ねなく接することで、お互いに緊張せずに付き合えるようにしようという感じだろうか。
そんな中、わいわいがやがやと十把一からげのような感じで騒いでいる一団がある。見習い組と、遊び盛りの子供達の集団だ。悠利が視線を向ければ、小柄な身体でぴょんぴょん飛び跳ね、くるんとバク宙をしてのけるワーキャット達の姿が見える。流石は猫ということだろう。実に身軽だ。
「わー、やっぱ猫だけあって、すっげー身軽だな」
「あと、身体もめっちゃ柔らかい」
「俺らじゃ無理な動きだなぁ……」
しみじみと感心したと言いたげなカミール、ヤック、ウルグスの発言に、ワーキャット達はえっへんと胸を張っている。別に彼等はこれといって鍛えているわけではない普通の子供達だ。しかし、持って生まれた身体能力をきちんと使いこなしているのである。
悠利はちらりと、自分の隣に座ってドヤ顔で皆を見守っているリディを見た。悠利の隣は自分の定位置だと言わんばかりに、誰にも譲らない。そして、子供達が悠利に話しかけると、僕の友達だぞと言わんばかりに後方友人顔である。若様は今日も自由です。
「ゆーり、なに?」
「えーっと、リディもあーゆーの出来るのかなって」
「とんでまわるのは、まだむり。あぶないからって、れんしゅうさせてくれないから」
「あ、そうなんだ」
身体の柔らかさは問題ないと言いたげに、ぺたんと身体を折り曲げたり、手足をぐいーっと曲げてみせるリディ。幼い子猫がそういう行動に出ると大変可愛い。
目の前で飛んだり跳ねたり回ったりしている子猫達の中には、リディとそれほど年齢が変わらなさそうな子達もいる。彼等がやっているのにリディが出来ないのは、周りの大人に危ないからと止められているからだという。やはりそこは、次代を担う里長のご子息という立場が影響しているのだろうか。
そんなことを考えた悠利の耳に、エトルの言葉が滑り込んだ。ちなみにエトルは、若様の隣に座っている。そこが彼の定位置なので。
「若様の場合、許可を出すと調子に乗って出来もしないことをやろうとするので、禁止されているんです」
「え、そっち……?」
「そちらです。ご存じの通り、すぐに調子に乗ってしまう方なので」
「えとる!」
「あー……。否定できないねぇ……」
「ゆーり!?」
身も蓋もないことを言いだした学友にリディが文句を言おうとするが、悠利は素直に同意した。悠利が同意したので、裏切られたみたいな顔でリディは友人を見る。お友達なのに、自分の味方をせずにエトルの味方をするのはどういうことだ!?という気持ちなのだろう。若様はすぐに顔に出る。
しかし、悠利としてもこの場合はエトルに同意するしか出来ないのだ。リディは愛すべき我が儘で自由な若様子猫である。彼の性格は愛すべきものだし悠利はリディが好きだ。とはいえ、客観的に見て若様が調子に乗りやすいタイプなのは否定できない。しょっちゅうドヤ顔をしているし。
「リディ、現実は認めないとダメだよ。危ないことでも平気でやろうとするのは良くないし、周りの大人の言うことをちゃんと聞けるようにならないと……」
「ぼくは、ちゃんとしてる……!」
「うん。リディはリディなりにちゃんとしてるよね。でもきっと、大人の皆さんから見たら、まだ足りないんだよ」
「そんなばかな……」
「まだまだ成長あるのみだね」
ガーンという効果音でも聞こえてきそうなレベルでショックを受けているリディ。柔らかく諭すような悠利の言葉に、エトルも、傍らに控えているフィーアとクレストも、じっとリディを見守っていた。この言葉を、若様がどう受け止めるのかが気になっているのだ。
そして、リディはしばらくしてから口を開いた。心持ちキリッとした顔で。
「わかった。もっとちゃんとできるように、頑張る」
「偉いよリディ。応援してるね」
「うん!」
実に素直だった。お友達である悠利の言葉だから素直に受け入れたのだろう。同じことを言っても全然聞き入れてもらえなかった三人は、思わず目頭を押さえていた。あぁ、若様がちゃんと人の話を聞いている、と。
そう、この若様、割と悠利に言われると素直に従うのだ。結構チョロいところがある。多分、初めて出来た外部のお友達ということで、悠利が特別枠なのだろう。悠利と、ルークスと、収穫の箱庭のダンジョンマスター・マギサが、リディの何の利害関係も絡まない純粋なお友達である。
