表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強の鑑定士って誰のこと?~満腹ごはんで異世界生活~  作者: 港瀬つかさ
書籍12巻部分

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

250/465

見た目が可愛い、鬼灯ランタン

鬼灯って、可愛いですよねー。

お盆の季節にはよく飾ってあったものです。


コミックス5巻発売中&書籍12巻3月10日発売です。

活動報告に表紙アップしてます。


 鬼灯。

 それは、オレンジ色の風船のような形が特徴的な植物である。茎にぷらんとぶら下がる様は、何だか提灯のようだ。

 さて、そういう鬼灯ならば、悠利(ゆうり)もよく知っている。ただし、今目の前にある鬼灯は、知らない。


「……えーっと、ヤック、これ、鬼灯であってる?」

「あってるよ。お化け鬼灯」

「……おばけ、ほおずき」


 教えられた名称を、悠利は反芻した。そして、確かにその名前に相応しいなぁと思った。

 リビングのテーブルの上にどんと並べられている鬼灯は、小さい物で水風船、大きい物は提灯サイズだった。悠利の知っている、可愛いオレンジが揺れる鬼灯とは明らかにサイズが違う。何だコレ案件である。

 皆が普通の顔をしているところを見ると、このお化け鬼灯なる植物は珍しいものではないのだろう。しかし、悠利には見知らぬ植物だ。なので、そっと最強の鑑定系チート技能(スキル)【神の瞳】さんのお世話になることに決めた。

 じぃっとお化け鬼灯を見つめれば、今日も悠利仕様にアップデートされている【神の瞳】さんは、素敵に愉快な鑑定結果を表示してくれる。




――お化け鬼灯。

  夏に実を付ける植物の一種。毒性はなく、薬の一種として扱われる。

  他の種類に比べて大きな実を付けることが特徴で、お化けの名称で呼ばれる。

  なお、膨らんでいるのは花ではなく萼の部分であり、実はその中央の一部です。

  適切な処置をして中の実を刺激すると光る為、簡易の光源として用いられます。

  薬の一種なので一応食用ではありますが、美味しくないので調理しようと思わないでください。あくまでも薬です。




 【神の瞳】さんは今日も絶好調だった。

 もしや何か意志があるのではないかと思うほどに、悠利相手に的確な鑑定結果を表示してくれる。自分の技能(スキル)にツッコミを入れられたり、釘を刺されたりするという謎の状況だ。

 しかし、悠利はそんなことは気にしない。彼にとっては、【神の瞳】は解らないことを解りやすく教えてくれる上に、先回りして忠告までしてくれるとても便利な技能(スキル)なのだ。

 普通の鑑定技能(スキル)はそんなんじゃないというツッコミは、彼には届かない。だって、他人の鑑定結果は見えないのだから。

 逆にいうと、悠利仕様のこのトンチキな鑑定結果が周囲の面々に見えなくて良かったともいえる。特に、悠利の保護者であり師匠みたいな存在でもあるアリーに見えていたら、頭を抱えて唸っていただろう。知らぬが仏とはこのことだ。


「へー、種が光るんだー」

「そうそう。枕元に置いておくと、よく眠れるんだ」

「そうなの?」

「優しい光だからかな?昔から、そう言われてるんだって」

「なるほど」


 悠利の言葉に、ヤックはお化け鬼灯の使い道を教えてくれる。光源にすると鑑定結果にあったが、そういう風に使うのかーと思う悠利だった。

 何となく、脳内でイメージがアロマライトみたいなものになった。目に優しい間接照明などの光で、眠りやすくするとかに近いのかな、と。真っ暗な方が良く眠れるという人もいるが、意外と優しい光がある方が眠れたりするので、そういうことなのだろうと思った。


「じゃあ、皆がどれにしようか選んでるのって、そのせい?」

「うん。自分好みの大きさを選んでる感じ」


 テーブルの上のお化け鬼灯を、あーでもないこーでもないと言いながら選んでいる仲間達の姿に、悠利はやっと得心がいった。皆はあの大きな鬼灯を何にするんだろうと思っていたのだ。

