第61話 赤は止まれ、黄色も止まれ、青は固まれ
横を歩く江里さんはどこか嬉しそうで、繋いだ手をじっくりと見たり、歩幅くらい大きく揺らしてみたりと楽しそうにしていた。……いつも通りの女神だ。
それから何度か曲がり角を過ぎて、ふたり並んで横断歩道の信号待ちをしていた時だった……。
僕が正面の歩行者信号を眺めていたら「そーくんそーくん」と頬っぺたをつつかれた。
「なんですか?」
顔を向けたら江里さんが覚悟を決めたような鋭い目つきと強張った表情を湛えて、こちらを見ていた。
ひどく緊張しているのか、絡めた指を力強く握られた。……若干痛いくらいにだったけど。
「……し、深呼吸……していいですか?」
「……はい」
大きく息を吸って吐いてを何回か繰り返し、今度は瞳に薄い涙の膜を張り、おそるおそるといった様子で口を開いた。
「……そ……そーくんのおうち……見て、みたいです」
……え? それだけ?
別に僕の家を見るくらいで何をそんなに緊張しているのだろうか?
軽く考えた僕はふたつ返事で江里さんに「どうぞ」と声を掛けた。
「……ガンバリマス」
そうしたら今度は急にカタコトになった江里さん。
油が切れたロボットのようにギクシャクとした動作で首を縦に振り、以降は固まってしまいせっかく青信号になったというのに、僕らは渡ることができなかった。
このままでは永遠に信号を渡れないので、何度か「えりさーん!」と呼び掛けてみたけど……反応は一切無かった。多分何か考え事に没頭しているんだと思う。
……さて、どうしようか? と悩み……僕はある答えにたどり着いた。
以前江里さんの脇腹をつついた時はその反応に危うく鼻血を出しかけた。
なので今回は別な方法を選択してみようと。
――まずはこれだ!
「……えりさん?」頬っぺたツンツン
「…………」
「……えりさーん?」頬っぺた両手サンドイッチツンツン
「…………」
江里さんにさっきもされた頬っぺたツンツンをしてみたけど、特に反応はなかった。
……なら、これはどうだ!?
「……えりさん?」指をギュッと握る
「…………」
「……えりさん? 起きてますか?」目の前で手を振る
「…………」
……ダメだ。全然反応してくれない。
僕が色々と試している間にまた信号は変わってしまった。
いつまでも渡らずに立ち尽くしている僕ら。
そんな光景を不審に思ったのか対面にいる同じ学校の人たちがわざわざ振り返って、口をポカンと開けたまま眺めている姿が目に入った。
このままだと僕らはコミュ障にプラスして不審者というレッテルも貼られかねない!
……仕方ない! これは江里さんを再起動させるためにやるんだ!
別に邪な考えなんてこれっぽっちもない……はず!
僕は自分に言い聞かせるように胸中で呟いてから、江里さんの真横に移動した。
――そして江里さんの滑らかな触り心地の艶めいた黒髪をかき分けて、大きく息を吸い込んでから……、
「…… 」
耳に優しく息を吹き込んだ。
ど、どうだ!? これなら反応するでしょぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?
「…… …… …… …… 」
――言うまでもなく、今度は僕が固まってしまい、点滅していた青信号は無情にも赤色へと変わってしまった。
~レビューへのお礼~
……………………!?(言葉すら発せずに固まるしきはら)
ど、どういうことなんですか!? 一気に3件……合計で8件……だと……!?
すみません! ひとり1人の方にキッチリとお礼を言いたいので分けさせてください!
塩嶺様ありがとうございます!(ブレイクダンス土下座)
塩嶺様を即昇天させられるよう、これからも精進していきたいと思います!
「俺らと一緒にオロって昇天するか? ……それとも……笹食ってオロるか?」(笹を両手に持って苦々しい表情を浮かべた謎の人物)
……ごめんなさい!(ただし反省はしていない!)
感想遅れていますが気にしないでください!
よしのに任せますので!





