第47話 電話の時についついお辞儀しちゃう人っているよね?
手の中で震えている僕の真新しいスマホ。
昨日何度か両親に試しに電話を掛けてもらったりして手順は理解していたけど、これがはじめての通話になるのだ。
画面に表示された江里さんの名前を眺めながら、緊張した手つきでバーをスライドさせて応答した。
『……も、もしもし相田です』
『……んっ! …………』ペコリ(お辞儀)
『……もしもし?』
『……………………んっ!? 』ペ、ペコリ(お辞儀)! …………ガンッ!!
……おかしい。電話は確かに繋がっているはずなのに、何故か江里さんが無言です。
僕の問い掛けに江里さんからの反応は無く、代わりに少し間があってから引き戸に何かがぶつかる音がした。そしてその後に江里さんの呻き声が…………えっ!? 何? 江里さんが暴れてる!?
『み、美奈さん? 聞こえてますか!?』
『……んっ!! 電話、でした……』
『……はい?』
電話でした、ってどういうことだろうか?
『……その、そーくんの声が……耳元で……だから、お辞儀したら……頭ぶつけた……いたぃ~っ!!』
うん。とりあえず何故かお辞儀をして頭を引き戸にぶつけたってことだけは理解できた。『いたかった……たんこぶ……できちゃう?』と何故か僕に聞いてくる江里さんに少し笑ってしまった。
『保健室行って……冷やしますか?』
『やだぁ! ……でんわしたい!』
あぁぁぁぁ! 鼓膜に直接江里さんの声が飛び込んでくるから、脳が溶けそう。
僕は耳から少し離して通話を続行した。……そもそもこの距離で通話する意味ってあるのかな?
『電話しましょう』
『……んっ!! ……ちょっと、待ってて?』
『……はい』
僕の返事とほぼ同じタイミングで引き戸が開いた。
見れば江里さんがスマホを耳に当てたまま、恥ずかしそうにそっぽを向きながら小走りで窓際の自席へ。
机の上に置いてあった赤ペンと江里さんのダイイング・メッセージが書かれた紙を掴んで、また小走りで教室の外へと駆けて行った。
そっぽを向く前の一瞬、江里さんの前髪の隙間から見えたおでこが微かに赤くなっているような気がした。
戸が閉まり、江里さんの姿が見えなくなってから、
『お待たせ……しました。メモを……取りに行って、ました』
『……はい』
そんな言葉が。
……知ってた。
言われなくても一部始終を見ていたんですが……? そっぽ向いて恥ずかしそうにしている江里さんをバッチリ見ていたんですが!?
『……名前』
『……え?』
『名前……教えて下さい』
あっ。……あの紙にあった項目を質問されるのか。
『相田君孝です。男性です』
『……知ってた』
マジック特有の字を書く時の“キュッキュッ”という音が聞こえてくる。どうやら江里さんは律儀にメモをとっているようだ…………って、うわぁぁぁぁぁん! 江里さんにもてあそばれてる気がするんだけどぉぉぉ!? ……うん、悪くないかな。控えめに言って最高です。
『……冗談。……ごめんなさい』
と思ったら冗談だったよぉぉぉぉぉ!! ……なんか江里さんが普段会話する時よりもテンション高い気がする。
『怒ってないですよ?』
『……ほんと?』
『はい』
『ほんとの、ホントの……本当に?』
『神に誓って本当です』
『よ……よかったぁ~』
心から安堵したような甘い声音が鼓膜に突き刺さる。
自分の言った冗談を本気で心配する江里さんがかわいすぎて頭がおかしくなりそう……。
『そ、それで! 次は! 誕生日はいつ?』
『誕生日は――』
『……んっ!? もう過ぎてるっ! ……すぎてるーっ!!』
こうして江里さんの質問に答え続けて、とうとう最後の質問がきた。
『……最後の質問……そーくんは、私のこと…………どう思って、いますか?』
えぇぇぇ!?
ど、どういうこと!?
これは一体どういうことなのか!?
……なんて答えるべきなのか? クラスメイト? 隣人? ……と、友達!?
なんて答えるべきなのか、どう返すべきなのか。
しばらく無言で悩んでいたら江里さんが助け舟を出してくれた。
『……私は、そーくんの……お、お友達には……なれましたか?』
さすがコミュ障同士のシンパシー。
考えていることはどうやら一緒だったらしい。
相田君孝、16歳にして初めて友達が出来ました。……内心で自分で言ってみて、悲しくて泣きそうになった。
……これで僕はコミュ障卒業となるのだろうか?
『はい! 友達です!』
『……クラスの人達よりも……仲良し?』
『仲良しです! 美奈さんが一番仲良しです』
『……うれしい! なかよしーっ! 』
『はい! “友達の中で1番”です』(初めてできた友達です。そして1番仲の良い友達です!)
『…………ん? ……それだと……まだ……もっと仲良く………もっとす……すっ!? ………… ――』
……血が? もしかしておでこ切ってた!?
そこで唐突に電話が切れて、少ししてからパタパタと走り去っていくような足音が聞こえた……え、江里さぁぁぁぁん!? 廊下は走っちゃいけませんよぉぉぉ!?
すぐに立ち上がって教室の外を確認しに行ったら……昨日のデジャブかな? と首を傾げたくなった。江里さんがいきなりいなくなったんですけど!? ま、まさか帰ってないよね!?
――そして、江里さんが帰ってきたのは朝のHRが始まる直前になってからだった……。
~お礼~
なんとポイント評価して下さった方が200人を突破しておりました! ひえぇぇぇぇ!?
ありがとうございます!
コミュ障のふたりをこれからもあたたかく見守っていただけると嬉しいです!
……おや!?
江里さんの ようすが……!