 ちなみに、お化け鬼灯を選んでいるのは見習い組と訓練生の若手だ。悠利と年齢が近いか年下かしかいない。大人組はあまり興味がないのだろうかと思った。


「あたし、この一番大きいやつにするー!」

「お前は本当に、デカいのが好きだよな」

「別に大きいから良いものってわけでもないのにね」

「大きい方が明るくて良いじゃん!」


 呆れたようなクーレッシュとアロールの発言に、レレイは晴れやかな笑顔で答える。彼女は自分自身の信念に基づいて大きなお化け鬼灯を選んでいるので、何一つ迷いはなかった。清々しい笑顔だ。

 そんなレレイの、基本的に常日頃から大きいのと小さいのなら大きい方を迷いなく選ぶ性格を、彼らは知っている。知っているから、クーレッシュは隣のアロールに問いかけた。


「アロール、何か逸話なかったか、こういうの」

「妖精の小箱の話じゃない?」

「あぁ、それか。デカいの選んだけど、小さい方が良いもの入ってたやつ」

「うん。そんな感じ」


 子供に聞かせる昔話の一つをあげたアロールに、クーレッシュは納得した。二人の会話が聞こえていた悠利は、舌切り雀みたいなお話がこっちにもあるんだなと思った。

 なお、全体の雰囲気は舌切り雀と似ているが、妖精の小箱の話は割と優しいお話だ。

 怪我をした妖精を助けて世話をした青年に、妖精がお礼に二つの小箱をプレゼントしてくれる。大きいものと小さいもの、どちらか一つと言われて青年が選んだのは大きい方だったという話になる。

 ただし、舌切り雀のように大きな方に嫌なものが入っているわけではない。どちらもちゃんとお宝が入っている。ただ、小さい方がより高価な物が入っているだけだ。

 この話の教訓は、世の中には見た目通りではないことが多々あるという話。けれど同時に、誰かに優しくすればその恩はちゃんと返ってくるという話でもある。舌切り雀に比べると大分優しいお話だった。

 閑話休題。


「妖精の小箱のお話、あたしも好きだよー!困ってる人は助けましょうってやつでしょ!」

「それだけじゃないんだけどね」

「え?そうなの?うちではそう習ったんだけどなぁ?」

「まぁ、レレイはレレイだから、それで良いんじゃない?」

「うん?うん、あたしはあたしだもんね!」


 アロールに言い含められたレレイがにぱっと笑う。隣でため息をつくクーレッシュに、彼女は気付いていなかった。お前どこまで単純なんだと言いたいのだろう。けれど、その明朗快活で単純なところがレレイの持ち味でもある。素直なので。

 そんなレレイを中心とした会話を相変わらずだなぁと思って見ながら、悠利もお化け鬼灯を選ぶために真剣になる。大きい方が良いのか、小さい方が良いのか、他に見極める点があるのか、悠利にはさっぱり解らない。

 解らなかったので、隣のヤックに聞いてみることにした。


「ねぇヤック。これ、選ぶ基準って何かあるの?」

「え?あー、普通に好みで選べば良いと思う。枕元に置くときにどんなのが良いかっていうので」

「それで良いの?」

「寝るときの光源に使うなら、それで良いんじゃないかなぁ……?」

「そっかー。じゃあ、あんまり大きくない方が良いかなー」


 選ぶ基準がそれで良いのなら、悠利でも選びやすくて助かった。お化け鬼灯を幾つか手に取って、大きさを確認しながら選ぶ。よく見れば、皆、あまり大きなものを選んではいない。レレイが一人大きいのを持ってご機嫌だが、それだけだ。

 やはり、枕元の灯りにすると考えると大きくない方が良いのだろう。お化け鬼灯がどの程度の強さで光るのか解らないだけに、悠利もそれほど大きいのを選ぼうとは思わなかった。明るすぎると寝るときに邪魔になるので。

 よく見ると、お化け鬼灯は一つの茎に一つの実しか付いていない。悠利の知っている鬼灯は、一つの茎に幾つもぶら下がっている感じだったので、ちょっと不思議だった。

 ただ、悠利の知る鬼灯よりも明らかにサイズが大きいので、それを考えればこれで妥当なのかもしれない。大きすぎれば、一つの茎で支えられる分量も必然的に減るだろうと思った。


