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96話

 ディアンドルとは、『お嬢さん』という意味の、ドイツやアルプス地方などの民族衣装。サマードレスとして好まれ、山岳地方では女性用の作業着であった。


 ボディスと呼ばれる袖のない胴衣やブラウス、ロングスカートやエプロンが基本となり、季節によって多少の生地が変わったりする。チェック柄やシンプルな無地のものが多く、華やかで彩りが豊かで個性も出しやすい。


 これが……! と、高まるテンションを抑えきれず、アニーはそのディアンドルを天に掲げた。見たことも聞いたこともあったが、実際に着たことはない。


「初めてっス! 結び目は……よくわかんないっス……」


 それゆえに知識もない。結び目なんてなんでもいいのでは? というか、気にしたこともなかった。


 そんなアニーに、テオはあっさりと解説する。


「既婚者だったり、恋人がいる人は自分から見て右側。フリーの人は左に結ぶ。もう今は廃れてしまったけど、未亡人やウェイトレスは後ろ、子供は前、なんてのもあって。それぞれ自分にあった場所に結ぶ」


 アニーちゃんはどうする? と、言葉を投げかけ、選択の余地を与えた。


 むぅ……と、四択に迫られたアニーは難しい顔になる。


「複雑っスね……ボクはウェイトレスですけど未亡人じゃないし、恋人がいるわけでもないし、フリーだから誘っているというわけでもない……子供じゃないですけど、一番近いのは前、ですかね」


「……」


「? どうしたんですか? 変ですか? 前」


「……実は子供っていうのはね……いや、アニーちゃんがどうかはわかんないんだけど、つまり子供っていうことは……」


「?」


 歯切れの悪いテオの言葉に疑問を持つアニーだが、その意味を耳打ちされ、紅潮すると、即座に変更を要求する。


「! あ……あ、う、後ろにしときます!」


 はわわ、と手を振り回してなにかを打ち消す。そういう宣言をするつもりはない。


 なんだかとても悪いことをしたような気がするテオは、優しくフォローする。


「まぁ、最近はあまり意味もなくなってきたんだけどね。昔からの習慣、て感じだから」


 実際、日常ではないものの、少しでも可愛く着るためにコルセットや、色鮮やかなエプロンに変更したりして、結び目を気にしない人も多い。


 だが、初心者のアニーにとっては、中々手強い着衣のようだ。


「侮れないっス……ディアンドル……!」


 両肩の部分を掴み、穴が空きそうなほど睨みつける。まだ顔が赤いのが自分でもわかる。恥ずかしいっス……。


「まぁ、慣れなかったらいつものでいいからね。新しいのを新調したてで、ついでに買ったやつだから」


 助けてもらっている以上、やりやすい形でやってもらいたい。それがテオには一番。そもそも、ディアンドルは用意してあるだけで、制服と誰かに宣言しているわけでもない。時と場合によっては自由。

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