ちなみにそのお友達であるルークスはと言えば、ワーキャットの子供達にもみくちゃにされていた。スライムが珍しいのか、きゃいきゃいと一緒に遊んでいる。悠利がそれを放置しているのは、アロールが従魔のナージャと共にその一団にいるからだ。出来る十歳児と頼れる白蛇様がいるので問題ないのだ。
そんな風にほのぼのとしていると、不意に見習い組と子供達の一団が騒がしくなった。身軽に飛び跳ねていた子猫達と張り合うように色々動いていたのだが、結局勝てなかったらしい。まぁ、猫の身体能力に勝つのは難しい。
「なぁ、俺らだと身軽さで全然敵わないけど、マグはどうなんだ?」
「……?」
「鬼ごっことかなら、マグどうにか出来るんじゃないか?」
楽しげにカミールが告げた言葉に、マグは首を傾げた。飛び跳ねるなどでは敵わなくとも、通路を選択して、時に身を隠しながら行う鬼ごっこであるならば、マグに勝機があるのではないかという意見だった。
マグは隠密の技能を持っているような、身を隠したり逃げたりするのが得意な少年だった。そういう意味では、良い勝負が出来るような気がしたのだ。
その話を聞いた子供達は、ぱぁっと顔を輝かせた。鬼ごっこ楽しそう!というオーラがダダ漏れだった。
「鬼ごっこ!鬼ごっこしてくれるの?」
「一緒に鬼ごっこしよう!」
「……」
子供達の誘いに、マグはしばらく考え込む。考え込んで、そして、答えた。
「却下。下見」
「……え?何?」
「下見」
「何なの……!?」
それが理由だと言いたげに自信満々に言いきるマグに、子供達は混乱していた。そりゃ混乱するだろうなぁと思いながら、カミールとヤックはウルグスの肩を両側からぽんと叩いた。仕事してくれと言うように。
ウルグスは大きなため息を一つついて、ざわざわしている子供達に言葉をかけた。こいつ本当に相変わらず言葉が足りねぇんだよなぁ、と思いながら。
「悪いな。今すぐは無理だって言ってるんだ。まだここの街並みの下見が出来てないから、鬼ごっこをするにしても情報が足りないって」
「今の、そういう意味だったの!?」
「お兄ちゃん何で解るの……!?」
「……まぁ、慣れ?」
「「すごい!!」」
あの短い言葉と無表情からここまで読み取れるの凄い!と盛り上がる子供達。アレは確かに凄いよなぁ、とカミールとヤックも同意する。なお、マグは当たり前のことなのに何でそんなに大騒ぎしているんだ?みたいな雰囲気を出していた。当たり前じゃないです。
とりあえず気を取り直した子供達の一人が、マグの腕を掴んで口を開いた。その顔は実に楽しそうだった。
「じゃあ、今から皆で下見に行こう!それが終わったら、鬼ごっこ!」
「そっちのお兄ちゃん達も一緒に!」
「…………諾?」
「おーし、解った。こんな風にぐいぐい来られるの珍しくて困ってんの解ったから、俺らの顔色をうかがって返事すんじゃねぇよ」
「…………否!」
「蹴るな!」
慣れない状況に一瞬困惑していたマグだが、ウルグスの言葉にイラッとしたように蹴りを入れた。いつものやりとりが始まってぎゃーぎゃーやりあう二人をスルーして、カミールとヤックは子供達に下見に行こうと声をかけていた。……いつものことなので。
そしてそのわちゃわちゃのまま、見習い組と子供達の一団は里の下見に飛び出していった。別にずっとこの広場にいろというわけではないので、行動は自由だ。里の子供達と一緒なので、咎められることもないだろう。賑やかに去っていく一団を、ひらひらと手を振って見送る悠利だった。
そんな風に大半は遊んでいるに等しいのだが、中には真面目に異文化交流をやっている面々もいる。イレイシア、ミルレイン、ロイリスの三人だ。彼等はそれぞれちょっと特殊な職業なので、それもあって異文化交流に熱心なのだろう。
吟遊詩人のイレイシアは、将来のためにも様々な文化に触れ、様々な歌に触れることを目標にしている。身を守るための旅をするための知識を身につけるというのもあるが、多種多様な人材が身を置く《真紅の山猫》に所属するというだけでも、彼女にとっては十分な勉強になるのだ。
なので今も、比較的年齢層高めの子供達から、ワーキャットの間で流行っている歌や、彼等が好むものについて聞いている。その種族の好きなものを知ることで、歌を聴かせたときに不快に思わせない言い回しが出来るようになるからだ。
「つまり皆様は、ふわふわしたものや、軽やかに動くものがお好きなんですね」
「うん。硬いのやつるつるしたのはあんまり好きじゃない。触っても楽しくないから」
