306話
アニーとユリアーネは、よくお互いの家でこうして語り合い、そして眠る。今日もそのはず、だった。だがユリアーネが「なぜリディアさんがここに?」と問うと、アニーから「ボクが呼んだんスよ」と返されてしまった。あっけらかんと。無邪気に。無垢に。
パリに行っている間もこうやって深夜に三人で話し続けることはあった。だからそれ自体は別におかしいことではない。だが、ユリアーネにとって家の中というものは。なんというか、二人だけの秘密基地のような、花園のような感覚があって。でも不思議とこの少女は。居心地がいい。
そんな思考を遮るようにリディアがさらに身を乗り出す。
「私も働くわけだからさ。力になれることあったらなんでも言ってよ。接客でもメニューでもなんでも」
時期も重なりたしかに〈ヴァルト〉は忙しさに拍車がかかり、手があれば借りたい状況ではある。だが。
「働きません。リディアさんはまだ年齢が達していませんから。違法です」
そこはユリアーネはきっぱりと。やっていいことと悪いこと。そこの線引きはしっかり。
当然ながらドイツにも労働できる年齢の下限は存在する。ばっちりリディアは未成年労働保護法に引っかかるため、給料を受け取ることができない。もしバレた場合、雇った側にも相応の罰則が下される。
それでもリディアは食い下がる。面白そうなことには全身丸ごと突っ込むタチ。
「働くのは初めてじゃないんだけどねー。結構人気あったんだよ? 今も惜しむ声があったりなかったり」
きっとボランティアで幼稚園や病院、福祉施設などに行った際のことを言っているのだろうとユリアーネは判断。それは労働とは違う。ゾツィアーレ・ディーンシュト。いわゆる社会サービスの一環になる。
「それでもダメです。変な噂がたっても良くありませんし」