「んー。ロイリス、加工するとしたら、どの辺が良いと思う?」

「大きいと強度が下がるみたいなので、中ぐらいの大きさまでが妥当じゃないですか?」

「あー、やっぱり大きいのは柔いか」

「触ってみた感じ、柔らかいですね。うっかり力を込めすぎると破れるかも」

「うーん、難しいな」


 額を付き合わせて相談しているのは、ミルレインとロイリスの物作りコンビだった。どうやら、お化け鬼灯に何らかの加工を加えようとしているらしい。今日も彼らは修行に余念がない。

 いや、別に修行ではないのだろう。習い性みたいなものだ。或いは、悠利の家事と同じで、修行と趣味が一緒というべきか。とにかく、そんな感じの二人だった。

 ちなみにこのお化け鬼灯、二人が言うように大きくなるほどに強度が落ちる。同じ質量で大きさを変えていると思えば良いだろう。風船のように膨らませている部分が、大きくなるほどに薄くなるのだ。

 ……さて、ここで思い出して欲しい。《真紅の山猫スカーレット・リンクス》でも指折りの力自慢で、さらにその制御がイマイチ出来ていないポンコツ仕様のとある女子のことを。彼女が選んだのは、大きなお化け鬼灯である。


「あー!破れちゃった!」


 ぽしゅっという間抜けな音と共に、レレイが手にしていたお化け鬼灯がしぼんでいた。あたかも風船から空気が抜けたかのような、間抜けな姿になってしまったお化け鬼灯。しわしわになった萼が、中央の果実の部分にへにゃりと絡みついていた。

 手の中で壊れてしまったお化け鬼灯を見て、レレイは悲しそうな顔をする。せっかく大きなお化け鬼灯のランタンを作ろうと思ったのに、作る前に壊れてしまった。壊したのは自分だが、それでも悲しいものは悲しいのだ。


「……レレイ、お前は小さいお化け鬼灯にしておけ」

「何で?お化け鬼灯なんだから、大きい方が良いじゃん」

「知ってたか?お化け鬼灯は、大きい方が破れやすいんだ」

「え……?」

「壊したくないなら、小振りなやつにしとけ」

「……はい」


 クーレッシュに諭されて、レレイはしょんぼりと肩を落とした。一応、自分の馬鹿力を解っているレレイだ。だから、大人しくクーレッシュの忠告に従うのである。素直だった。

 素直だが、小さなお化け鬼灯を手にして「大きい方が良かったよぉ」とぼやくのは止めなかった。なお、小さいと言っても水風船サイズなので、それなりの存在感はある。

 馬鹿力でうっかり大きなお化け鬼灯を壊してしまったレレイ。そんな彼女のある意味で予定調和というべき行動を見た一同は、誘われるように視線をウルグスとラジへと向けた。


「お前ら、言いたいことは解るが、一緒にするな」

「……何ですか、皆して」


 面倒くさそうな顔をしたウルグスと、心外だと言いたげなラジ。力自慢の二人だが、彼らは自分の力をきちんと制御できるので、馬鹿力で制御出来ないときがあるポンコツのレレイと一緒にされたくないのだった。

 幸か不幸か、そんなやりとりはレレイの耳には入っていなかった。

 手の中の水風船サイズのお化け鬼灯を弄んでいる。どうやら、先ほどまでのものより強度があるかどうかを確認しているらしい。集中しているので、皆の会話が聞こえていないのだ。平和だった。


「まぁ、確かにレレイと一緒にしたら二人に悪いよねぇ。ウルグスもラジもちゃんと制御出来るんだし」

「お前だって一瞬俺を見たじゃねぇか、ユーリ」

「あははは、ごめんごめん」


 ウルグスにジト目で見られて、悠利は笑って誤魔化した。別にウルグスのことを疑ったわけではないのだ。ただちょっと、条件反射で見てしまっただけだ。

 そんな悠利とウルグスのやりとりを聞いていたマグが、ぼそりと呟いた。


「馬鹿力」

「うるせぇよ!俺はちゃんと制御できてるわ!」

「……否」

「お前相手の時は制御出来てないんじゃなくて、わざと全開でやってんだよ!」

「……不要」

「いるに決まってんだろ!本気出して確保しなけりゃ逃げまくるくせに!」


 淡々とした口調で告げるマグに、ウルグスが噛みつく。途端に始まる二人の口論だが、周りで聞いている面々には内容がよく解らない。もとい、安定のマグが何を言っているのかが解らなかった。