「確かに、ふわふわしたものは手触りが素敵ですものね」
「そう」
話はふんわりとした好みの話に移動していた。やはり猫だからだろうか。つるつるとしたものよりも、ふわふわの方が触り心地が良いのだという。また、軽やかに動くものということは、目の前でひらひらと動く何かを見ていると楽しいということだろうか。
その辺りは猫と似ていますのね、とイレイシアは口に出さずに考えた。気まぐれで楽しいことが大好きな動物の猫に比べれば、ワーキャット達は理性的だ。文化的な生活を営むことが出来るぐらいにはきちんとしている。それでも、ざっくりとした好みはやはり猫っぽいらしい。
「あ、つるつるはあんまり好きじゃないけど、ひんやりのつるつるは好きだよ」
「ひんやりのつるつる……?」
「暑い日にね、つるつるの冷たい床の上に転がるのとか気持ち良い」
「わかるー!」
「アレは最高だよね」
うんうんと仲間内で頷き合うワーキャット達。どうやら、猫らしく暑いのはあまり好きではないらしい。なので、そんな日に冷たい床に転がると心地好いのだとか。その辺りも猫みたいだとイレイシアは思った。
なお、他に彼女が手に入れた情報は、ワーキャットは騒音や甲高い音を好まないと言うことだった。聴覚が優れているからだろう。大きな音も、無意味に高い音も、耳が痛くなるらしい。ワーキャットを相手にするときは、その辺りも考えて歌を選ばなければと思うイレイシアだった。
ミルレインはと言うと、鍛冶士としての観点から、どういう道具が使いやすいのかという話を聞いている。彼女は基本的に武器を作るタイプの鍛冶士であるが、武器以外のものも作れる。例えば包丁とか、畑仕事に使う道具とか。庶民相手ならばそちらの方が需要としては大きいだろう。
「別に難しいことは良いんだ。ただ、家にある道具で使いやすいとかあるかなって」
「んー、人間用のがどういうのか解んないけど、滑りにくいようには作ってある」
「そうそう。握れるけど、肉球あるけど、滑るときは滑るし」
「あぁ、滑り止めな。それは確かに、刃物の類いなら重要だ」
ふむふむと納得しているミルレイン。握り手の部分に滑り止めを作るというのは、別にどの種族でも変わらない。確かに重要なことだと満足げである。
そんなミルレインに、家が近所だという子供が家で使うスコップを持ってきた。子供用のスコップだと言って渡されたそれを見て、ミルレインは思わず目を点にする。
「……これ、何か持つところに変なくぼみがあるんだけど」
「これが、滑り止め」
「このくぼみが?」
首を傾げるミルレインの前で、スコップを持ってきた子供はぎゅっとスコップを握ってみせる。ミルレインには何のためにあるのか解らなかったくぼみだが、子供が握るときちんとフィットしているように見えた。
それでもよく解らないと言いたげなミルレインに、子供は言葉でも説明してくれる。丁寧に、指を持ち手から一本外して見せながら。
「このくぼみ、ちょうど肉球が入るようになってて、そこに滑り止めがあるの」
「肉球用のくぼみだったのか!」
「全体じゃなくて、この肉球のところだけ滑り止めの素材が使われてるんだよ。ぎゅってすると安定するの」
「なるほど……。見せて貰っても良いか?」
「良いよー」
お姉ちゃん仕事熱心だねぇ、と子供達は楽しそうだ。彼等にとってはごく普通の工夫でも、ワーキャットと交流のなかったミルレインには驚きの工夫なのである。持ち手全体に滑り止めを付けるのではなく、あえて肉球の部分だけにしてある。そうすることで、持ち手全体の手触りは向上しているようだ。
山の民のミルレインが握っても、その滑り止めの恩恵にはあずかれない。肉球部分がすぽっと収まるようになっているのだから当然だ。同時に、これは子供用だと言われた理由も解った。大人になると手も大きくなるので、肉球のサイズも変わるからだ。
しかしそれは、普通の道具でも同じことだ。手の大きさ、身体の大きさに合わせて、道具は買い換えて使う方が良い。中には年齢性別問わずに使えるような道具もあるだろうが、やはり力を込めやすかったり使いやすい道具というのは、サイズの合ったものである。これは多分、万国共通だ。
「お姉ちゃん物作りに興味があるなら、うち来る?」
「え?」
「こいつの家、鍛冶屋だよ」
「父ちゃんならもっと詳しく解ると思う」
「良いのか!?」
「俺らも楽しいから良いよー」
「うん、楽しいし」
