第39話 ……あっ…………んんっ
長いです。普段の倍以上の長さになりました。
江里さんを放っておくとお箸が空を切り続けて延々とごはんが終わりそうになかったので、時々おかずなどに導いた。
そのせいもあってかごはんを食べ終えるのにかなり時間がかかってしまった……予鈴が鳴るまであと5分しかない。
さすがに2日連続で遅刻という訳にもいかないので、未だにボンヤリとしている江里さんに声を掛けた。
「ごちそうさまでした。ミートボール……すごくおいしかったです」
「…………」
お弁当を食べ終えたというのに江里さんは未だにお箸を握っている。
たまに何も入っていないお弁当箱の中でスカしているのを見ると、まだ心ここにあらず状態のようだ。
上の空な江里さんはパッと見は普段通りの美人だけど、行動がかわいすぎる。何か小動物のような愛らしさがある気がする。
「お弁当、ありがとうございました」
「…………」
もう一度声を掛けてみてもやっぱり返事がない……どころか反応すらない。
そんな状態の江里さんを見ていて、僕の中の悪魔が囁き始めた。
(うぉーい! さっきの仕返しやっちまえよ! 散々脇腹つつかれまくったろ?)悪魔
(そ、そうだけど……そんなことできないよ)僕
(なぁーにビビってんだよヘタレ! この機会を逃して一体いつやるのか? ……今でしょ!)悪魔
(それは……そうかもしれないけど、江里さんに悪いよ)僕
(悪いも何もあっちから先制攻撃してきたんだ。やられたって何も文句は言えねぇだろ? なぁ天使?)悪魔
(悪魔の言う通りだよ! 君は何も悪くない! 反撃という当然の権利を行使するだけだよ? やられたらやり返す。倍返しだ!)天使
何故か天使も悪魔に同調している……どころか倍返しとか更に過激なことを言っている。おい、それでいいのか僕の中の天使。
「お昼休み……終わりますよ」
「…………」
ただ本当にこのままという訳にもいかないのは事実。
……これは江里さんに天界から現世に降臨していただくために必要な儀式であって、それ以上でもそれ以下でもない。ただちょっとだけ本音を言うのならば、江里さんがどんな反応をするか見……ゲフンゲフン。
よ、よし。
江里さんの脇腹をツ、ツツツツンツンすすっするぞ!
「……え、江里さん」脇腹ツンツン
「…… ………… 」
ぎょえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!?
ちょっ江里さぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!? そんな反応は予想してなかったんですけどぉぉぉぉぉ!?
同じ人間なのか!? と思うほど柔らかい脇腹をつついた瞬間、ピクリと反応した江里さんが身を捩らせてどこか艶のある声で囁いた。心持ち表情にも色香が漂っている気がする。
……青少年には刺激が強すぎる反応だった。
僕が予想していたのは涙目になって「むうぅぅぅ!」って感じで少し拗ねる江里さんだったのに、これはアウトだ! いやもう何がアウトか分かんないけど、とにかくダメ! ……鼻血出そう。
「……ん? そーくん?」
僕につつかれたことに気が付いていないのか、現世に降臨なさった江里さんがこっちを見て不思議そうに首を傾げている。
セーフ! 別に後ろめたいことをした訳じゃないけど、あんな反応をされたら江里さんをまともに見れないよぉ!
「ごちそうさまでした……ミートボール、ありがとうございます。すごくおいしかったです」
「……ん。こっち、向いて?」
明後日の方向に顔を向けてお礼を言っていたら江里さんからの宣告が。
無理だ。今向いたら鼻血出る。間違いなく出る。
なのでそのまま「ちょっと、今……無理です」と伝えたら、
「……ん」
立ち上がって歩き出した江里さんが僕の前にやってきた。
そして隣の椅子に腰を下ろして、僕の眼前でひと言。
「江里……えりって呼んで?」
「は、はひぃ!」
僕の口から漏れたのは情けない返答だった。
無理もない。まさかわざわざ江里さんが移動してきてくれるなんて予想もしていなかった。
それに本気で鼻血出そう。……ヤバい上向くしか!
鼻の奥からドロリとした生暖かい物が本当に流れてきているような気がしたので、とっさに顔を上に向けたら、
「えり……」
僕の後ろに立ち上がった江里さんが少しいじけたような表情で見下ろしてきた。
江里さんの流れるような長い黒髪がカーテンのように周りの視界を遮っている。シャンプーのものだろうか、甘い香りが鼻をくすぐり、真っ直ぐに江里さんしか見えない今の状況に、僕は久しぶりに完全にフリーズしてしまった。思考すらも停止し、ただただ江里さんを見つめることしかできなかった。
「えりって……呼んで?」
懇願するように不安げな視線を僕に振り下ろして。
確かめるように両手で僕の頬を優しく撫でながら。
――江里さんは僕に顔を近づけてきた。
……ちょっ!? 江里さん!? ヤ、ヤヤヤバイ!
「え、江里さん!?」
「……だめ。動かないで?」
とっさにそう呼ぶも、江里さんの接近は止まらない。
ゆっくりと焦らすように近付いてくる。
ななな何する気ですか江里さん!? ヒィィィィィィ!?
「え、えりさん!」
「……んっ♪ ごはん粒ついてた」
そう言って僕のほっぺたから取ったごはん粒を、にこりと微笑んだ江里さんがパクっと食べてしまった。
あぁぁぁぁぁぁぁぁ!? 江里さぁぁぁぁぁぁぁん!? それ間接キスに……ならないか。なら大丈夫…………な訳ないよ! 危うく失神するところだったよ!?
――そして僕にとっては救いの予鈴が鳴り響いた。
連絡先の交換を完全に忘れている江里さん。一体、どうするつもりなのか!?
そして12話の後書きで説明しておいた「エリ」読みの伏線を回収しました(笑
タイトルは自主規制をして♡マークを消しました。この作品は紳士淑女を対象にした健全(笑)な小説なので!
~更新宣伝~
『元中二病患者の俺がちょっとした心理学を駆使した結果、何故か学園一の美女と協定を結ぶハメになったんだが……』
http://book1.adouzi.eu.org/n0415cm/
も先程更新しました。お暇がありましたら読んでいただけると嬉しいです。以上!





