第19話 へんじがない。江里さんが おちこんでいる ようだ。
「江里さん、ありがとうございました」
ランチタイムを終え、レジャーシートにお邪魔させてもらったこと、タコさんと更に卵焼き、アスパラのベーコン巻きまでお恵みして下さったことの感謝を伝えた。……本当ならば五体投地して礼拝するべきなのかもしれない。
江里さんはお弁当を片付けながらこくっと頷き、
「そ、それでっ! お返しは……?」
窺うように視線をこちらに向けた。
そういえばさっきは返事をしないでうやむやになっていた気がする。
「お昼……一緒に、でしたっけ?」
「……ん。毎日……一緒に」
……あれ? あれれ? 僕の記憶が間違ってなければ、確か「明日も、一緒に」って言ってた気がするんだけど……。
普段通りの表情を浮かべている江里さんを見る限り、誤魔化してやろう! みたいな意思は感じられない。そもそも江里さんがそんなあくどいことをするとは思えない。
そうか、あれは僕の記憶違いだったのか……。
答えはもちろん決まっている……、
「……ごめんなさい」
謹んで辞退だった。
……そりゃあ、僕だって「はい、よろこんで!」とか「ははーっ!」って言いたいさ!
けど、今し方の全校生徒が注目という出来事を考えれば断るしかないのだ。
別に僕が悪目立ちしてどうこう言われるのはいい。
ただそれが江里さんに及んでしまうことが嫌なのだ。
早い話、僕の身勝手なワガママである。
「……そ、うですか……」
唇をきゅっと一文字に結び、瞳は曇り、目を伏せた江里さんが物悲しそうな儚い表情を湛えてゆっくりと頷いた。
……あぁぁぁぁ! い、痛い! 心が痛い! 僕はなんてことを!
悪いことなんてしていないはずなのに、僕の良心が悲鳴を上げているのが分かる。
江里さんを思っての決断だ。
心を鬼にするしか……僕は間違ってないよね……?
僕が罪悪感に押しつぶされそうになっていたら、江里さんは徐々に小さくなっていった。文字通り体育座りになって縮こまってしまったからだ。
……だめだ、やっぱりダメだ!
僕には耐えられない。
江里さんにこんな悲しげなオーラを纏われて尚、断ることなんて出来やしない。
――ついには顔も伏せてしまい、微動だにしない江里さん。
「え、江里さん?」
返事はなく、指先すらピクリとも動かない。
「江里さーん?」
やっぱり動きはなかったが、長いため息だけが聞こえてきた。
……仕方ない。この状態で伝えるしかないか。
「すみません……先程のは冗談で――」
「……っ!?」
電気が走ったようにビクッと震えた江里さん。
もしも江里さんに猫耳が付いていたならば、きっと今はピンと立っているような気がする……。
「お昼、一緒に……お願いします」
「……んっ! んっ! んんっ! ん゛~っ!!」
音がしそうな勢いで突如顔を上げた江里さんは、涙目だったが満面の笑みを浮かべて何度もこくこくと頷いていた。
――こうして僕らの初めてのランチタイムは江里さんの頷きとともに幕を下ろした。
江里さんの中ではこうなっています。
タコさん⇒明日
アスパラのベーコン巻き⇒半年
卵焼き⇒毎日
闇金みたいな跳ね上がり方……江里さん意外と鬼畜。
ただ悪意は一切ないので、余計にタチが悪い。