 ただ、ウルグスの反論から察するに、普段の喧嘩や何らかのやりとりの際のウルグスの力加減についてなのだろう。マグが馬鹿力だと言い切り、ウルグスが考えてやってると反論している。多分、そういうことなのだろうなと思う一同。

 というか、相変わらずウルグスはマグの短い台詞から内容を読み取りすぎだ。何か奇妙な技能(スキル)でもあるのかと思ってしまうほどに。


「ウルグスのアレ、技能(スキル)じゃないんだよねぇ」

「そんな技能(スキル)あったか?」

「ラジ、アロールの技能(スキル)ならいけそうだと思わない?」

「……あー、異言語理解だったか?魔物とか別種族の言葉が解るやつ」

「そう、それ」


 暢気な会話をする二人の背中を、ぽんぽんと叩く小さな掌があった。悠利とラジが振り返れば、話題の主であるアロールが頭を振っていた。


「アロール?」

「僕の技能(スキル)は、あくまでも自分が使っているのと別の言語が解るものでしかないよ。マグには適用されない」

「されないんだ」

「一応、同じ言語だからね」

「……同じ言語なんだな、アレ」

「一応ね」


 アロールの解説に、悠利とラジは遠い目をした。同じ言語と言われてしまうと色々と語弊がある気がする。いや、確かに同じ言語なのだ。耳に入るのは知っている単語なのだし。

 マグの場合は、致命的に言葉が足らないというだけだ。そういう意味で、同じ言語ではある。そして、その説明をふまえて導き出される結論があった。


「それを聞いちゃうと、何でウルグス、マグの言ってること解るんだろう……?」

「飼い主だからじゃない?」

「ヘルミーネ、それ言うとウルグス怒るよ」

「大丈夫よ。クーレがレレイの行動を把握してるように、アルシェットさんがバルロイさんにナイスなツッコミを入れるように、ウルグスもマグの言葉を理解してるだけだから」


 ぐっと親指を立てるヘルミーネ。自信満々に言いきっているが、内容があまりにもヒドすぎた。

 けれど、悠利もラジもアロールも否定できなかったので、そっと目を逸らした。現実は無情だ。彼女の発言がどれ一つとして間違っていないのが悲しい。

 とはいえ、それが真実だとしても認めたくない人物はいる。ヘルミーネの発言が聞こえていたクーレッシュが、烈火のごとく怒鳴った。


「ヘルミーネてめぇ!誰がレレイの飼い主だ!!」


 常日頃、何だかんだでコンビを組むことが多いレレイの考え無しの暴走に振り回されている身としては、色々と言いたいことがあるらしい。そのままヘルミーネを捕まえて文句を言い続けている。

 ただし、悠利達は誰一人としてヘルミーネの発言を否定出来ないでいる。目端が利いて空気が読め、何だかんだで面倒見の良いクーレッシュが、文句を言いながらもレレイのフォローを的確にやっているのを知っているからだ。

 なお、当事者片割れである筈のレレイは、「どうかしたー?」と暢気に手の中のお化け鬼灯を弄んでいた。彼女は細かいことを気にしないのだ。


「ユーリ、騒がしいのは放っておいて、お化け鬼灯をランタンにしちまおうぜ。やったことないんだろ?」

「あ、うん。ありがとう、カミール。やり方、教えてくれるの?」

「教えるってほどじゃねぇけどな。こっちで作業しようぜ。静かな場所で」

「了解」


 ギャーギャーと騒々しくなっている仲間達の輪から外れるように、悠利はカミールに誘導されて移動する。移動した先では、困った顔で微笑むイレイシアが悠利を待っていた。どうやら彼女も避難してきたらしい。

 イレイシアが自主的に避難したのか、カミールが空気を読んで誘導したのか、どちらだろうか。何となく後者な気がするなぁと思う悠利だ。カミールはまだ少年だが、実家が商人だけあって情報に聡く、目端が利くので。

