第28話 い、一緒に……帰るって……言った
……この手はいつまで繋がれたままなのだろうか? さっきからすれ違う皆の視線が痛い。
あと僕の手が汗をかいていないか不安で仕方がない。
歩き出した江里さんは繋いだ手を大きく振りながらご機嫌に歩いている。
かわいい。
緊張して横が見れないけど、絶対かわいい……なんてアホなことを考えていたらすっと手が離された。
どうやらいつの間にか下駄箱前に到着していたらしい。
「……相田くん?」
ぼけーっとしていたら江里さんがゆっくりと顔を近づけてきて、僕の目を覗き込むようにしてから言った。
ちっ、近い!?
慌てて靴を履き替えた。
「江里さん、それじゃあ……また明日」
離されてしまった手に若干の名残惜しさを感じながらも、そう告げて踵を返した。
江里さんを教室から脱出させられたし、僕のお役はここまでだ。……あれ? 江里さんに引っ張られて教室を出たのは僕の方だった気が……、
「――な……んで?」
1歩を踏み出そうとしたところで何かに身体を引っ張られた。
顔を向けてみたら江里さんが僕の上着の裾を掴んでいた。
「江里さん?」
「い、一緒に……帰るって……言った」
下唇を少し突き出して、泣きべそをかく直前のような表情で呟いた江里さん。……うん、反則的にかわいい。
恥ずかしいのかはたまた別の理由があるのか、視線は完全に地面に固定されている。うん、かわいさ有り余ってもはや神々しいまである。
あれはその場しのぎだったし、本当に江里さんと一緒に帰るなんてことになったら……大変なことになるよね? 明日には僕の席が窓から捨てられてそうな気がする……。それで、お前の席ねぇから! って言われそう。
「……ここまで」
屁理屈を捻り出して答える。
自分でも悲しくなるほどの稚拙な返答だった。
「一緒に……帰って、下さい」
だが僕の屁理屈を気にした様子もなく、それならば、といった明るい雰囲気で今度は江里さんが手を差し出してきた。
こんなことをされたら、たとえこの先に地獄が待ち構えていたとしても肯定するしかないのだ。
だって江里さんから、一緒に帰って下さい、って言われて断れる人類なんていないでしょ?
あぁ……僕は明日には死んでいるのかもしれない。
そんなことを考えながら江里さんの手を取った。
「……はい」
「……ん? ……んっ♪」
僕は普通に手を握ったのに、首を傾げた江里さんがすぐに恋人繋ぎに握り変えた。
繋いだ手を確かめるように時折、江里さんがギュッと握ってくるのがたまらなくかわいい。心が叫びたがっているほどかわいい。冗談だけど…………かっわぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!
だ・か・ら、なんで恋人繋ぎするんですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?
勘違いするよ!? こんなことされたら、人類じゃなくても勘違いするよ!?
「相田くん……かえろっ?」
「はい」
夕日を背にした江里さんが相好を崩して、促すように手を軽く揺らす。
周りには他の生徒の姿があったはずなのに、僕の視界には江里さんしか映らなかった。
それだけ、どうしようもないくらいこの光景に目を奪われてしまった。
……夕日という名の後光が差している江里さんの美しさ、かわいさは、それほどまでに神秘的だった。
早くみんなに砂糖吐かせながら、壁殴らせたいです。





