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信奉少女は捧げたい  作者: ゆのみのゆみ
3章 夢想と逃避
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第47話 星明りが現を照らす

 閑散とした街の中をリナと歩く。

 彼女と手を繋いで歩く道は、ひびが入っていても綺麗な道に見える。 

 歩き始めたのは夕方だったけれど、いつのまにかもう夜になっていた。

 廃墟の夜と言っても、星明りのおかげか、ほのかに残る魔力光のおかげか視界には苦労しない。


 ラスカ先生の家にいたときは周りを壁に囲まれていて気づかなかったけれど、こうしてゆっくりと歩いて見れば、綺麗に見えた街もぼろぼろな事に気づく。

 意外と廃墟の中に住んでいたらしい。もうこの辺りには誰一人住んでいないのではないだろうか。

 こんな辺境だからこそ、追手からも気付かれなかったのかもしれない。


 この一カ月、あまり考えはしなかったけれど、私の追手は確実に放たれているはずで。

 明日にも私は殺されてしまうかもしれない。

 そう思えば多少怖いけれど。

 でも、リナといれば、それも薄く消える。

 彼女が守ってくれるとか、そういうことをではなくて。


 彼女いれば。

 彼女が傍にいてくれるなら。

 彼女が生きて、私を想ってくれるなら。

 なんでも良い気がする。

 たとえ私が死んでしまっても。


「ミューリ」


 星明かりの下で、リナが呟く。

 ほのかな熱と共に握られた手が緩まる。


「どうかした?」


 リナの方を見れば、彼女は不安げに目を揺らしていた。

 夜の深い闇に当てられたせいだろうか。

 その不安が消え去ってあげられたらなんて、そんな傲慢な想いと共に握る手に力を込める。

 

「……今なら、まだ、間に合うよ。ミューリがほんとに嫌なら、私……我慢できるから……今なら、また嫌って言ってくれたら、私、どこかに消えるから……」


 震える声でリナがそう呟くものだから、私は足を止め、片手で彼女の頬に触れる。

 それが許されていることに心底喜びを感じながら、素直に想いを紡ぐ。


「嫌じゃないよ。一緒にいて欲しい」


 素直に言葉を紡ぐのはとても心地が良い。

 今までずっと素直に語ることを恐れていたけれど。

 素直に語れない私だったけれど、こんな風に臆面もなく素直に言葉を吐けるなんて。


「リナを傷つけた私が言うことじゃないのかもしれないけれど。でも、私、リナとずっと一緒にいたいよ」

「そう……? それなら、良いけれど……」


 リナはまだどこか納得しきれないように言葉を揺らしたけれど、私の手を振り払うことはなかった。

 まだ私達の手は繋がったままで。

 そしてまた歩き出す。


 星明りはまだ揺れている。

 けれど、いつのまにか少し光量は増したように感じる。

 夜が深まっていたからだろうか。


「……正直ね。まだミューリのこと、ちょっと怖いよ。疑っちゃう」 


 歩き始めて、リナがほんの少し呟く。

 それはきっと私のせいだ。

 リナからの全幅の信頼を裏切って、壊したのは私なのだから。

 だから、信じて欲しいけれど、それを言う資格は多分ない。

 私は言葉が見つからなくて、ただ絡んだ指を小さく動かす。


「でもね。信じたい。信じていたいと思ってるよ。ミューリのこと好きなのは本当だから……」


 握られた手がぴくりと動く。

 その熱の籠った言葉が、私は心の底から嬉しい。

 この世界で私を好きと言ってくれるのはリナだけで。

 だから、私は彼女がいなくては生きてはいけないのだと思う。


「だから、怖いのかな。好きだから、怖いのかも」


 リナはまるで自分の中の感情がわからないような声色で、不思議そうにそう言った。

 そして、足音だけが流れて。


「そう思ったら、この恐怖もそんなに悪い物じゃないかもね」


 そう言って、リナは笑った。

 そこに不安や恐怖はあれど、それに呑まれているようには見えない。

 私が何をするでもなく、彼女はそういったものを乗り越えたということなのだと思う。


 やっぱり彼女は強くて、一度崩れようとも、自らの力で立ち上がる。

 頼ってばかりの私とは全く違う。

 結局のところ、彼女を救うのは私ではなくて、彼女自身なのだと思う。

 それは本当につり合っていない、一方的な関係だと自覚しているけれど。

 それがあまりにも歪んだ関係だとしても。


 でも、リナが失われてしまいそうなときに感じたあの孤独感に比べれば、歪な関係であることぐらい、全然どうでもいいことに感じた。

 だから。


「私はずっと怖いよ。リナに嫌われるの。ずっとリナに好きって言って欲しい」


 なんてことも言ってしまう。

 それがリナを困らせるしかない言葉だと知っていても。


「私達、怖がりだね。似た物同士かも」


 でも、彼女はそう言って笑うものだから。

 私もつられて少し笑った。

 なんだか大丈夫な気がしてくる。


 けれど、リナと私は似てはいない。

 彼女は強いけれど、私は弱い。

 それは身体的強度の話もあるけれど、心の強さが違いすぎる。


 けれど、そんなリナが私が嫌いと嘘をついただけで、あそこまで崩れるのだから、私の弱い心でも彼女の想いを信じられるのかもしれない。

 あそこまでしてくれないと信じるという段階にすら至らない私の心はどこまで弱いのだろうとも思うけれど。


 それから無言のままで街を歩いた。

 誰もいない街で、道の真ん中を歩いていれば、なんだか世界に私達だけになった気がした。


 話すことはたくさんあったのかもしれないけれど、何故か私達は話さなかった。

 言葉にしないといけないことはもう言葉にしてしまったからかもしれない。

 それに会話はなくても、絡め合った指の先からくる熱は、私の孤独感を薄めていくのを感じた。


 いつの間にか、この1カ月の間にずっと感じていた孤独感は消えている。

 この世界から切り離されて、ずっと独りきりのような、あの恐ろしいまで孤立した感覚は消えていて、どこまでも暖かな心が隣にいてくれる気がする。


 私はここで世界に立っている。

 この場所で、リナの隣で、世界に存在している。


 そんな妙な確信が心の内に生まれているのに、私は少し笑う。

 まるで今までは、世界にいなかったようだから。

 けれど、ここまでの実在感を持って、私という存在を認識できたのはリナのおかげなのだろうとも思う。


 いつまで、こうしていられるのだろう。

 これが永遠だとはまだ思えないけれど。

 なんとなく、現実にはなっている。そんな気がする。

 今までは夢見心地だったけれど、今はもうちょっと現実らしい気がする。


 現実になってみれば多くの問題が溢れ出る。

 目下の問題はやっぱり私を追っている存在だろう。

 まだ補足はされていないけれど、それも時間の問題な気がする。


 そう簡単に逃げ切れるとは思わないけれど。

 でも、リナと一緒ならなんとかなる。

 彼女が私を想ってくれるなら。

 なんでもいい。

 そんな気がして。


 リナの方を見て。

 目が合って。

 笑みがこぼれる。


 驕りでなければリナは私を必要とはしているのだろうけれど。

 でも、彼女は私に依存しているわけではない。

 私はリナが必要で、きっと彼女の想いに依存している。


 けれど、でも、だからこそ。

 私はリナが大切で、好きな人だって言えるから。

 だからこうして私は。

 息をする。

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