 促されるままにイレイシアの隣に座ると、悠利はカミールを見た。イレイシアも同じようにカミールの手元を見ていた。


「それじゃ、ユーリとイレイスさんには、俺が作り方を教えるってことで。模様付けたり加工したりは、後でロイリスとミリーさんに聞いてくれ」

「解りましたわ。ありがとうございます、カミール」

「はーい。……ってアレ?イレイスも作り方知らなかったの?」

「えぇ。わたくしの故郷には、この植物はありませんでしたから」

「そうなんだ」


 人魚であるイレイシアの故郷は海だ。お化け鬼灯は海の近くでは育たないのかなと悠利は思った。とはいえ、それが理由ならば彼女も悠利と同じく初心者として教わる側なのが納得できた。仲間が増えてちょっと嬉しい悠利だった。

 三人が手にしているお化け鬼灯は、いずれも水風船を少し大きくしたぐらいの大きさだ。手頃なサイズと言える。そして、カミールは片手に細長い針のような道具を持っていた。


「お化け鬼灯をランタンにするのは、物凄く簡単なんだ」

「そうなの?」

「おう。簡単過ぎて、ちょっと知能がある魔物ならやってるぐらいに」


 さらっとカミールが告げた言葉に、悠利はぽかんとした。まぁ、とイレイシアが上品に口元に手を当てて驚いている。


「……魔物が、お化け鬼灯をランタンにするの……?何で……?」

「さぁ?目印とか、夜の灯りとかじゃねぇの?」

「魔物なのに?」

「魔物にも色々いるからなぁ」


 賢いやつもいるんじゃねぇの?とカミールがけろりと告げた言葉に、悠利はなるほどと頷いた。確かに、魔物でも知能の高い存在はいる。悠利の従魔であるルークスなど、その典型だ。アロールが常日頃から連れ歩いている白蛇のナージャも同じく。魔物といっても侮ることは出来ない。

 それでもやっぱり、魔物がお化け鬼灯を器用にランタンにして使っていると言われると、不思議な感じがする悠利だった。

 そんな悠利の感慨など知らず、カミールは作業手順を説明する。


「お化け鬼灯の茎と繋がってる部分があるだろ?そこの横から、縦にそっと中の果実をこの針で突くんだよ」

「……それだけ?」

「それだけ」

「……上からじゃないとダメなの?」

「おう。何か、茎と繋がってる真上の部分を刺激しないと、光らないんだと」

「へー」


 ぷすっとカミールが針を突き刺せば、お化け鬼灯の実の中心がぼわぁっと光る。柔らかな優しい光だ。鬼灯の袋状の萼の部分に包まれて、その光は淡く柔らかくしか外に出ない。何とも風情のある光である。

 悠利とイレイシアも、針を借りて同じようにぷすっと刺してみる。そうすると、二人が手にしたお化け鬼灯もぼんやりと光った。ただ、不思議なことに色が違った。

 カミールのものは淡いオレンジ。悠利のものは薄紫。イレイシアのものは優しい黄色。何故か全て違う色で、悠利とイレイシアは困惑しながらカミールを見た。説明を求める顔だ。

 そんな二人の顔を見て、カミールは面白そうに笑って種明かしをしてくれる。


「お化け鬼灯はな、針を刺すまでどの色で光るか解らないんだ。実が出来たときの温度とか大きさで色が変わるんだって」

「そうなんだ。でも、大きさで変わるなら、ある程度の法則が解るんじゃないの?」

「大きさってのは中の果実の大きさらしくてさ。こいつ、外側の大きさと中の果実の大きさが一致しないんだって」

「「え?」」


 きょとんとする悠利とイレイシアに、カミールは笑いながら説明を続けてくれる。何だかんだで説明をしてくれる辺り、彼はとても親切だった。


「大きな見た目なのに果実が小さいとか、逆に小さな見た目にぎちぎちに果実が入ってるとかあるんだと。不思議だよなー」

「不思議だねぇ……」

「不思議ですわねぇ……」


 世の中には不思議な植物もあるんだなぁと悠利とイレイシアは感心する。そして、手の中でぼやぁっと光るお化け鬼灯を見て表情を緩める。この優しい光は、見ているだけで癒やされる気がした。


