第74話 モコモコな江里さん
江里さん家に入ってまず思ったことは……。
もの凄く良い匂いがする! だった。
べ、別に変な意味じゃなくて、美味しそうなご飯の匂いが微かにするのだ。
なんだろう? さすがに料理までは分からなかったけど。
さて、そんなことよりも今の僕の状況だ。
僕の右手は江里さんに恋人繋ぎで握られて。
そして左肩には江里さんのお母さんの右手が置かれている。
……美味しそうなご飯の匂いを嗅いでいるはずなのに、女神に挟まれているという極度の緊張から胃が痛くなった。
「……美奈」
廊下を抜けてリビングへの扉を開けた瞬間、良い匂いは濃密に。
僕がこっそりとキッチンの方へ顔を向けようとしたら、江里さんがお母さんに呼ばれていた。
「……ん」
名前を呼ばれて返事をしただけだというのに江里さんはそのままリビングから出て行ってしまい、僕はお母さんとふたりきりになってしまった。意思の疎通がハイレベル過ぎて僕には到底理解できない。
……き、気まずい。僕は一体どうすれば?
「……そーくん」
「はいっ!」
内面ではあたふた。
表面では立ち往生。
そんな時、急に江里さんのお母さんから呼ばれ、ビックリして返事をしたら思い切り噛んだ。すがすがしいまでの噛みだった。
……死ぬほど恥ずかしい。
「……よろしくね?」
僕の目をしっかりと見据えてから。
仄かに目を細めて。
気持ち口角を上げて。
ほんの僅かに微笑んで。
何故か僕の頭を優しく撫でてくる江里さんのお母さん。
そこで僕は心の底から、本当に江里さんのお母さんなんだなと改めて思った。
……だってなんで頭を撫でてきたのか分からないし、何に対しての「よろしくね?」なのかも理解できない。
唯一理解できたことは、江里さんがよくする予想の斜め上の行動はどうやらお母さん譲りである、ということくらい。
「……こ! こちら、こそ! よろしく、お願いします!」
結構悩んだけど返事はこれしか思い浮かばなかった。
よろしくと言われたら、こちらこそよろしくお願いします、以外の回答を知らないコミュ障な僕。……悲しい。
「……ん、頼もしい良いお返事ね」
「あ、ありがとうございます!」
とりあえずよく分からないけど多分褒めてもらえた気がする。
それから僕が持っていた買い物袋を受け取ってキッチンの方へと消えていった江里さんのお母さん。
去り際に、
「……そーくんのお母さんにお電話したいから、少し席を外すけれど……そこのソファーに座って自分の家だと思ってくつろいでいてもらえるかしら?」
という言葉が聞こえたので「はい」と返事をして、ぎこちない動作でソファーへと向かい、油が切れたロボットのようにストンと腰を下ろした。
……あぁぁ! 胃が、胃が本当に痛い! 僕今絶対に変な歩き方してた気がする。
……江里さん! どこに行ったのかわからないけど、早く帰ってきてください! このままじゃ僕失神しそうです。
「…………くん? ……君孝くん?」
「……ハッ!?」
僕が半分失神していたら、いつの間にか隣に江里さんが座ってぇぇぇぇぇぇ!?
――見れば江里さんが私服を着ていた。
たったそれだけのことだったけど、僕には充分衝撃的だった。
初めて見る私服の江里さん。
長い黒髪は大きめのリボンが付いたヘアクリップでポニーテールに纏めて。
モコモコとした生地が特徴的な、オフホワイトとスカイブルーの淡い色合いのボーダー柄ワンピースに身を包んでいた。
……私服どころか部屋着に……パジャマに見えるんですけど!? 刺激が強すぎるんですけどぉぉぉ!?
「ハンバーグ……好き?」
何故か緊張したようにピンと背筋を張った江里さんが、盗み見るようにこっちに顔を向けている。
唐突な問いだったけど、僕は大好物だったのですぐに答えることができた。
「……大好きです」
「……よかったぁ~……今日はハンバーグなの」
江里さんは安堵したように大きく息を吐いてから、コテンと僕に寄り掛かって言葉を続けた。
「――ねぇ君孝くん? ハンバーグと私だったら……どっちの方が………………好き?」
――そ、それはもちろん……!
~レビューへのお礼~
ひょえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?(目を見開きながら叫ぶしきはらの図)
12件目のレビュゥゥゥゥゥゥゥ!?
しきはら全力でビビっております……痛い! お腹が痛いです!(ただのアイスの食べ過ぎで
生駒山 夜宵様、笹食ってる場合じゃないレビューありがとうございます!(笑
これはあれですか? 半田くんにお礼言ってもらいたいということですよね? そうですよね!?(笑
「笹なんて食っても意味ないぞ? ……なんだ? お前は食ってたじゃないかって? ……いいんだよ俺は。………………パンダだからな!」(謎の人物)
「……笹食ってる……場合じゃないぞ…………ん? 夜宵くん……笹食べるの? ぱ、パンダさん……!?」(笹を両手に持って瞳を輝かせた江里さん)





