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310話

 旧名を『シャルロッテンブルク通り』、その後『六月十七日通り』と改名された、全長四キロ弱ほどの通りがベルリンには存在する。一九五三年六月十七日、ソ連軍による鎮圧で多数の犠牲者を出した『東ベルリン暴動』に由来しており、毎年九月に行われるベルリンマラソンのスタート地点ともなっている。


 そしてこの通りで有名なことといえば、ベルリン市民にはお馴染みの『蚤の市』である。多くの通りで開催されている蚤の市ではあるが、場所によって特色が違ったりして面白い。電化製品や古着が中心のものもあれば、家具や革製品などが多いところも。


 毎週土日の午前中から夕方まで開催される『六月十七日通り』の市では、アンティークな商品を多く取り扱っている。絨毯やキッチン雑貨など、少々他の市と比べても高額なものも多いが、その中でも注目されているものが——。


「いやー、やっぱりたまには来てみるもんスねー。幸せっス」


 各々が自分なりの店を出し、こだわりを持って提供する。その空気感。ザワつき活気のある屋台。アニーにとって、その熱気がとてつもなく心地いい。


 少し曇り気味のベルリン。特にヨーロッパは十二月は天気が悪いことが多く、月の日照時間が五十時間ほどしかないところも多々ある。その例に漏れず、シャルロッテンブルク=ヴィルマースドルフ区も午後からは雨予報。しかしそれでも、この蚤の市を生活の一部にしている人々は全てを楽しむ。


 全くもってなにに使うのかわからないような雑貨も。誰が描いたのかわからないような絵画も。どんな料理をするためなのかわからないキッチン用品も。そしてそれを売る人々も。目的もなく立ち寄る人々も。なにもかもがたしかな『熱量』を持っている。


 どこか異国の地で作られ、製作者も意図していないこのベルリンまで流れつき、なんの因果か買われて。またいつの日かジャンク品として蚤の市で売られるかもしれない。ノスタルジック。一期一会。どんな傑作に出会えるのか、それとも出会えないのか。神にしかわからない。

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