第8話 花より団子
お花見とは何か。
はたして何をすればお花見と言えるのだろうか?
「しましょう……お花見」
「……ん」
答えを出すよりも先に返答をしてしまった。……なんて無責任な。
こくりと頷いた江里さんはどこか楽しそうに読んでいた本を机へとしまうと、鞄からいそいそと何かを取り出した。
見るとお弁当包みのようだった。
「……その、あの……お口に合えばいいのですが……」
伏し目がちにそう言いながら江里さんは包みを開いた。
ゆったりとした所作で包みを丁寧に畳み、壊れ物でも扱うような慎重な手つきで容器の蓋が開けられ、程なくして僕に渡されたのは……、
「……花見団子! 江里さん……ありがとう!」
春を感じさせる桜色。
冬の余韻を表す白色。
夏に青々と茂る緑色。
そんな三色の串団子だった。
……どうして江里さんは花見団子を持ってきていたんだろう。
そんな疑問が頭をもたげたが、美味しそうな団子を前に僕は深く考えることなく手を合わせた。
「いただきます」
「……どうぞ、お召し上がりください」
いくつだって食べられそうなほんのりと優しい甘さ。
しっとりとした舌触りにぷつりと切れる歯切れの良さ。
シンプルに言えばもちもちではなく、もっちもち……いや、むっちもちとでも言うべきか。
目では桜吹雪を楽しみ、舌では花見団子を愉しむ。
平日のそれも早朝、僕と校内一美人の江里さんしかいない教室で。
なんてことだ! 贅沢過ぎる、幸せ過ぎる。もしかして僕は今日……死ぬのだろうか?
バカなことを考えていた罰なのか、飲み込もうとして軽くつかえたので慌てて鞄からペットボトルのお茶を取り出した。
「大丈夫……ですか?」
ペットボトルを勢い良く傾ける僕に気が付いた江里さんが……おそるおそるといった手つきで背中をさすってくれた。
普通ならば、ありがたい! で終わるのかもしれないけど、今は驚きが上回り、お茶が一気に気管へと侵入し今度は盛大にむせた。
い、痛い! 鼻にお茶が!
神様、これは天罰ですか!? 死神様、これは死刑宣告ですか!?
たっぷり30秒ほど咳き込んでから、
「……あ、ありがとう江里さん。これじゃあ、花より団子だね」
自嘲気味に僕が零したら、江里さんの顔からは笑みが溢れた。





