第87話 無事死亡
頬っぺたに触れた柔らかいものが唇であるとすぐに気付けたのは、江里さんが構えていたスマホのおかげだった。
ディスプレイには僕の頬に口を付ける江里さんの姿がくっきりはっきりと写し出されている。
見紛うことのないキス。
正真正銘の頬っぺたへの口付けだった。
……これは一体どういうことなのだろうか?
僕はどう受け取っていいのだろうか?
友情の延長線上の挨拶的なものなのか、はたまた僕を異性として意識してくれてのキスなのか……。
だ、誰か! コミュ障の僕に……キスをする時の心理を教えてくださぁぁぁい!!
「……どう……して?」
心から漏れ出した言葉はぎこちなくて。
僕としては精一杯の疑問を投げたつもりだったんだけど……、
「……ん?」
江里さんには小首を傾げられただけだった。
視線は手元で操作しているスマホに向けられていて、もしかしたら僕の言葉をあまり聞いていなかったのかもしれない。
なのでもう一度聞こうとしたタイミングで、スラックスのポケットに入れていたスマホが振動した。
「……写メ……送ったぁ!」
両手をピンと伸ばして持っていたスマホを天高く掲げ。
どこか得意げに天真爛漫にころころと笑う江里さん。
無邪気な笑みからは、どうしてキスをしてきたのかなんてことは読み取れる訳もなく。
僕はスマホを取り出して送られてきた画像を確認した。
……うん。これ間違いなくキスされてる……ってなんて画像送ってきてるんですかぁぁぁぁぁぁぁ!?
「キ、キス! これ……キスしてる!? どうして!?」
「……ん? 先に……キスしたの、君孝くん……だよ?」
いやいやいや! 先にロッカーの中でキスしたのは江里さんじゃないですか!?
……え? もしかしてあれ……キスじゃなかったのぉぉぉ!?
「ロッカーは……?」
「……ん゛~~~~っ!? ……キ、キスじゃ……ないもんっ! …………これっ!」
そう言って江里さんがブレザーのポケットから取り出したのは、向こう側が透けて見えるほどに薄い円形の紙のようなものだった。
それを僕の目の前でひらひらさせてから不意に江里さんが――パクっと食べてしまった。
なんでぇぇぇぇぇぇ!? 紙! それ紙ぃぃぃぃ!!
「な、何食べてるんですか!? ダメですよ! 紙を食べていいのは、黒ヤギさんだけですから!!」
「……めぇ~っ?」
ごっくんと確かに飲み込んでから、ふざけたように江里さんがヤギの鳴き真似をしていた。
しかも「めぇ~っ」と言いながら両手の人差し指で×マークを作っている……ひょっとして、ヤギのモノマネと“ダメ”という意味の「めっ!」を掛けているのだろうか? うん、反則的にかわいいのでどっちでもいいけど……。
あと多分江里さんが食べた紙ってオブラートかな? 冷静になって考えてみれば食べられる紙といったらオブラートしか思い浮かばない。
「……オブラートですか?」
「……ん。オブラート」
平然と答えた江里さんはまたしてもブレザーのポケットからオブラートを取り出して、もぐもぐと食べている。
……江里さんのポケットって四次元的な、なんでも入っているものなんですか!?
そもそもなんでそんなにオブラートを持ってるんですか!? それにオブラートとキスって何の関係が……ま、まさか!?
「……オブラート……越しに?」
「…… ……」
やらかしたぁぁぁ!!
またしても江里さんの仕返しにまんまとハマってしまった!
ヒィィィィッ!
もしかして僕のファーストキスは今さっきのだったってこと!?
うわぁぁぁぁ!
死にたい! 穴があったら入りたい! 急にもの凄い恥ずかしくなってきた……。
僕の心のどこかではロッカーでてっきり江里さんからキスをされたものだと思っていたので、何と言っていいのか……少しヤケクソ気味な感じでさっきの仕返しを行った部分もある。
それが真実を知ってしまった途端に色々と崩れ去っていった。
僕はなんてことをッ!!
……これでもし江里さんがファースト……キスなんてことになったら……どうやってこの罪を贖っていけばいいんだろうか?
もう切腹するしかない気がする。
「……はじめて…… …… ……」
あ、終わった。
――女神様を穢した大罪による自業自得で僕の死刑が確定した瞬間だった。
~レビューへのお礼~
感謝……感謝……圧倒的感謝!(キンキンに冷えてやがる! 状態の麦茶を飲みながら)
21って! 21件って!?
ほんんんんんっと正直に……マジで何がおきやがっていやがるんですかこのやろーっ!?
あれでやがりますか!?
しきはらもよしのもやみにほーむり去ってやろうとか考えてやがりますか!?
ゆるさねぇーです!(“やがる”繋がりで……仁○ちゃんの気持ちになるですよ! 状態)
……すいません何も悪気はありませんので許して下さい!(笑
小鹿さん様、レビューありがとうございます!
ブラックは苦いと思うので、勝手にミルクと練乳を入れておきますね?(ゲス顔
「……こ、小鹿さん……ブラックコーヒー……どうぞっ!」(片手にコーヒーカップ、もう片手に“何故かたまたま”めんつゆのボトルを持って、深い笑みを浮かべる江里さん)





