294話
先ほどからキッチンでなにかやっていることにはカッチャも気づいていた。そしてそれがこのお菓子であることも。
「……で、なにこれ。なんのやつ?」
まるでベーグルのように真ん中が浅い。そしてそこには乳白色のアイスが乗っている。中々持ち帰るまでに溶けたり崩れたりしそう。それが第一印象。そして美味しそう。
解説はユリアーネから。こちらも先ほど到着したばっかり。
「ブリオッシュ生地で作ったコーヒー風味のガレット・ブルトンヌ。それにショコラーデとキリテーのアイス乗せです」
「これを最初にカッチャさんに食べてほしかったんです。秘密にしていてごめんなさい」
あまり気持ちのこもっていないアニーの謝罪。というのも、まだ本人もちゃんと味見をしていない。作ったのはビロルなので、仕方ないと言えば仕方ないが。
なんだか休みの日に来ている二人に、少々カッチャも気圧される。制服は見たことは何度もあるが、私服は珍しい。年齢がちょっとだけ近づいてきてしまったような寂しさ。
「それはまぁ……いいけど」
よくはないけど。まぁ、いいか。大人の対応。いや、やっぱり秘密にされるのがよくわからん。たぶん、なにも考えていないだろう。アニーが言い出したと個人的な結論。
そのアニーが誇らしげに語り出す。
「実は誕生日、というのも兼ねてるんスよ。なにか用意できないかなと」
温かい視線が集まる。みなの微笑み。祝い。そう、今ここは祝いの場。フワッとした、浮き上がるような不思議な感覚にカッチャは襲われる。なにかこう、込み上げてくるような。しかし気になることも。
「……ひとつ言っていい?」
「なんスか?」
首を傾げたアニーが聞き返す。ここまでは順調。なにか問題でも?
「私、全然誕生日じゃないんだけど。あとなんで二つあんの?」
一瞬でカッチャの顔つきも心も曇りだす。場の空気感が凍りついたのを確認。