「じゃあ頼む!」
そこで話がまとまって、ミルレインは男の子を中心とした集団と一緒に走っていった。子供達も楽しそうなので、コレも異文化交流だろう。多分。……多分。
ちなみに、似たような流れになりそうなのがロイリスと彼の周りにいる女の子達だった。細工師見習いのロイリスは、ワーキャットの里ではどういった細工物が人気かを聞いていて、女子と話が弾んでいるのだ。
「最近の流行はあまり細かくないシンプルな意匠なんですね」
「植物モチーフが流行ってるよー」
「植物、良いですよね。季節毎に使い分けたり、地域によって馴染みのある意匠が違ったりしますし」
「おにいさんは、どういうのがつくれるのー?」
「僕は細かい細工の方が得意なんです」
ロイリスが得手とするのは繊細で細かい細工物だ。丁寧に作られたそれらは文句なしに美しいが、今ワーキャットの里で流行っているのがシンプルなものだとするなら、ちょっと分野が異なるかもしれない。
しかし、植物モチーフについて話している姿は楽しそうだ。モチーフにするということは、現物をよく見た上でデフォルメしなければならない。細工物を作る腕前もだが、想像して形にする発想というのも大事だ。それらは経験と共にセンスが必要になる。
そんな会話の後、ロイリスと少女達の集団は実際に細工物を見に行こうと去っていった。少女達の家にあるものを見たり、雑貨屋や装飾品を取り扱う店へ向かったのである。口で説明するより実際に見た方が早いということらしい。賑やかな話し声がしばらく聞こえていた。
そうやって皆が移動していくのを見送りつつ、悠利はまったりとしていた。隣のリディやエトルと会話をする程度の、まったりとした時間である。仲間達の交流を傍観していると言っても過言ではない。
何故そんなことになっているかと言えば、子供達が必要以上に悠利に近付いて仲良くすると、リディがちょっぴり不機嫌になるからだ。挨拶をしたり、ちょっと会話をするぐらいは良いのだが、他の集団みたいに話が盛り上がってリディをそっちのけになると、目に見えて若様の機嫌が急降下するのである。
子供達もそれを察して、悠利とは当たり障りのない交流で終わっていた。まぁ、少し寂しいと思わなくもないが、悠利に会いたいと思って遊びに来てと誘ってくれたリディが隣にいるのだ。会話には事欠かない。
「リディは皆と一緒に走り回ったりしないの?」
「しない」
「そうなんだ」
「あぶないのと、なんか、たちばがちがうんだって」
「立場」
「うん、たちば」
面倒くさいと言いたげに、リディは足をぶらぶらさせていた。そんな若様の姿に、エトルも、フィーアも、クレストも、そっと視線を逸らした。里長様のご子息、それも次代を担う跡継ぎ様という立場は、子供相手でも気軽な交流が許されないらしい。
まぁ、だからこその学友のエトルであり、何も気兼ねなくお友達になった悠利をリディが大好きになっているのだが。なお、悠利は大好きなお友達だが、カミールとアロールのこともほぼお友達枠に入れている若様である。遊んでくれるので。
「若様って大変だねぇ」
「そう、ぼくはたいへんなんだ」
「お勉強もあるし?」
「……そう」
「若様は油断するとすぐに勉強を放り投げて遊びますけどね」
「えとる!」
さらりと暴露するエトルに、リディは噛みつくように叫んだ。しかしエトルはどこ吹く風。本当のことじゃないですかと言いたげだ。にゃーにゃー言いながら怒るリディと、ちゃんと勉強すれば良いだけですときっぱり言いきるエトル。悠利が見慣れた、いつもの二人だ。
……こんな風にエトルは、リディがちょっぴり沈みそうになるといつものやりとりに戻しているのだろう。若様のご学友という立場だけでなく、彼は何だかんだでリディのことが大好きなので。
そんな二人の姿を眺めて、こういう関係も良いよねと思う悠利だった。友情の形は幾つもある。若様と学友だったとしても、彼等はとても仲が良いのだから。
子供達との楽しい交流会で得た情報は、その後《真紅の山猫》の面々同士で共有されるのでした。主に楽しかった感想として、ですが。
マグとにゃんこ達の鬼ごっこ、めっちゃ見たい。
絶対こう、マグが隠密発揮するんですよ、知ってる。
ご意見、ご感想、お待ちしております。
なお、感想返信は基本「読んだよ!」のご挨拶だけですが、余力のあるときに時々個別でお返事もします。全部ありがたく読ませて頂いております!





