第32話 シンクロ率400%
僕がそんなポスターを見ていたら頭にねじり鉢巻きを巻いた、The魚屋さんという風貌の店主が丁度店先に出てきて言った。
「いいだろこのポスター! 御用達の店の前にはみんな貼ってあんぞ!」
「……は、はい」
「こりゃあ去年の夏頃に商店街を盛り上げる企画として、お願いして撮ってもらったんだ。ここに映ってる女神様は一般人だから、なんも教えられんけどな」
「そ……うなんですか」
ガッハッハという豪快な笑い声を上げて防水の前掛けをバチンと手で叩くと、店主は上機嫌に話し始めた。
「このポスターがよぉ、SNS? だかなんだかで図無しの美人だ! って話題になってな、気付けばこの…………」
「――すみませーん! このポスター写メ撮ってもいいですかー?」
店主が話している途中に僕よりも少し年上くらいの、きっと大学生だろうお姉さんたち4人グループがそう話しかけていた。
見ているとポスターを直接撮ったり、同じ構図で再現するように撮ったりとなんだか楽しそうにしている。
それから「VENUSさんはこの時何を買って行かれたんですかー?」と店主に聞いていた。
「この時は……この骨せんだ」
「ホネ?」
「ホネのおせんべいですか?」
「おうよ!」
お姉さんたちが顔を見合わせて首を傾げている。
そんな様子に店主が生き生きとした表情で「カルシウム入ってて、しかもうちのは油を使っていないからヘルシー」だの「よく噛むことによって小顔になるしダイエットに効果もある」とセールストークを繰り広げていた。
「ありがとうございやしたー! …………有様よ! 全く女神様は俺達にとっちゃ救世主って訳よ!」
見事お姉さんたち全員に骨せんべいを買ってもらった店主が話しの続きとばかりに、僕に向かってそう言った。
……ちょっと整理してみよう。
何故か商店街を盛り上げる企画のモデルになってる江里さん(仮)。
学校でも美人として有名だし、ここで有名人になるのも当たり前か……。
ただ、腑に落ちないのが、“コミュ障の江里さん”がそんな目立つようなことをするはずがないのだ。
……けどポスターの画像は見れば見るほど江里さんにしか見えない。抜群のスタイルもそうだけど、そもそもの背格好が完璧に一致しているような気が…………、
「……?」
僕が真面目に考察していたら、服の肘辺りをクイクイと引っ張られた。
見ればまだ若干赤い顔をした江里さんが、僕の横に立っていた。どうやら一応復活したようだ。
「……何……してるの?」
「え、いや……あのー」
江里さんに「商店街のVENUSなんですか?」と聞いてもいいのか悩んでいたら、
「おぉ! 美奈ちゃん毎度ぉ!」
「…………」
骨せんべいの補充のために引っ込んでいた店主が戻ってきて、江里さんに話しかけていた。
江里さんは店主に無言でこくりと頷いてから僕を見た。……いや、正確には僕の視線の先を見た。
……そこにあるのはポスター。
今店先に江里さんが立っているので何となくポスターと見比べたら、全く同じ構図になっているのだ。
再現率100%、シンクロ率400%。
間違いない。これやっぱり“江里さん”だ。
「……この人……江里さん?」
「……ん?」
僕が指差して江里さんに聞いたら心底不思議そうな表情を湛えて腕を組んでいた。
……あれ? なんか予想していた反応と違うぞ……。
てっきり恥ずかしがる激カワ江里さんが見れると期待してたのに。
「……江里さん、だよね?」
「……江里さん、ですよ?」
あ、あれれ? なんかおかしいぞ? 江里さんが“江里さん”だと認めているのに全くかみ合ってない気がする。
どういうことだ?
なので僕はありったけの勇気を振り絞って言った。
「……美奈さん?」
「…………あ」
……あ、ってなんだ?
「……あぅぅぅぅぅぅぅっ!?」
悲鳴にも似たかわいい声を上げて江里さんはまたしゃがみこんでしまった。
か、かわいい。
――その様を見て店主はまた豪快に笑い、僕はそのかわいさに当てられて何も出来ずに立ち尽くすのだった……。
???「江里さんのシンクロ率が、400%を超えています!」
……なのにコミュ障のふたりはズレまくって噛み合わない不思議。