「ところでこれ、どれぐらい持つの?」

「だいたい丸1日ぐらいだな。茎の部分を花瓶とかに挿しておけば、枕元の明かりに早変わり。持ち歩けばランタンみたいになる」

「便利だねぇ」

「まぁ、そこまで明るいわけじゃないから、目一杯明かりが必要なときには使えないけどな」

「でもこの優しい感じが良いと思うよ。僕、これ好きだなぁ」

「そりゃ何より」


 にこにこ笑う悠利に、カミールも楽しそうに笑った。茎を持って軽く動かすと、お化け鬼灯がゆらゆらと揺れる。意外としっかりくっ付いているのか、揺らしても落ちる気配はなかった。確かにこれならば、ちょっとした明かりとして重宝出来そうだなと悠利は思った。

 背後では、まだ仲間達がギャーギャーとうるさい。

 元気だなぁと思いつつ、その騒々しい輪に入ろうとは思わない悠利とイレイシアだった。誰にだって向き不向きはあるのだ。彼らはそこまで口が達者ではないし、基本的に平和主義者なので。

 そんな三人に近付く人影があった。小柄なその影は、悠利達に向けて声をかける。


「二人とも、そのまま使うか、細工を加えるか、どうする?」

「ミリー、細工ってどういう感じ?」

「小さな穴を空けて模様を作ったりするんだ。お化け鬼灯の果実は外側が一定量存在していないと光らないから、その辺を見極めてさ」

「へー。んー、でも僕は、このままで良いかな」

「そっか。細工しようと思ったら言ってくれ。あっちでロイリスと一緒にやってるから」

「うん、ありがとう」


 ミルレインの申し出を、悠利はありがたく辞退した。確かに細工をすれば美しく仕上がるだろうが、悠利にはこの素朴なままのお化け鬼灯が良かったのだ。

 ミルレインも別に押しつけるつもりはなかったのか、それじゃと去って行く。視線を向ければ、ロイリスを囲む仲間達の姿が見えた。どうやら、皆は色々と加工するつもりらしい。


「イレイスとカミールはどうするの?」

「わたくしも悠利と同じでこのままにしようかと思います」

「俺はちょっと加工してくる。上手に出来たら実家に手紙で教えてやるんだ」

「なるほど。それは責任重大だね。行ってらっしゃい」

「おう」


 手を振って去って行くカミールを、悠利とイレイシアは見送る。普段は飄々としているが、カミールは何だかんだで家族思いの少年だ。兄弟は姉だけだと言っていたので、可愛い細工が出来たらその方法を姉に教えるのだろう。

 手先の器用なカミールのことだ。きっと、ミルレインとロイリスに教わって上手に仕上げるだろう。出来上がったら見せてもらおうね、と悠利はイレイシアに笑いかける。


「それにしても、本当に不思議な植物ですわね」

「そうだね。でも、鬼灯をランタンに見立てるのはちょっと解るかも」

「そうなのですか?」

「うん、僕の故郷の風習の一つにね、鬼灯を死者を導く灯りに見立てるっていうのがあるんだ」

「死者を導く灯り、ですか?」


 きょとんとするイレイシアに、悠利はのんびりとした口調で説明を続ける。


「僕の故郷には、夏に死者、ご先祖様達が現世に一時戻ってくるっていう考え方があってね。戻ってきたご先祖様をご馳走でおもてなしするんだけど、そのときに目印になる灯りの代わりに鬼灯を飾るんだよ」

「そうなのですか?」

「うん。鬼灯のこういう形がね、提灯っていう僕の故郷で昔使っていたランタンみたいな道具と似てるから、見立てにされたみたい」

「色々な文化がありますのね」

「僕の故郷の鬼灯はこれくらいの小さいやつだし、光らないけどねー」


 そう言って悠利は、指で小さな丸を作る。ころんとした小さな大きさの鬼灯を脳裏に思い浮かべながら。

 ちなみに、悠利がイレイシアに説明したのは、仏教のお話だ。お盆に先祖が帰ってくるときに、鬼灯を提灯に見立てて飾るというやつである。悠利も詳しくは知らない。祖父母に聞かされたざっくりとした内容だけだ。

