320話
自分の知らない知識。今後使うかどうかなどわからないが、こうして蓄えていくことにユリアーネは喜びを覚える。
「ありがとうございます、アニーさんにも伝えておきます。それでなのですが——」
《あぁ、クヴァークを使ったケーゼ・クーヒェンだったね。すでにあれはあれで完成しているから、足しすぎてもよくないとは思うね。食べ方を変えるほうが得策かもしれない》
話を戻すジェイド。というかこれがメイン。友人がドイツに旅行した時のお土産。それで味わったチーズケーキを思い出す。その友人も「本当は二種類あったんだけどね。食べてしまったよ」と笑いながら話していた。
それについてユリアーネが食いつく。
「と、言いますと?」
《タルトにするとかね。カボチャなどと合わせても美味しいだろう。他にはレモンピールを乗せたケーゼ・クーヒェンやキャラメルなどもシンプルでいい。紅茶やコーヒーの味も美味しいかもしれないが、欲張ると全てが中途半端になるからね。ま、私なら、ってだけだけど》
ジェイドといえど、さすがに専門店ほどのレシピは持っていない。なので思いついたことをつらつらと。せっかくなのでこのあと作ってみようか。
すでに先人達が色々と試した結果、余分なものが削ぎ落とされて今の形が出来上がっているわけで。普通に思いつくようなものはだいたい試されている。そういった知恵はありがたく継承させてもらう。真似させてもらう。
ふぅ、とユリアーネは息を吐く。たしかに。新しい技の習得に時間を割くより、持っている技を磨くほうがいい時もあるのだろう。
「ありがとうございます。参考になります」
コーヒー。自分にはコーヒーしかないのだから。配られた手札だけで勝負する。当然のこと。他のことなんて。考える余裕なんて。
さらにジェイドは続ける。
《それに——》




