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信奉少女は捧げたい  作者: ゆのみのゆみ
3章 夢想と逃避
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第37話 鳥籠を開けてみても

 それから幾度か、私は魔力情報を測定された。

 一回あたり数時間程度だったけれど、毎度ひとりで機械の中に入れられるのは慣れるものではなくて、半分ぐらい魔力情報を提供すると言ったことを後悔していた。


 まぁリナの助けになると思えば、これぐらいのことは何でもない。何でもないことじゃないといけない。


 私がそうして機械の中で堪えている間にリナとラスカ先生の間では話が進んでいるようだった。学校の外に出る計画を練っているようだった。

 その間、幸いというべきか先生の研究室には誰も現れなかった。現れたら、計画が露呈していたかもしれないから助かったけれど、本当に先生は1人で研究をしているらしい。それで上手くやっているというのだから、やはり先生になるだけあって優秀なのだろう。


「これで魔力情報の取得率は10割。これでようやくのようだね」


 そして5度目で、私の魔力情報は全て測定し終えたらしい。

 つまりはこれで、先生は私達を助けてくれるということになる。


「さて、早速だが、君たちの計画の実行はいつ頃がいいだろうか? なるべく早い方が良いと思うのだが、心の準備もいるだろう?」

「そうですね……もう外出許可は取ったんですか?」

「それは抜かりない。色々と理由をつけて、取っておいた」


 何のことを言っているのか私にはわからなかった。

 いや、脱出計画のことなのだろうけれど、先生の外出許可がそれとどう繋がるのかは私にはわからない。

 けれど、リナが計画したことだから大丈夫なのだろう。


 心配や不安もあれど、こうなったのならもう信じるしかない。

 私が人を信じることはとても難しけれど。

 でも、リナのことなら信じられる気がする。


「それなら、もう明日にでも。ミューリも、それで大丈夫?」

「え、あ、うん。大丈夫」


 明日というのは随分と急だなと思ったけれど、別にこの学校でやりのこしたことがあるわけじゃない。

 それに多分、リナが行こうと言った時でもなければ、私は一生かけても外には出られないだろうから。


 私は彼女に乗っかるしかない。

 まだ不安が消えてなくても。

 まだ嫌な予感が存在していても。


「それじゃあ……少し待っててくれるかい? 渡したいものがあるんだが、忘れてしまってね」


 それだけ言って、ラスカ先生は研究室の奥へと消えた。

 私はふぅと息を吐く。


「まだ緊張する?」

「……うん」


 先生の視線はなんだか……

 恐ろしい。

 全て見透かされているような気がして。


「ラスカ先生、ちょっと怖いよね。わかるよ」

「り、リナもそう思う?」


 意外だった。

 リナは誰かを苦手とか、そういうことを思わないのかと。


「なんだか本心を見せてくれないよね。何がしたいのかよくわからないというか。今回は結局、私達に協力してくれるけれど。でも、本当のところ、先生は何が目的なんだか……」


 リナはそこで言葉を区切る。

 私の手を取り、熱で包む。

 私の不安を感じとるように。

 安心を与えてくれるように。


「でも、大丈夫だよ。きっと悪い人じゃないと思うから」


 そうなのかな。

 その言葉をぐっと飲み込む。


「先生、遅いね。そろそろ帰らないと夕食の支給に間に合わないし……ちょっと、探しに行ってくるよ」

「え、あ」


 待って、その言葉を言うよりも早く、リナは扉の向こうへと消えた。

 私は途端に心細くなって、不安になってくる。


 私を1人にしないで欲しい。

 そんな思いが溢れだして、自分がどれだけリナに助けられているかを思い知る。縋っているのかを思い知る。


 少し離れただけで、こんなにも不安になるなんて。

 どうしてだろう。

 リナがいないと、息をしてはいけない気がしてくる。

 生きていい気がしない。

 彼女が隣にいないと。


 けれど、それは確実にリナを縛り付けることでしかない。

 未来の彼女が羽ばたきたいと願った時には邪魔でしかない。

 だから、想いを必死に心中の奥底へと押し込む。


「ぅー……」


 小さく息を吐く。

 そしてからんと音した。


 そちらを振り向けば、ラスカ先生がいた。

 私は驚きの余り、発声するのも忘れて一歩後ずさりする。


「ミューリくん」


 その声は恐ろしいまでに綺麗で、そして作り物のようで、私は寒気を感じる。


「この前の話を覚えているだろうか? 私が君を好きだと言う話を」


 喉が渇く。

 私は掠れた声を絞り出す。


「あれは、冗談、でしょう?」


 私の言葉に、先生は作り物みたいな笑顔を浮かべる。

 それに心がきゅっと縮こまるのを感じた。


「別に冗談というわけではない。本当のことだ。私は君に恋慕を抱いている。どうだろうか? 私と共に生きるというのは。不自由のない生活を約束しよう」


 私はなんと答えればいいかわからない。

 からかっているのだろうか。

 それにしては目が怖すぎる。

 どうすれば良いのだろう。

 わからなくて、ただ沈黙を返す。

 それでも先生の取り繕ったような顔は変わらない。


「先生、戻ってたんですね」

「……あぁ。入れ違いになってしまったかな」


 沈黙を破ったのは、隣の部屋から戻ってきたリナだった。

 私は逃げるようにリナの元へと駆け寄る。

 いや、実際逃げたかった。ラスカ先生の視線から一刻も早く逃れたかった。


「どうしたの?」


 リナの暖かかな視線が私を迎えると、不安や恐怖が薄れていくのがわかる。彼女に触れるだけで、震えていた身体が暖かくなる。


「……ううん。なんでもない」

「そう?」


 だから私はラスカ先生の言葉など忘れてしまった。

 リナのことを考えている方が好きだから。

 リナのこと以外はあまり考えたくない。


「ふむ……それでは明日に。ミューリくん、少し考えてくれたまえ」


 だからその言葉もあまり深くは考えなかった。

 それに私の返答なら決まっている。私がラスカ先生を選ぶことはない。

 でも、どこか強烈な不安が拭いきれないのを感じた。

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