第27話 恋人繋ぎ
何がとはあえて言いませんが、先に謝っておきます。
すみませんでした!(土下寝
ホームルームを終え放課後に突入した今……僕を待っていたのはお馴染の展開だった。
「相田!」
「何があった?」
「何してたん!?」
「ふたりで遅刻とか……」
「怪しすぎるだろうが!?」
あっという間に僕の周りにだけ黒山の人だかりが出来ていた。
隣に江里さんがいるというのに、そこは皆器用に避けている。……怖いよこの団体。統率取れすぎでしょ。
「……べ、別に……」
「別に!?」
「別にとは!?」
「別にの意味はよ!」
「別に、なんだよ?」
急かさないで!
コミュ障は急には喋れないし、そもそもこんな場で喋るなんて僕には荷が重すぎる……、
「だめーっ!」
胃がキリキリと痛むのでお腹をさすっていたら――喧騒に負けないような絶叫にも似た声が響いた。
見れば江里さんがブレザーの裾をギュッと両手で握りながら、伏し目がちにこっちを向いていた。
皆の視線が江里さんに注がれる。いや、刺さるといった方が僕たちコミュ障にはあっているかもしれない。
「とっ……とら………………」
それ以降江里さんは完全に俯いて沈黙してしまった。……虎!? 虎ってなんだ!?
クラスメイト達もどうすればいいのか困ったように動かない。
これは江里さんが勇気を振り絞って作ってくれたチャンスだ。この場を離脱するなら今しかない!
覚悟を決めて僕は言った。
「か、帰ろう……江里さん」
便宜上江里さんに向けて片手を差し出した。
その方が一緒に帰りましょうという感じが伝わるかと思ったからだ。
手は握られることはないとして、袖でも掴んでもらえたらいいやぐらいに考えていたんだけど――正直こうなるとは予想だにしていなかった。
その反応は僕を含むクラスメイト達が今までもっていた、
江里さん=美女
というイメージを根底から覆すような反応だったからだ。
「……んっ♪」
弾むような返事と幼い子供のように大きく頷いた江里さん。
この動作だけでもかわいいというのに、その表情の破壊力がとてつもなかった。
頬に薄紅を溶かし、仄かに潤んだ瞳を真っ直ぐにこっちに向けて。
はにかむように僅かに歯を出して、僕の手を握った。……しかも俗に言う恋人繋ぎで……だ。
あががががががががががががが!! 恋人繋ぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!? えぇぇぇぇぇぇぇ!? なんでぇぇぇぇぇぇぇぇ!?
頭を鉄のハンマーで思い切り殴られたうえに、高圧スタンガンを脳天に当てられたような衝撃が走った。
腰が砕けるような感覚とでも言えばいいのか、とにかくとんでもないインパクトだった。
「相田……くん?」
無自覚の一撃を放った江里さんは更なる追撃をかけてきた。
窺うような上目遣いにちょこんと小首を傾げて、楽しむように繋いだ手を微かに揺らしながら。
僕、昇天寸前。
これはまずい、江里さんのあまりの可愛さに意識が持ってかれ……、
「あべし!」バタッ
「ちにゃ!」バタッ
「ひでぶ!」バタッ
「たわば!」バタッ
「うわらば!」バタッ
「ウボァー!」バタッ
「南無三宝!」バタッ
「目が、目がぁぁぁ!?」ドタッ
「笹が、笹がぁぁぁ!?」ドサッ
――バタッ! ……バタバタバタバタッ!!
僕らの周りから様々な断末魔の悲鳴が聞こえてきた。
見れば、周りにいたクラスメイト達というか、クラスの全員が倒れていた。
白目をむいていたり、泡を吹いているのはまだマシで、ブツブツと呟いている人と血の涙を流している人は完全にサイコホラーの様相を呈していた。
怖っ! ……なんでみんな急に倒れたの!? ちょっと待って……どういうこと!?
なんて考えていたけど、僕にはなんとなく分かった。
皆江里さんのギャップにやられたのだ。
僕は何度かその片鱗を見てきていたからなんとか耐えられたけど、江里さんをクールビューティーだのミステリアスだのと考えていた皆にはショックが強すぎたようだ。
……冷静に考えて、なんで皆いつもこんなにノリがいいの? 後テンション高すぎ!
「……いこっ?」
「……は、はい」
――こんな混沌を気にも留めていない江里さんは、僕の手を引っ張って歩き出したのだった。





