第86話 ……うん、知ってた。
「……お邪魔します」
そう断ってからカーテンの裏へと下から潜り込むように入った。
なんとも言い表せない緊張感から、ゆっくりと顔を上げて窓の外に目をやったら……、
「……おぉ~! ……富士山だ」
遠くの方に確かに富士山が見えた。
雲ひとつない快晴の空に、大きく突き出た優雅な山体。
天高くそびえているのに、どっしりとなだらかな稜線。
山頂には僅かに雪が残り、神々しさが漂う山容だった。
見ているだけで鳥肌が立ちそうなほど綺麗な景色で。
僕はしばらく見惚れてしまった。
「……まだ雪残ってる! 君孝くん……富士山……登ったこと、ある?」
「登ったこと……ないです」
「……ん。私も……」
「……いつか登ってみたいですね」
「……ん。ご来光……見たい!」
「……僕も見てみたいです」
バスに揺られながらふたりして富士山を眺めて、まったりと互いに思ったことを言うだけの時間。
遠くに見える富士山は車窓からはゆっくりと流れて見えるので、なんだか本当に時間がのんびりと進んでいるような錯覚に陥った。
富士山でご来光。……想像しただけで心が浄化されていくような気がする。最近の僕は煩悩にまみれすぎているので、一度登って浄化してくる必要があるな。うん、何がとは言わないけど。
「……んっ! 写メ! 携帯で……写メ撮る!」
急にひらめいたように声を上げた江里さんがスマホを取り出して僕の方を向いた。
……これは僕に「撮って!」と言っているのだろうか?
そ、そういえばスマホを買ってもらったのに、未だに写真を撮ったことがない。というかそもそも写真ってどうやって撮るんだろうか?
「……撮りましょうか?」
えぇい!
分からないけど多分どうにかなるハズ!
そう考えて僕は自分から申し出たんだけど、江里さんは何故か不思議そうに見つめ返してくるだけだった。
え? 僕何か間違ったこと言ったかな?
「……なんで?」瞬きをしてからちょこんと首を傾げる江里さん
「……え? 写真撮るんですよね?」若干パニックになる僕
何だか歯車が猛烈に空回りしているような気がする。
「……ん。だから君孝くん……もっとこっちに……きて?」
全然意味が分からない。
写真を撮るならむしろ江里さんから離れて撮らないと、富士山が写らないと思うんですけど?
「……はい」
だからと言って僕が断れるわけもなく、促されるままに江里さんのすぐ横へと移動した。
「……もっと……くっついて? カメラ……入らない」
「……は、はい」
肩が触れるくらい近づいたのにまだ接近命令を下してくる江里さん。
これ以上どうすればいいんですか!?
「……もうちょっと……顔をこっちに寄せて?」
「……わ……かりました」
江里さんはカーテンを押すように左手を目一杯伸ばしてスマホのディスプレイ側をこちらに向けている。
それなのにどういう訳か画面には僕らが写っていた。……カメラって反対側に付いているのになんで?
あと、カーテンに遮られて皆から見られていないとしても、やっぱりドキドキするし、密着していることの恥ずかしさがあった。
「……君孝くん……もっとこっち」
「……はい」
「……だめ……もっとちゃんと……こっちに寄って?」
「……これでいいですか?」
――そしてシャッター音と僕の頬に柔らかい唇が押し当てられたのは、ほぼ同時だった。
~レビューへのお礼~
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!(ここにきて原点回帰の土下座)
20! レビュー20件!!
ど、どどどどどうしましょう!?
いや、もうどうすればいいのぉぉぉぉぉ!?(錯乱
亮様、レビューありがとうございます!
猫そーくんを召喚するおつもりですか?(笑
脇腹ツンツンをしようとすると江里さんが一生懸命妨害しに来ると思いますよ(確信
「……ツンツンして、いいのは……ツンツンされる覚悟がある人だけっ! ……亮くん……覚悟は………………イイ?」(深い笑みを浮かべて両手をわしゃわしゃと動かしている江里さん)
あのままハイペースでいったら間違いなく18禁小説になりそうだったので、ここらで一旦落ち着きましょね(ゲス顔)





