308話
うんうん、とリディアも頷く。
「いいねぇ。それは私も食べたことないよ。アニーのレシピは無限だねぇ」
まだまだ知らない世界。本を読んでいるだけでは出会えないこと。この少女達といれば、きっともっと面白いふうに物事は転がっていくと確信。
えへん、と胸を張るアニー。褒められるのは好き。
「でも作るのはビロルさんとオリバーさんと店長です。たしか、以前作ってもらったものの残りがどこかにあったはずっス。ぜひぜひ」
少し前にオリバーと店で話した時、試作したものを瓶詰めして保存食としていたことを思い出した。新メニューという考えで作ったわけではなかったが、なんだか合いそうで。思い立ってキッチンまで飛び込んでいく。
その後ろ姿を見送りながら、リディアは少々の呆れ顔。
「このあとは寝るだけじゃなかったのかねー。ま、楽しそうならいいけど」
「……」
「ん? どうしたのユリアーネ。なにかあった?」
思い詰めたように顔を伏せるユリアーネに、不思議そうにリディアは問いかけた。
その理由。あまりに眩しすぎる太陽を、ユリアーネは直視。できない。
「……私は、お店に貢献できているのか、時々考えてしまうんです。結局はこうやって、アニーさんやビロルさん達に全て任せてしまっていて。ただの幸運だけで生きている気がして」
幸運。それを持っているだけでも充分に恵まれているのはわかっているけども。ここまで全て人にも環境にも。トントン拍子に物事が進んでいくのを、自身は指を咥えて見ているだけになっている。それが。歯痒い。
ふむ、と瞬時にリディアは把握し、第三者の立場から冷静に物言い。
「キミはオーナーなんでしょ? 上司なんだから、あんまりでしゃばんないほうがいい。より良い働く『環境作り』に専念でいいんじゃない? そういった意味では、どんどん下の者がアイディアを臆せず出せる今は、理想的だと思うけどね」
スタッフが働くことを楽しいと思えている今を提供できている。ならば立派に実務をこなせている。それは簡単なことではないのだから。




