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僕のクラスには校内一有名な美人だけどコミュ障な隣人がいます。  作者: 識原 佳乃
本編前半

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第43話 距離――0cm

 江里さんから携帯の番号を聞かれて焦る僕。


 だって僕……携帯持ってない……。


 そもそもコミュ障の僕に携帯が必要となる場面が今までになかったし、第一必要だとも考えていなかった。コミュ障あるあるかもしれないけど……。


 だから僕のお財布にはテレホンカードが常に入っている。105度数2枚。210分も通話可能だ。

 ただ、最近は公衆電話自体が無くなってきているから、探す方が大変だったりする。


「……できないです」(携帯電話持ってないので番号交換ができません! ごめんなさい!)

「……ん? ……ん~?」

「交換……できないです」

「……だ、だめ、ぜったい?」


 スマホで顔を隠した江里さんが、どこかで聞いたことあるような言葉を口にした。


「……はい」(携帯電話がないんですよぉぉぉ! ごめんなさいぃぃぃぃ!)

「…………いやぁ…………やぁだぁーっ!」


 ……あぁぁぁぁぁ! 駄々っ子GODDESS(ゴッデス)様が再臨なされたぞぉぉぉぉ!? 魂が、魂が刈り取られるぅぅぅぅぅ!!


 今までにない威力の駄々っ子具合だった。

 顔を左右に振って艶めいている長い黒髪を躍らせて。

 繋いでいた手を離して両手を音がしそうなほど激しく上下させて。

 両足をバタバタと動かして地団駄を踏みながら「でんわーっ! めーるーっ!」と叫んでいる。


 驚きよりもかわいさが上回って、僕が声を掛けようとしたら聞こえてきたのは……バタッ、という音。

 もうね……あぁ、デジャヴだ。ってすぐに分かったよ。

 今更だけど僕らが今いるのは下校ラッシュの下駄箱前だ。

 帰る人もいるし、部活に向かうために靴を履き替えてる人もいる。

 そんな大勢の生徒がいる場所で江里さんの駄々っ子(ギャップ)が爆発したのだ。

 ……こうなることは必然で、人として生を受けたからにはこの運命には逆らえないのである。


「…………」バタッ

「…………」ドサッ

「…………」ドタッ

「…………」ドサリ

「パンダ……誕生……おめでと……う……」ドシーンッ


 ただひとつ前回と違ったことは、皆声を上げることも出来ずに倒れていった。……約1名と言っていいのか分かんないけど、僕の耳がおかしくなっていなければ例外がいた気がするが……。


 と、とりあえず江里さんをどうにかしないと先生を含む全校生徒が失神しかねないので、慌てて口を開いた。


「携帯、電話……ないです!」

「…………」


 僕の言葉を聞いてピタリと固まった江里さん。

 そして急に恥ずかしくなったのか、両手で顔を隠してゆっくりと僕に近づいてくる……えっ!? な、何!?


「え、江里さん!?」

「…………」距離――30cm

「みっ! 美奈さん!」

「…………」距離――15cm

「ま……ちょっ……江里さ――」

「………… (みないで)……」距離――0cm


 そしてそのまま僕の胸元にぽふっと顔を埋めた江里さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!?

 ……とてもヤバイ! 非常にマズイ!

 このままだと耐性があるはずの僕ですら確実に昇天する……。


 そう考えていても身体は思うように動いてくれない。……正確にはどうすればいいのか分からずに動けなくなった。

 緊張や驚愕、興奮や歓喜。

 様々な感情が溢れかえって、僕の動作を縛った。


 僕が動けないでいたら江里さんが顔をグリグリと押し付けるように動かして、丁度良く納まるベストポジションを探しているようだった。

 そして何故か両手は僕の服のブレザーやらズボンのポケットをポンポンと触り始めた。


「……ほんとだっ!」


 一体何秒経ったのか、それとも何分だったのかは分からないけど、永遠にも思える時間が過ぎてから江里さんが顔を上げて唐突にそう言った。


「……ほんとに、携帯……ない!」


 あ、そういうことか。

 でもポケットじゃなくて鞄に入っている可能性だってあると思うんだけど……。


 江里さんは僕が本当に携帯を持っていないか確認していたようだ。

 少し驚いたように至近距離で僕を見つめてくる江里さん。


「……ざんねん……」


 それから口を少し尖らせて、しょぼーんと眉を下げてからまた僕の胸元に顔を伏せた。ベストポジションを見つけるために何度か顔を動かしながら、時折「…… (あったかい♪)……」などという声が聞こえてくる……。


 な、なんでまた密着してくるんですかぁぁぁぁぁ!? 僕を殺すつもりですか!? ……本望です!!


「……ち、かい、です」


 このままでは本当にショック死する恐れがあったので、何とか言葉を発した。

 ピクッと一瞬だけ揺れた江里さんだったが、離れる()振りを見せることなく顔を埋めたまま、


「…… (明日の)…… (おかず)……」


 と言った。

 江里さんの吐息が胸にダイレクトアタックでくすぐったかったが、そのおかげで少し緊張が解けて自然に答えることができた。


「焼き鮭」

「…… (んっ!)  (がんばるっ!) …… (目、瞑って?)

「……は、はひぃっ!」


 意気込みを口にしてから、江里さんからの謎の指示。


 この密着している状況で目を瞑るって……ま、まさか!?

 キ、キキキキキッス!?


 異様な高揚感からくる妙なテンションのせいで変な返事をしてしまったが、とりあえず言われた通りきつく目を瞑った。


 ゆっくりと僕の様子を窺うように江里さんの顔、身体が離れていくことを感じる。

 無音の時が過ぎて、僕の心音がやけに大きく聞こえる。

 いつ、何が起きるのか!? と身構えていたら、軽快な足音が遠ざかっていった。……えっ?


「……そーくーんっ!」


 遠くから呼んでいるような声におそるおそる目を開けてみたら……江里さんがいない。

 どこからだ? と辺りを見回してみたら、江里さんが校門の陰からひょっこりと顔だけを覗かせていた。


 ……なにあの江里さん。

 めっちゃくちゃかわいい。果てしなくかわいい。


 ――そして僕と目が合ったことを確認してから江里さんが「……またねーっ!」と、小さく手を振った。一先ず僕が手を振り返したら、満足気な笑みを浮かべて江里さんがそのまま帰って行ってしまった……。


 ……あれぇぇぇ!? い、一緒に帰るんじゃなかったんですかぁぁぁぁ!?

 ぽんこつ江里さん結局番号交換出来ず!!

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cool

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