292話
その様を見て、数秒カッチャは考え込む。一歩引き、目を細めてみる。それになんの意味があるかはわからないが、ひとまずは満足感を得る。
「……いや、なんでもないわ」
この子はシロ。勘がそう告げている。続いて。
「オリバーくんは? なんか知ってる?」
この店一番と言ってもいいかもしれないクセの強さを持つ男。キッチンにいるところに詰め寄ってみる。
ちょうど調理を終えたところのオリバー。知っていること。問われていること。それはつまり。新しく仕入れてもらったアレ。
「ヴィヒキルースのマグカップのことですか? お目が高いですね、それは二〇二三年の春から夏にかけてのみ販売したものでして。マイヤ・イソラのデザインはやはり、心に染み渡りますね。ちなみにヴィヒキルースとは——」
「ビロル。あんたもなんか一枚噛んでんじゃないの?」
遮るように無表情でカッチャは、そばにいるもうひとりの男に詰めていく。一番この男が怪しい、と睨んでいる。理由? なんとなく。
ちなみにヴィヒキルースとは、フィンランド語で『ウェディング・ローズ』を意味する。花と葉の部分で様々な色の組み合わせをした、カラフルでポップな薔薇の花の絵柄。
休憩でなにを食べようかな、と考えていたところに話しかけられたビロルは、軽く立腹。疑われているのがわかるから。
「あ? なんで俺なんだよ。なにかある時はだいたいアニーだろ。あいつに聞け」
この店の問題の大多数はヤツのもの。個人的な感情で責められることについては納得いかない。
……言われてみるとたしかにそう。なのだが、カッチャにとってはこの男が主犯であってほしい気もする。なんだかんだ、アニーやユリアーネ、ウルスラは悪いことを考えないでもらいたい。悪いことかどうかは知らないけど。なので。
「……あんたに正論を返されると倍ムカつくわね」
というところに落ち着く。わかってはいる。どうせヤツの仕業だろうと。
「なんでだよ。いいから時給ぶん働け」
働かないのはアニーだけで充分、とビロルは指摘。結局、いてもいなくてもあいつは話題の中心にいる。パリの行っている間に再確認した。




