298話
「お前がワンクッションいてくれるから、好き勝手やれるってことだな。よかったなー、信頼されてて」
全く羨ましくなさそうな声色のビロルが付け足す。自分じゃなくてよかった。荷が重すぎる。
庭……そういえば昔、フローリストに憧れていた時期もあったことをカッチャは思い出す。手のヒビ割れとかキツそうだけど。早起きも苦手だけど。
「庭師……いや、てか誕生日おめでと……でいいの? もうとっくに過ぎてんでしょ? ウルスラ」
そういえば言い忘れていたこと。歓迎会含めどちらかというと、主役はそちらのはず。なんだか申し訳なさ。
もてなす側であるウルスラとしては、周り人々に楽しんでもらえれば、自分のことのように嬉しい。むしろ、そっちであってほしいくらい。
「ありがとうございます。祝っていただけるのはいつでも嬉しいです。私も少しだけですが作るのに手伝わせてもらいました。まぁ……あまり役に立ってないですけど」
「そんなことありませんよ。プータルフリはウルスラさんからのリクエストです」
どのプレートにするかオリバーが悩んでいたところに入り込んできた。そして決まってしまうと、それ以外にはないくらいにハマっている気がしてくる。やはりテーブルウェアは素晴らしいと再認識。
そんなふうに褒められるとウルスラとしてもどう反応すればいいのか。困るし恥ずかしいが、やっぱり嬉しさも。
「でもすごい感覚的に言っただけだから」
「まぁまぁ。ささ、ウルスラちゃんも座って。二人から先に食べちゃって。そうしないとみんなも食べられない」
なんだかこのままずっと話し続けていそうな雰囲気を悟ったダーシャが、席を立ちながら促していく。
向かいにウルスラが座ったことを確認し、周囲の視線を気にしながらもカッチャはガレットを手で掴む。
「じゃあ……おめでと」
もう一度伝えておく。軽く乾杯のような仕草を交わす。この行為に意味があるかはわからないけど。