 とはいえ、鬼灯の形が提灯に似ているのは事実だろう。少なくとも、お化け鬼灯が茎にぶら下がっている姿は、提灯に似ている。むしろ、大きさから考えればこちらの方が提灯っぽいなと思う悠利だった。


「綺麗な光ですわね」

「優しい光だよねー」

「枕元に置けば安眠できるというのも、納得ですわ」

「今日は皆、良い夢が見られると良いね」

「そうですわね」


 手元で淡い光を放つお化け鬼灯を見て、悠利とイレイシアは顔を見合わせて笑った。今日の寝室は、ちょっと風流になりそうだなと思う二人だ。萼に覆われたお化け鬼灯の光はぼやぁっとしており、それが何とも言えず風情があったので。

 悠利とイレイシアのお化け鬼灯は何も手を加えていないのでそのままだが、視線を向けた先では仲間達が色々と加工していた。ぐるっと一列に小さな穴を開けている者もいれば、小窓のように大きな丸を複数開けている者もいる。模様を刻む猛者もいた。皆、思い思いに自分の鬼灯ランタンを作っている。とても楽しそうだった。

 飾り穴を開けると、そこから光が漏れて雰囲気がまた変わる。同じ色でも、穴の開け方によって受ける印象が違う。そういう意味でも、一つとして同じ鬼灯ランタンにはならない。だからこそ皆、自分だけの鬼灯ランタンを作って楽しそうなのだろう。


「これ、大人組も作るのかな?」

「どうしてですの?」

「お化け鬼灯、いっぱいあるから」

「……確かに、そうですわね。きっと皆さん、ご自分でお部屋に持っていかれるのではないでしょうか」

「大人も子供も関係なく同じことをして楽しむの、ちょっと面白いね」

「そうですわね」


 悠利が心底楽しそうに笑うと、イレイシアも同意するように笑った。いつもならば子供は子供、大人は大人という風になってしまう。だから、大人組も同じようにするのだと考えたら、面白かったのだ。

 誰が来るかなーと暢気に呟く悠利。その手元で、ランタンになったお化け鬼灯がぷらぷらと揺れていた。




 その日の夜は、部屋に飾ったお化け鬼灯のランタンを楽しみに、皆がいつもより早く自室に引っ込むのでした。そんな日もあるのです。





お子様組がわちゃわちゃしているのは、書いていて楽しいです。

この手の害のないわちゃわちゃは、大人組から見ても可愛いんだろうなぁ。

なんやかんやで仲良しな皆が好きです。

ご意見、ご感想、お待ちしております。

なお、お返事は遅くなっておりますが、地道にちまちま行いますので、お待ちください。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誤字脱字報告は、ページ下部の専用箇所をご利用下さい。なお、あくまでも「誤字脱字」のみでお願いします。文章表現、句読点などは反映しません。ルビ記号は「|《》」を使用しているので修正不要です。

小ネタ置き場作りました。
最強の鑑定士って誰のこと?小ネタ置き場
クロスオーバー始めました。「異世界満腹おもてなしご飯~最強の鑑定士サイド~
ヒトを勝手に参謀にするんじゃない、この覇王。~ゲーム世界に放り込まれたオタクの苦労~
こちらもよろしくお願いします。ゲーム世界に入り込んだゲーオタ腐女子が参謀やってる話です。
32bh8geiini83ux3eruugef7m4y8_bj5_is_rs_7
「最強の鑑定士って誰のこと?~満腹ごはんで異世界生活~」カドカワBOOKS様書籍紹介ページ
1~25巻発売中!26巻2月10日発売。コミックス1~12巻発売中。電子書籍もあります。よろしくお願いします。
最強の鑑定士って誰のこと?特設サイト
作品の特設サイトを作って頂きました。CM動画やレタス倶楽部さんのレシピなどもあります。

cont_access.php?citi_cont_id=66137467&si
― 新着の感想 ―
[良い点] この話、とってもよかった! すごくほっこりした。
[一言] 更新有り難う御座います。 ……あと、ジェイクさんの[飼い主]を決めないと? (お父さんから要らないと言われた様です)
[一言] いつも更新ありがとうございます。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